家族に誘われて、2026年8月22-24日の2泊3日で北海道に行ってきました。北海道は何度か仕事で訪ねたことがあるのですが、今回のように自由に企画できる旅は初めてです。折角の機会なので、数回に渡り「北海道とジャズ」をテーマに取り上げます。
北海道取材の第1弾は、地域の木材を生かしたギターを作っていらっしゃるShikagawa Guitarsの鹿川慎也さんです。
※本記事は連載「北海道とジャズ」の第1弾と、連載「名工に聞く」の第3弾を兼ねています。

鹿川さんは新千歳空港と札幌の間に位置する恵庭市にて工房を開いていらっしゃいます。私は、若かりし頃に生態/植生の調査・提言のお仕事をしていた時期があり、地域材のギター活用は大きな関心テーマでして、お声がけをさせて頂きました。
では鹿川さん、宜しくお願いします。
◼️生まれ故郷で立ち上げた工房、道産材の活用をテーマに
元々工作好きな少年で、中学生のときにギターと音楽に出会ったことで「ギター製作家になりたい」という夢を抱くようになりました。その後、ギターメーカーESPでの木工・塗装業務や、母校であるギター製作専門学校での講師職を経て、2015年に生まれ故郷である北海道恵庭市に「Shikagawa Guitars」を立ち上げました。現在は一人でギター・ベースの製作と修理を行っています。

工房のコンセプトとして、北海道産の木材を積極的に活用し、今までにない音色の研究、地元の林業振興や地域資源の循環に貢献することを大きなテーマとして掲げています。自分の手で作る楽器の素材に対して責任を持ち、地域の豊かな森や林業の現場と一体となったものづくりを目指しています。
◼️木材選びはギター製作における重要なプロセス
ギター製作において木材選びは「音の立ち上がり」や「トーンの方向性」を決定づける重要なプロセスです。
アコースティック(生音)では木材自体の響きや振動特性(密度の高さやしなやかさ)がダイレクトに音に影響しますが、エレキギターやピックアップを通す音(電気音)においても、ボディやネック材が持つ「どの周波数を鳴らせたいか/あえて抑えたいか」という音の骨格がそのまま出力音に反映されます。なので欲しい音のニュアンスに合わせて木材の種類や組み合わせを選定しています。

◼️使用している北海道材の種類・特徴・活用部位
主に以下のような北海道産木材を活用しています。
(1)ネック材
・メジロカバ:適度な重量と粘りがあり、ネック材として高い安定性と美しい音のレスポンスをもたらします。
(2)ボディ材
・タモ:しなやかさと強度を備え、抜けの良さと芯のある低〜中音域の響きを引き出します。
・イタヤカエデ:密度が高く硬質なため、クリアで抜けの良い明瞭な高音域を生み出します。
・クルミ:温かみのあるアコースティックな響きと、素朴で魅力的な木目が特徴です。
・キハダ:軽やかで独特の鮮やかな色味を持ち、ニュアンス豊かなトーンをもたらします。
・セン:美しい木目と素直な音響特性を持ち、ボディ材として非常にバランスの良い鳴りを提供します。
・アカエゾマツ:北海道を代表する針葉樹。豊かな振動特性を活かし、ボディの鳴りを引き立てる素材として活用しています。

◼️製作ギター ラインナップ ※本記事の下段に具体紹介
(1)Shikagawa Guitars(カスタムオーダー/ハンドメイド)
Web : https://www.shikagawa-mi.com
Instagram : https://www.instagram.com/shinya_shikagawa?ref=badge
一本一本を手作業で丁寧に仕立てる主力ライン。プレイヤビリティと音色の美しさを追求したカスタムギターです。
北海道材の活用:ネック、ボディトップ/バック等に厳選した北海道産材を使用。
(2)nou Wood Guitars(新ブランド/ファクトリーメイド/地域材活用モデル)
Instagram : https://www.instagram.com/nou_wood_guitars_hokkaido/?hl=es-la
地域木材の魅力をより多くの方に届けるために立ち上げたブランド。「森から出てきた材に合わせて作る」をコンセプトに、そのシーズンで採れた木材に合わせて作る限定生産品。木材それぞれの個性をデザインや設計に活かしたものづくりを行っています。
北海道材の活用:北海道産の未利用材や地域材を積極的にデザイン・構造に取り入れています。
◼️ギター選びは自分の感性や直感を大切に
ギターを選ぶ時は、スペックやブランド名などの情報にとらわれず、手に持ったときのフィット感や「弾いていて気持ちが良いか」というご自身の感性や直感をぜひ大切にしてください。木材による音の反応速度やネックの握り心地は、演奏表現に大きく影響します。
また、一生モノとして長く付き合っていくためには「親切なリペアマンがいるお店で購入すること」も非常に大切なポイントです。特にトラスロッドの効きがしっかりしているか、今後数十年のネックの動きに対応できる調整幅の余裕があるかを事前に対面で確認してもらえると、なお良いですね。信頼できるサポート環境のもとで「自分の身体の一部のように素直に鳴ってくれる一本」を選ぶのがおすすめです。

