達人に聞く vol.27 笹島明夫さん

今回はYouTube動画でも有名な笹島明夫さんにインタビューです。丹羽悦子さんにご推薦・ご紹介を頂きました。

万が一、笹島さんをご存知ない方のために、動画を貼っておきます。
https://youtu.be/ie8NZxfE3tM?si=Dd4dk9Vq6sjbMNlB

25歳で単身、無茶修行として渡米され、本場アメリカのジャズを髄から会得された笹島さん。とある私の大学時代の先輩は「日本のジャズギタリストの中で、バックビートを体現できているのは笹島さんだけじゃないか」と言っていました。「笹島さんだけ」かどうかは別として、演奏にも説得力があります。

ご質問は定番の3つ。笹島さん、宜しくお願いします。

◼️始められない時、集中できない時の切り札

ジャズも含め、特に民族音楽をルートに持つものには必ずダンスが伴うので、ビッグバンド、サンバ、サルサなどに合わせて、下手でもなんでも踊ることですね。とにかく体を動かすこと。

『練習に本当に集中できる時間は20分くらいだ』と世界的に著名なクラシック・ピアニストが言ってました。だらだら長くやるのではなく、集中できなくなったら休めと。また、ジャズの場合自分では練習と思っていても、それが単に『遊び』になっていることが多いのです。特にiRealなどとのソロ演奏はそうなので『基礎練習』と『遊び』をしっかり分けることが重要です。一回一回は短くてもいいので、本当に単純で基本的なことをしっかりやると良いですね。

(上写真)1990年ごろの日本ツアーJimmy Cobb Harvie S

◼️理論を実践に昇華させる

ジャズに使われるコード進行の大部分はバッハの時代からあったもので、そのごく基本的な和声理論は本を読んで音を当てはめても理解できますが、それに対して一般化されている『アドリブのスケール』理論はモダンジャズの創始者たちが『耳を使って』発展させてきたものに後から当てはめたもの。言うなれば『書かれた文章』に対して『会話』または『口語』なので、実際のアドリブのほとんどが理論通りの音使いではありません。ジャズのルーツのブルースがその典型です。

本を読んだだけで生きた外国語会話ができるようになならないのと同じで、まずリズムも含め、単純なフレーズで耳から入ることが先決です。今のYoutubeなどでの多くのジャズ・ギター・レッスンは全部解答を出していて、どこで弾けばいいかまで(TAB)書いてあるので、自分の中で鳴った音をその場で弾けるように(非常に)なりづらいし、多くの方が理論に縛られた同じような音使いをしています。ジャズは『答が出た音』(解答)を弾くのではなく『音を探す』(質問)の音楽だと思います。

ただし、アレンジや作曲ができるようになるためには色々な理論・規則を学ぶ必要があります。エリントンやサド・ジョーンズのようにアレンジでも既成の理論を壊してきた人も多くいますが、これは基礎理論を覚えて上で『壊した』と言うことですね。

(上写真)Ranndy Brecker との日本ライブ(2018年)

◼️いまの自分を乗り越えるコツ(次にやるべきこと)

『乗り越える』と言うより『確実に進歩する』と言い方を変えれば、そのレベルにある奏者でも『基礎』をしっかり積み重ねることです。そのために上記のように『基礎練習』と『遊び』をはっきり分けることが大事です。簡単な曲で、速弾きができなくてももスイングして自分の音を出せればジャズとして成り立ちますが、基本の要素が欠けているといくらテクニックがあっても落第です。

練習のヒントとしては、一つの要素を進歩させようと思ったら、他の要素を簡単にするべきです。例えばリズムの基礎を進歩させようと思ったらブルースで簡単なフレーズを徹底的に弾くとか。色々な要素をいっぺんにやろうとすると全体的に進歩が遅れます。1音でスイングできないのに8音でスイングできません。もちろん自分の弱点を直してゆくことは大切ですが、自分の『良いところ』をしっかり認識してそこを伸ばして行く事を忘れてはいけません。

(上写真)YoutubeでのRon Carter インタビュー(2021年)

◼️読者へのメッセージ

AIを筆頭とするテクノロジーに頼ることによって、ますます人工的でその多くがフェークの音楽や文化が台頭する世の中で、僕はギターに限らず『生で』演奏する事、そして自分なりの即興をする『感性の世界』がますます貴重で大切なことになると思います。

