国産杉をギター材に使う?

先週、お仕事で、奈良県の吉野に行ってきたんです。

写真は成人女性(会社同僚)。樹齢200年以上なのに細径。

吉野には日本が世界に誇る、世界最古クラスの人工林があって、樹齢200年以上を含む杉の巨木が立ち並んでいます。

巨木の森と言えば、富士山の大沢崩れの横尾根でも見たことがあります。樹種はオオシラビソ(イラモミ?)の天然林で、何人かで手を繋がないと幹回りを囲めないほどの大径木がそそり立つ空間。樹齢何百年の樹々に囲まれ、霧も出ていて「ココは地球なのか?」と思うような、霊峰富士らしい幻想的な体験でした(決して誇張ではありません)。

このような「天然林」は、言葉通り自然にできた植生です。ところが吉野のような「人工林」は、意図的に作らないと成立しない。吉野の川上村で人工造林が始まったのは1500年頃、なんと室町時代ですよ。極端な密植と弱度の間伐を繰り返す吉野独特の施業方法を確立し、200年以上の巨木からなる森を人工的に作り、維持している訳です。

日本の山は起伏が激しく、林業の施業にも手間が掛かります。反面、その地形によって風が防げるため、うまく管理すれば天然林のような巨木の森が育つのだそうです。にわかには信じがたいでしょ?

経済効率性を考えると、大規模な機械を入れて3050年で皆伐した方が良いという説が有力。森林資源を活用したバイオマス発電も、これから益々重要になってくるでしょう。また木材も昔ほど高値で売れません。

つまり現実的には、吉野のような施業経営を何処でも採用できる訳ではない。ただ持続可能な森として、世界から視察が訪れる吉野のような森を大切にしたいし、少しづつでも増えてくれることを期待してしまいます。

さて、私は林業や森林の専門家でもないので、そろそろ寄り道は止めて本題に進みましょう。

 

広葉樹と針葉樹。シダーと杉(Sugi

メイプル(カエデ)アルダー(ハンノキ)アッシュ(トネリコ)などの広葉樹は、比較的、身の詰まった緻密な材です。また広葉樹は、バーズアイやバール、タイガーストライプ(虎目)などの杢目が美しいことで知られます。

一方、針葉樹材は広葉樹材に比べて一般的に柔らかい。そして細胞の構成が小さく整然と並んでおり、スッキリした木目が特徴です。クラシックギターでは「鳴り」を出すために、表板としてレッドシダーやスプルースが使われます。

 

■鳴りについて

演奏家やジャンルによって「鳴り」の嗜好は様々です。

さらに、電気ギターの場合は音をピックアップマイクで拾うため、ボディが鳴れば良いというものでもない。必要以上に鳴って欲しくないという観点もあるでしょう。またジャズギターでは、ガットギターも使います。ガットギターに求める音も、人によって千差万別です。

追求していけば共通する許容範囲は存在しているはずですが、多様なニーズに応える多様なギターがあって然るべきで、それを具体化する「材」にも無限の可能性がある。ハカランダやマホガニーの輸入が難しくなったいま、日本の針葉樹材にも今まで以上に期待が寄せられています。

(余談1)広葉樹は木目が広いほど、針葉樹は年輪が狭いほど、強度が高いそうです。

(余談2) よく耳にするレッドシダーは米杉と訳されますが、レッドシダーはスギではなくヒノキの仲間。混乱を避けるため、日本の杉を英訳するときは「Sugi と記したりします。

 

■201910月、吉野杉を使ったクラシックギター完成

今年10月、奈良県・奈良県森林技術センターは、推定樹齢200年以上の杉材を使って制作したクラシックギターを公開しました。表板として吉野杉を使用しています。

ギター製作: 丸山利仁さん

https://youtu.be/oXkyJxT8j_k

http://www.nararinshi.pref.nara.jp/r1_houdou.html

 

奈良県森林技術センター 岩本さん・酒井さんに聞く

奈良県森林技術センター 岩本さんと酒井さんに、打合せの合間を使って、吉野杉のギター材としての可能性をお聞きしてきました。

(左)岩本さん (右)酒井さん

多様なギターのニーズが存在する中、吉野の杉についてギター材としての可能性を伺いたいと思います。

Q まず基礎知識として、広葉樹材と針葉樹材の、一般的な響きの特性について教えてください。

「クラシックギターの表板にスプルースやレッドシダーなどの針葉樹が使われています。これは裏板に使われる広葉樹に比べて、密度が小さく、加振部において振動が伝わりやすいという特徴をもっているからです。音響変換効率に優れている、ということです。」

Q 吉野杉の特徴は?

「吉野杉は超密植で植えられ(1万本/1ha。通常は2000-3000/1ha)。丁寧な間伐を繰り返すことによって、年輪がキメ細かく形成されます。日本の一般的な杉の年輪幅は6mm/1年程度ですが、吉野杉は1mm/1年です。1年に成長する年輪幅がほぼ一定で緻密。板目や柾目の杢も美しい。」

「また密度も前者が0.3g/cm3、後者は0.4g/cm3。密度も強度も高いという特徴があります。」

Q 吉野杉と海外の針葉樹ギター材との、振動特性の比較研究をされました。研究結果を教えて頂けますか。

「振動特性を測定し、比動的ヤング率(音の伝搬速度の指標)と、損失正接(=内部摩擦。音の減衰の指標)の分布を比較してみました。実験対象は吉野杉と欧州産スプルースと北米産レッドシダーです。」

奈良県森林技術センター 報道資料から

「グラフを参照いただきたいのですが、吉野杉の振動特性がスプルースとレッドシダーの間に位置していることが分かります。」

Q 気候風土、乾燥方法による響きへの影響は

「木材は周囲の湿度が高いと細胞壁内に水分が入り込みます。すると音の伝搬速度が鈍くなり、減衰しやすくなる。国産材は欧州などの材と比較すると、落ち着く含水率が高いと推察されますが、木材はいったん乾燥するとそうした影響を受けにくくなります。楽器に使われる材を寝かせて乾燥させるのは、そうした理由からです。」

Q (最後に)日本人ジャズギタリストに向けて

「吉野杉を使ってバイオリンも作りましたが、クラシックギターのほうが反応も良く、すでにギタリストからの製作依頼や、ギター作家の方からの素材問い合わせが入っています。バイオリンと比較してクラシックギターの場合、曲調や演奏家の指向性によって、楽器の個性を楽しむ傾向が高いのではないでしょうか。」

「機会あえば実際に吉野杉林や板材を見ていただいて、世界に1つのギターを製作されるのも素晴らしいことではないかと思っています。木は二度生きるといいます。人工林として、価値高く使ってもらうことを前提に丁寧に育てられたのですから、楽器に生まれ変わって永く弾いてくださったら、杉にとっても幸せなことだと思いますよ(笑)。」

岩本さん・酒井さん、お忙しい中ありがとうございました。

 

取材ロケ・インタビューを終えて

初めて訪れた吉野杉の森は、想像を超えて迫力がありました。巨木を伐採することに抵抗感もありますが、持続可能な森として経営されることを前提にすれば、ギターとして生まれ変わることも素敵なことだと私も思います。

シーズニングに10-20年は掛かるとして、目の前で伐った木から組んでもらう訳にはいかないでしょうが、将来的にギターから林地や樹までトレースできるようになると面白いですね。

お財布に余裕があれば、私も世界で1つの吉野杉フルアコを手にしたいものです。皆さんも1本如何ですか?

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