◼️自分の音づくりは、深く知ることから
自分の音づくりについては「自分は何を表現したいのか」「どんなトーンが好きか」を深く知ることが第一歩かと思います。アンプやエフェクターなどの機材調整だけでなく、ピッキングの強弱や当てる角度など、タッチ一つで木材の鳴り方は大きく変わります。自分の手元から出る「素の音」と向き合うことで、自分だけのオリジナリティある音が見つかるのでは思います。
◼️北海道材ギターの魅力を道内外に伝えたい
北海道は植生の関係で世界的に見ても樹種が非常に豊富です。私自身もまだまだ使ったことのない木材があるため、これからも北海道材の可能性を切り拓き、新たな音色を探求していきたいと考えています。
また、北海道の林業事業者様への取材など、実際に木が切り出される現場(林業の最前線)との繋がりをより深める取り組みも進めています。単に木材を消費するだけでなく、森から楽器へ、そして音楽へとつながる一連のストーリーを伝えられる木工・楽器づくりを目指しています。Shikagawa GuitarsのPodcastや、展示会への出展などを通じて、北海道材ギターの魅力を道内外へ発信していくことにも挑戦しています。

◼️読者へのメッセージ
1本のギターの背景には、それが育った森や木材、そして作り手の想いが詰まっています。北海道の豊かな自然が育んだ木材は、他にはない素晴らしい響きと個性を持っています。ジャンルを問わず、ご自身の音楽に寄り添い、共に育っていけるような相棒となる一本に出会っていただけたら嬉しいです。
◼️ 鹿川 慎也(しかがわ しんや)さん プロフィール

1987年北海道恵庭市生まれ。ギターメーカーESPにて木工・塗装を担当した後、母校であるギター製作専門学校の講師として勤務。2015年に地元・恵庭市にて「Shikagawa Guitars」を設立し、ギターとベースの製作および修理を行っている。北海道産木材を活用したカスタムギター製作をはじめ、地域材を生かした新ブランド「nou Wood Guitars」などを展開。9歳と11歳男子の二児の父。趣味は釣りとサイクリングとスパイスカレー作り
Shikagawa Guitars https://www.shikagawa-mi.com
◼️Shikagawa Guitars「Sol」


◼️Shikagawa Guitars「Sol 14.5″」

Sol 14.5″ AkaEzo:Set neck 22Fret、Scale : 25″(635mm)、Body width : 14,5″(368mm)、Neck : メジロカバ(北海道産)、Fingerboard : Ebony、Body : Top / アカエゾマツ(北海道産) , Back / オニグルミ(北海道産)、Pickup : Lindy Fralin Humbucker、Electronics : 1vol 1tone 1sw



Sol 14.5″ Tamo:Set neck 22Fret、Scale : 25″(635mm)、Body width : 14,5″(368mm)、Neck : メジロカバ(北海道産)、Fingerboard : Ebony、Body : Top / タモ(北海道産) , Back / オニグルミ(北海道産)、Pickup : Lindy Fralin Humbucker、Electronics : 1vol 1tone 1sw

Sol 14.5″ Set neck 22Fret、Scale : 25″(635mm)、Body width : 14,5″(368mm)、Neck : メジロカバ(北海道産)、Fingerboard : Ebony、Body : Top / ポプラバール(北海道産) , Back / クリ(北海道産)、Pickup : Lindy Fralin Humbucker、Electronics : 1vol 1tone 1sw
◼️Shikagawa Guitars「Dorado Bass DC/SC」

Dorado Bass DC5:Bolt-on 24Fret、Scale : 34”、Neck : Maple 、Fingerboard : Ebony、Body : Top/タモ(北海道産)、Back/オニグルミ(北海道産)、Pickup : Dalano、Electronics : vol /Balancer / Delano 3Band EQ

Scale : 33″、Neck : Maple、Fingerboard : Ebony、Body : イタヤカエデ(北海道産)/オニグルミ(北海道産)、Pickup : Nordstrand、Electronics : 2 vol / 1 Tone
◼️nou Wood Guitars【 Model : Terra 】

◼️参考:連載「名工に聞く」過去記事
「名工に聞くvol.1 山岡則正さん」(岡山)
https://jazzguitarnote.info/2019/08/20/yamaoka/
「名工に聞くvol.2 オカダ・インターナショナル」(東京→神奈川)
https://jazzguitarnote.info/2022/10/02/okada-international/
◼️参考:地域材をテーマにした過去記事
「国産杉をギター材に使う?」(奈良県 吉野杉)
https://jazzguitarnote.info/2019/12/14/yoshino-sugi/
「桜材とE7一発」(ソメイヨシノ)
https://jazzguitarnote.info/2021/03/18/cherry/
◼️最後に(編集者から)
日本は南北に長い国であるため、北海道は国内でも独特の植生となっています。
植生というのは植物集団の種類で、気候(気温や降水量など)や環境条件(地形・土壌など)、人の手がどの程度加わっているかといった条件で決まります。北海道の大部分は「北方針・広混交林」と呼ばれ、エゾマツやトドマツなどの針葉樹と、ミズナラやシナノキ、ハルニレなどの落葉広葉樹が混ざり合った植生です(ちなみに横浜は常緑広葉樹林帯(別名・照葉樹林)に入ります)。
最近は、世界的なネイチャーポジティブ(自然再興)の流れもあり、ギター素材においても「森林の再生」「人工素材の導入」「ローカルウッド(地産材)活用」といった、新たな取り組みが世界中で行われています。一方で、地形が急峻で、地権者が曖昧な日本の林業界は、なかなか古いシステムから抜け出せないでいます。
私たちギターを選び買う側は、どうしてもローズウッド、マホガニー、エボニー、スプルースといった従来のブランド材に惑わされてしまいますが、作り手と使い手が一体となって、新しいギター材の開拓を目指せたら良いですね。
鹿川さんの先進的な取り組み、心から賛同・応援いたします。この度はご多忙ななか、取材ご協力ありがとうございました。
(ご案内)xにて記事の新着をお知らせしています。https://x.com/jazzguitarnote