◼️笹島明夫(ささじまあきお)さんプロフィール

エレクトリック・ギター/アコースティック・ギター/ ジャズ・インストラクター/作曲・編 曲家/プロデューサー

函館市生まれ 札幌西高校2年生でギターを始め、3年生の時ウェス⋅モンゴメリーのアルバムを聴きジャズに目覚める。23歳の時に札幌で活動中を渡辺貞夫氏に認められ1年間 上京したが、‘77年渡米。‘78からシカゴに住む。‘79第1回シカゴ⋅ジャズフェスティ バルに出演。‘81~85年 ブラジリアン⋅ジャズ⋅グループ Som Brasil に参加、初レ コーディング。その後シンガー/ピアニスト ジュディ⋅ロバーツの録音に参加。‘87年に ジャズ界の巨人ジョー⋅ヘンダーソンを迎え、初リーダー⋅アルバムAKIOをMuse Records より発売、世界的に評価を受ける。歴史に残るジャズ⋅オリジナルの作曲家としても知られ るヘンダーソンから作曲力を評価され、ヘンダーソンは晩年まで笹島のオリジナルWaltz For Evans をレパートリーに加えていた。その後ロン⋅カーターとのデュオ⋅アルバム、 ハービーS+ビクター⋅ルイスとのトリオ⋅アルバムを同 Muse Records リリース、さらに 評価を高める。ニューヨークにも頻繁に行きBlue Note, Birdland の他、カーネギーホー ルでも演奏。

(上写真)Joe Henderson との初録音(白黒)

ヘンダーソンと再び録音したHumpty Dumptyは当時モダンジャスの50枚の名盤の一枚として専門誌に取り上げられた。その後も多くのレコーディング⋅プロジェクトに参加し、 2004年にはシンガー、カーラ⋅ヘルムブレクトと、2005年にはロン⋅カーターとの 再会セッションを日本M&Iよりリリース。2012年にリリースされたカーラとの再会 デュオ⋅アルバムQuiet Intentions (米A.W. TONEGOLD RECORDS)で2014年度 グラミー賞の第一投票を通過した。2015年にはビートルズ全集のImages of Lennon McCartney をリリースし好評を博している。近年はジャズギター教育にもさらに力を入 れ、2016年に『ジャズギター革命』DVDをスローナ・ミュージックよりリリースした。第2弾2017年5月中旬リリースされた。2018年にはトランペッター、ラン ディ・ブレッカーを迎えてCD Aranjuez Suite (アランフェス・スイート)をリリース、ま た2023年10月には同じく主に笹島のオリジナル曲にランディ・ブレッカーを大きくフィー チュアした新作がリリースされた。9年ほど前からYoutubeでユーモアを交えたジャズ・ ギター講座やサンプル演奏が好評を博し、これまでに笹島のチャンネル閲覧数は180万回 を超える。2024年からは新シリーズの講座をリリース予定。 2019年に札幌市内にLiving Room Bar & Café をオープン、毎週末ライブ活動中。

(上写真)アメリカでリリースしたBeatles特集のジャケット

これまでに笹島が共演、ツアーを共にした著名プレイヤーのなかにはランディ⋅ブレッカー (tp)、ジミー⋅コブ(ds)、ドン⋅フリードマン(p)バスター⋅ウイリアムス(b)、ト ミー⋅キャンベル(ds)、エディ⋅ゴメス(b)、ジーン⋅ジャクソン(ds)、マーク・ ウォーカー(dr)、パキート⋅ディリベラ(alt,cl,sp)、エディ⋅ヘンダーソン(tp)渡辺 貞夫、日野皓正などがいる。

Ron Carter  (3回録音)『AKIOのスイング感は本物だ』  Joe Henderson (2回録音)『彼の作曲も素晴らしい。オリジナルのWaltz For Evans は自分のレパートリーに入れて演奏している』

アメリカのジャズ雑誌 JAZZ IZ Magazineでの批評
“He displays a style as melodically pointed as Joe Pass and as clean & uncluttered in its’ improvisation as Jim Hall.“

◼️最後に(編集者から)

このサイトのタイトル「寄り道ノート」の「ノート」には、お察しの通り、「ノートブック」と「音符」という、2つの意味を込めています。説明するのも無粋なので、これまで一度も触れてこなかったのですが、笹島さんがメンタリティとしての「寄り道する音符」の大切さを説く動画をあげていらっしゃいました。笹島さんのメッセージに、髪の毛1本分くらい重なった気がして嬉しい気持ちになりました。

繋いでくださった丹羽さん、お忙しいなか取材ご協力頂いた笹島さん、ありがとうございました。

(ご案内)xにて記事の新着をお知らせしています。https://x.com/jazzguitarnote

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