昨年、メインギターをフルアコからセミアコに、弦を013を010からのセットに切り替えてから、高音弦を中心に出音が細く感じられ、違和感を感じるようになっていました。弦のセットやピックアップの違いも影響ありますが、同じ箱モノでも、フルアコとセミアコって、やっぱり別のギターなんですよね。
対策として、クリーンブースターの歪みを調整することで応急処置。さらに手持ちのLunch Box jr.(改造)に加え、無難なところでDV Little Jazzを追加調達しました。しかしアンプは毎日使うものなので、もうちょっと拘って選んでみたい欲が。。
改めてジャズギター用のアンプといっても、ギター原音との相性、求める音、使う環境などによって、何を選ぶか変わってきます。所有しているアコースティックアンプはフルアコ用に残すとして、欲しいのはセミアコおよびストラト用。ストラトはボードを通すので、メインはセミアコ対応になります。寄り道しすぎないように注意しながら、久しぶりにアンプ選びを始めることにしました。
◾️ジャズアンプ比較の第一人者「肉じゃぎ」さん
久しぶりのアンプ探しだったので、WEBで調べたり、 セッション会場にあるアンプを確認したり、検討を始めました。そして、最も参考にさせていただいたのが、肉じゃぎさんのアンプ比較コンテンツです。
https://youtube.com/@nikujagi
https://nikujagi.com/
肉じゃぎさんをジャズギターアンプ比較の国内第一人者(編集者評)たらしめる理由があります。
・ギタリストが比べてみたいと思うアンプを、絶妙に取り上げてくださっている
・比較条件を整えて、客観的に検討できる検証動画となっている
・個人的な好き嫌いなど、編集側の余計なコメントが挟まれていない
(各プレーヤーが自分の好みで判断する)
・試奏音源がマトモ(聴くに耐えない試奏が巷には散見)
ジャズギタアンプを比較検討している人たちが、どのアンプを比べたいのか、何処で比べたいのか、痒いところに手が届くコンテンツ。そんな肉ジャギサイトを運営されているのは、富山在住の川邉マナブさん。今回、川邉さんにご相談し、アンプ選びのアドバイスを頂くことにしました。
■ジャズギターアンプを3タイプに分類
まず、ジャズギターアンプとして候補に上がってくるアンプを、3つのグループに分けて確認することにします。
(1)真空管アンプ
(2)真空管を使用していないトランジスタアンプ (ソリッドステート)
(3)アコースティックアンプ
前編・後編の2回の連載記事とし、前編では、それぞれのグループについて、どんな特徴があって、どんなアンプがあるか、話を進めます。
■(1)真空管アンプはどうですか?
田中「では川邉さん、宜しくお願いします。肉じゃぎさんにアンプのご指南いただけるなんて、なんて素敵な企画なんでしょう(笑)」
川邉「散々、失敗してきましたから、そのお裾分けです(笑)。宜しくお願いします」
田中「ひとつめのグループはFenderの独壇場となるチューブアンプ群。音量出せるなら、抜群に良い音がするが、重量もあって、管理が大変。ノイズも気になる。圧倒的な魅力ありながら、ジャズでは手を出しにくい印象です」
川邉「そうですね。チューブアンプしか出せない音がある一方で、重い、メンテナンスが大変、といったマイナス面があるのも確かです」
田中「チューブアンプを所有したことがないのですが、大変だと言われるメンテは、どれくらい大変なんですか?」
川邉「使っているとチューブが劣化してくるので、ノイズも増えます。ヘビーに使っていると1年程度で交換しないといけないケースもあります。壊れやすいので、移動にも気を遣いますね」
田中「1年の寿命ですか。それは確かに大変だ」
田中「代表的なアンプとして、Fender ’68 CUSTOM PRINCETON REVERB、Fender 57 CUSTOM CHAMPR、Fender Blues Junior、FENDER ’68 Custom Vibro Champ Reverbなどがあるかと思います。どういった違いがあるのですか?」
川邉「私はFender Blues JuniorとPRINCETON REVERBを所有して使っています。それぞれ回路や設計が異なりますね。やわらかい歪みが加わる、というか、ソリッドステートでは出ないマイルドでやわらかい飽和感が心地いいです。あと『鈴鳴り』のクリーントーンはチューブアンプの大きな特徴ですね」
田中「鈴鳴りのクリーントーン?」
川邉「シャリーンとした、透明感のあるクリーントーンがそんなふうに呼ばれたりします」
田中「チューブ特有の、なんとも言えないキラキラしたクリーントーン。確かに特徴ありますね。鈴鳴りって言うんですね」
川邉「普段はトランジスタのアンプを使っているのですが、たまにチューブアンプを弾くと、やっぱり良いなあと思うこともあって。良くも悪くも、昔ながらの音ですよね。近年、主流になっているジャズギターのサウンドは『クリーンでミドル(中域)が豊かな音』だと思うんですが、そういうサウンドではないですね。ボリュームを上げたときにはクリーントーンに少しずつ歪みが加わっていくのでダーティー気味なサウンドになります。ケニーバレルやグラントグリーンのような音が出したい、という方には向いていますね」
■(2)トランジスタアンプ(ソリッドステート)はどうですか?
