前回、肉じゃぎ・川邉さんとともに、ジャズギターに使えそうなアンプを3つのグループに分けて俯瞰しました。後編は、川邉さんご自身の推しアンプを教えてもらいます。
前編 肉じゃぎさんにアンプ相談❶
https://jazzguitarnote.info/2024/02/03/amp-nikujagi-1/
ジャズアンプ比較の第一人者「肉じゃぎ」さんサイト
https://youtube.com/@nikujagi
https://nikujagi.com/
前回(前編)で分けたグループごとに、川邊さんにお話を聞いてゆきます。
■川邉さんの選ぶ、真空管アンプ
田中「では川邉さん、後半も宜しくお願いします。まずはチューブアンプから」
川邉「Fenderチューブならどれでも鈴鳴りのクリーントーン(前編記事ご参照)が出る訳じゃなくて、モデルによりますね。Blues Juniorでは出なかったりするんですよ。どうしてもダーティな音というかノイズが多いというか、少しきらびやかさに欠けるというか。PRINCETON REVERBや DELUXE REVERB あたりだと『鈴鳴り』の澄んだクリーントーンが出ます。モデルによって設計が違うんです」
田中「なるほど。Fenderチューブアンプと言っても、違いがあると」
川邉「PRINCETON REVERBの場合はクリーントーンがきれいなんですが、ヴォリューム3〜4くらいで歪んでしまうんです。いわゆる『ヘッドルームが小さい』というやつで、大きな編成や大きな会場といった音量を上げざるをえない状況だとドライブサウンドが混じったロックっぽい音になってしまう。私は自宅用にしていて、外ではあまり使わなくなってしまいました。DELUX REVERBなどのワット数の大きいアンプであれば歪み始めるのが遅いので、ボリュームが上げられて多少の余裕があるのですが。そのクラスになると大きいし重いですね」
田中「チューブアンプはボリューム調整が肝ですね。自宅で鳴らす環境だけで決めてしまうと、使う場によっては意図と違った音になってしまう。頭で分かっていても、いざ購入する時に油断しそう。要注意と」
川邉「チューブアンプのクリーントーンは澄んでいて心地いいです。やわらかさもあって、CDで聴いたような『王道のジャズギター』らしい音が出る印象です。ケニーバレルとかいわゆる王道のジャズギターサウンドが好きな方、ああいうサウンドを出したい方にはチューブアンプが向いていると思います。私はたまにダーティーめなサウンドを出したい時にPRINCETON REVERBを使用しています」
■川邉さんの選ぶ、トランジスタアンプ(ソリッドステート)
田中「次はアコースティック系以外のトランジスタアンプで、デジタルアンプも含みます。このグループは肉じゃぎ動画でも注目のコンテンツだったのでは、と想像しますが、川邉さんの中では、どれが推しなんですか?」
川邉「トランジスタアンプ は数が多くて難しいですね。Blues Cubeは、HotとStageの2台持ちして、暫く使って気に入っていました。小さい会場ではHot、大きい会場ではStageという使い分けでしたね」
田中「いました?過去形ですか?」
川邉「どちらも売っちゃったんですよ。表現が難しいのですが、本物チューブと比べると膜が張ったような少し曇ったクリーントーンで、それに物足りなさを感じちゃいましたね。使い回しを重視する方や、ペダルを使う方には向いているかもしれません。」
■川邉さんの選ぶ、アコースティックアンプ
田中「いよいよ一般的なジャズギターアンプのグループです。迷ったらDV MARKという話もありました。DV MARKが定番化した様子がある一方で、私の周囲には、手放されてしまった方もチラホラといたりします」
川邉「私はDV MARKも2台持ちで、JAZZ 12とLITTLE JAZZと両方持っていました。そして両方とも手放してしまいました」
田中「迷ったらDV MARK、というのは嘘偽りないアドバイスだったと思うのですが、何故、そこまで評価されていたアンプを手放してしまったのですか?」
川邉「ひとえにイチオシを購入するための整理です。DV MARKのジャズシリーズは軽くて持ち運びしやすいし、ジャズギターに適したサウンドが出る素晴らしいアンプですが、サウンドの癖が強い側面もあるんです。どんなギターを使っても、DV MARKのサウンドになってしまうというか。イコライザは3バンドになっていますが範囲が狭い印象で、ハイハイと聞いているフリをしながら、聞いちゃいない感じ(笑)。アンプに拘るようになってくると、中域が強調されたDV MARKの癖のある音が気になってきたんです。いいアンプなので LITTLE JAZZ は持ってても良かったかな、と思ったりしますけど」
田中「最近、LITTLE JAZZを調達したばかりですが、仰っているニュアンスは分かります。周囲の手放してしまった方が『飽きてきたから』と言ってましたけど、通じるところがあるかも」
■アンプの取捨選択 川邉さんの機材整理
川邉「それで、実は、私。昨年、持っていたアンプをほとんど売ってしまいました」
田中「ええっ?」
川邉「昨年、アンプの大整理をしまして」
田中「冒頭から『売った』とか『手放した』という言葉がでてきてましたが、かなり反則技な回答ですね。寝耳に水というか」
川邉「イチオシアンプが見つかり、その購入資金確保もありまして。確かに、まだ機材整理の顛末については、詳しく記事に書いていないので(笑)。ZT Lunchboxは、売らずに、サブ機として、手元に置いておくべきだったかなと思ったりしています」
■川邉さんの本命アンプ
田中「予想外の展開ながら、的は絞れてきた感じです。そうなってくるとイチオシアンプはアレですね?」
川邉「Henriksenです。Henriksenを買うために機材整理をしました。私にとっては最終到達地です」
田中「全くの偶然ですが、昨年暮れに輸入元のオカダインターナショナルさんにフルアコの取材でお邪魔して、Henriksenを弾き比べしてきたばかりです。営業担当の常盤さんも喜ぶに違いない」
川邉「実はHenriksen は2台持ち。The Jazz Amp TEN 、The Bud SIXを所有しています。最強アンプです」
田中「2台持ちぃ?!?(笑)」
川邉「アホですね」
田中「いやいや、素直に羨ましいです。先週、弾いてきて、コレ欲しい!!と涎を流してきたばかりなので」
川邉「色々失敗してきて、最後に落ち着いたアンプです。これがあれば良いので、他のアンプや使わない機材はほとんど売りました。ジャズギター用にチューニングされていて、アンプ直でも、ペダルをかましても良い感じ。クセのないサウンドなところも気に入ってます。イコライザーは5バンドになっていて、効きも良い。もう買う価値しかないです」
田中「2台の使い分けとかあるんですか?」
川邉「小型の6インチスピーカーのもの(The Bud SIX)は2系統でHenriksenのフラグシップ機のひとつと理解しています。最初、まだ価格が今より安い頃にJazz Amp TENという1系統、10インチスピーカーのアンプを買って、めちゃくちゃ気に入りました。その後、小型のThe Bud SIXを購入。The Bud SIXはスピーカーが小さいので不利かと思っていたんですが、たまたま大きめのホールでのライブで使用している方を見かけて、めちゃくちゃいい音がしていて音量も十分だったので『小型でも全然いけるじゃん!』と思いました」
田中「6インチと10インチ、用途を使い分けて?」
川邉「そうですね。The Bud SIXはライブやセッションで使うために、ほとんど車に積みっぱなしにしてあります。The Jazz Amp TEN の方は家で使ったり、たまにライブなど外に持ち出したりもします。気のせいかもしれませんが、10インチ(The Jazz Amp TEN)の方が自然でふっくらしたサウンドのような気がします。ちなみに、チューブのPRINCETON REVERBも練習や録音に使ったりしていますよ」
田中「羨ましい限りです。私もHenriksen欲しくなりました。アンプ買うの先延ばしして、お金貯めるかなあ」
川邉「もしお金に余裕があるならHenriksenをオススメしたいですね。無かったらDV MARKの小さいの(Little Jazz)。DV MARKもいいアンプです。でも拘りたいと思ったらHenriksenですかね。幸せになれます」
田中「結論としては、幸せ尺度で選びなさい、いうことで。そろそろ、お時間がきたようです。あっという間でしたね。お忙しいなか、ありがとうございました」
川邉「こちらこそ、ありがとうございました」
◼️「血となり肉となるジャズギター(肉じゃぎ)」について
川邉マナブさんが主宰する、ジャズギタリストに向けた上達のためのノウハウやTIPS、その他さまざまな情報を発信するサイト。基本方針は「まずは楽しく。そして誰でも弾けるようになるジャズギター」。https://nikujagi.com/
「プロ・アマ問わず、ライブやセッションでジャズを演奏しているギタリストは、もれなくそれぞれの演奏者ごとに、その人なりの多くの勉強や苦労を経験していると言っても過言ではありません。苦労をするのが重要だという考えもあるとは思いますが、できるだけ最短のルートを歩むに越したことはありません。肉じゃぎでは、ギタリストが理解のしやすい・ギターの特性に合わせた解説に重点を置いています。それは、ギタリストにとって指板上での音程やコードの理解が非常に重要だからです。ギターでジャズを弾くためにギターに合った理解をし、できるだけ無駄な苦労をしない、のが理想です。できるだけ早く上達して、ライブをしたりセッションで仲間を増やしたり、活動の場をどんどん広げて行きましょう!」
◼️ 川邉マナブさん プロフィール
週末ジャズギタリスト・元漫画家デザイナー
https://nikujagi.com/about/profile.html
以前はプロの漫画家として執筆活動を行う。現在はデザイナー&週末ジャズギタリスト。
普段はデザイン事務所【@15VISION(石川県金沢市)】に所属するデザイナーとしてデザイン業務を行い、その傍らで週末になるとジャズギタリストとしてギターを演奏する。
15歳(高校1年)からギターをはじめる。21歳ごろからジャズに興味をもち、音楽理論やジャズ演奏を学習。国内のジャズギタリスト(塩本彰氏、山田忍氏、岡安芳明氏、佐津間純氏、成瀬明氏)に学ぶ。現在は、おもに北陸地方にてイベントでの演奏やライブ出演など音楽活動中。ジャズを弾けるようになるまでに苦労した経験を活かし、ジャズ演奏志望者へのレッスンも行う。
■前編・後編を終えて(編集者から)
楽しい時間だったなあ。ギタリスト同士の機材話はやっぱり面白い。他楽器の人たちからは、アホじゃないの?ってよく言われますけど。
川邉さんに、アンプ道の極意を聞いたら「いいアンプって楽器の一部なんです。いいギター持っていても、アンプの出音がダメだと勿体ないじゃないですか」と仰っていました。
今回の連載記事。11月の企画開始から、記事公開まで3ケ月以上を要しました。それと言うのも川邉さんが富山在住で、お正月に被災され、お仕事環境の復帰に暫し時間がかかったためです。東日本大震災の復興も相当の時間を要しましたが、今回の富山も時間が掛かるかもしれません。地域の方々が落ち着いて過ごせる日々が早く戻ることを、心より祈念いたします。そして、そんな大変な状況のなか、校正などお時間を割いてくださった川邊さんに深く深く御礼申し上げます。
以上で、2回に分けての「肉じゃぎさんにアンプ選びを相談」連載は終わりです。私の悩みは迷いに変わり、結局、解決されず先送りです(苦笑)。
【ご案内】X(twitter)にて記事の新着をお知らせしています。https://twitter.com/jazzguitarnote
Pingback: 肉じゃぎさんにアンプ相談❶ | ジャズギター寄り道ノート