田中「ふたつめのグループは、歪み音も出せるトランジスタアンプです。回路に真空管を使用していない、いわゆる普通のソリッドステートアンプですね。本家Fenderのトーンマスターシリーズ、ZT Lunchboxシリーズ、ROLAND Blues Cubeシリーズなどがよく知られていますが、真空管を使用していないアンプは基本的に、このグループに入れました。このグループは、チューブアンプと違って、音量に関係なく安定した音が確保でき、重量・メンテ・価格の面でメリットがあるイメージ。クリーントーンが主となるジャズであれば、チューブアンプよりは向いてる印象です。川邉さん的には、このグループ、如何ですか?」
川邉「Roland ジャズコーラスもこのグループですね。クリーントーンの透明感はチューブに劣るのですが、チューブ特有のノイズが出にくかったりとメリットもあります」
田中「確かに。すっかり忘れていました。JCは、安定感のある優秀なアンプですね。何処にでもあるから、自宅でも同じ環境を整えておく、という発想もありそう」
川邉「トランジスタアンプ は運搬時などのトラブルが少なく、メンテナンスがしやすいのが大きなメリットです。チューブアンプを意識して作られたアンプも多いですが、トランジスタだとあのチューブ特有のきれいなクリーントーンは出ないんですよね。ちょっとマイルドになるというか曇ったサウンドになる印象です」
田中「確かに、本物(チューブ)を知ってると、比較しちゃいそう」
川邉「ZT Lunchboxは、セカンドアンプとして持ってて良いアンプだと思います。あのサイズであの音。他のアンプとは用途が異なるというか、特別なポジションですね」
田中「いいアンプですよね。以前、記事にも書いたんですが、私はLunchbox Jr.を改造して、ボリュームを上げても歪まないスイッチを増設しました。小さくて軽くてパワーもあって、ジャズっぽい音が出ます。お気に入りです」
川邉「Blues Cubeは、HotとStageの2台を持っていました。最初、チューブアンプのBlues Junior使っていたのですが、重くて嫌になって、代替アンプとしてBlues Cubeを買ったんです。私のように、2台持ちする方はそうそういないと思いますが、無難にジャズでも使えるアンプの有力候補ですね」
田中「HotとStageの2台持ち!流石、肉じゃぎさんですね。Hotは30W、Stageは60Wですが、ジャズクラブなどで使うのに、出力的にHotは如何ですか?」
川邉「ジャズで使うならHotの30Wでも、全然大丈夫です。大きすぎるくらいの音量が出ます」
■(3)アコースティックアンプ
田中「3つめのグループはアコースティックアンプです。箱モノの良さを生かし、クリーントーンに拘って弾く。ボーカルマイクも同時に出せるよう、2系統を備えたタイプも多いですね」
川邉「いわゆる『ジャズギター向け』のアンプが含まれているグループですよね。普通のギターアンプはオーバードライブなど歪んだサウンドを念頭に置いた『エレキギター向け』な設計ですが、このグループはアコースティックサウンド向けでクリーンな音に重点が置かれています。アコギやエレアコなどでの用途が前提で、歪みをあまり使わずにクリーントーンを重視するジャズでも多く使われています」
田中「具体的にはAER bingo2、AER Compact60/3、Udo roesner amps Da Capo 75、DV MARK JAZZシリーズ 、Henriksenシリーズ、PHIL JONES BASS CUBシリーズ などが挙げられます」
川邉「RolandのACシリーズも、このグループに入ってくると思います。AC33やAC60。使っている方多いですよ。確か、以前ライブで見た井上銘さんも使っていたような。アンプに癖がないのでペダルの乗りが良いですね」
田中「なるほど、ACシリーズですか」
川邉「Udo roesner amps (ウド・ロースナー)は割と新しいアンプで、サイズやサウンドはかなり優秀ですね。かっこいいデザインに目を惹かれました。アコースティック感が強いというか、ハイファイな傾向の音に感じましたね」
田中「Udo roesner ampsは、以前、モニター機材を借りて紹介記事を書きました。Udo Roesner は、Bingo という一世を風靡したジャズアンプを出していたAER ( エーイーアール ) というブランドの創業者で、30年以上育ててきたAERを離れ、新たなブランドを立ち上げた方。綺麗な音を出してくれますが、確かに少し固めの音なので、好みは分かれるかもしれません」
川邉「PHIL JONES BASS CUBが含まれているのは面白いですね。私も買ったことがあるのですが、不運にも初期不良で返品してしまいました」
田中「私はフルアコをPHIL JONES BASS CUB直結で鳴らして満足していたのですが、セミアコに切り替えたら、高音弦の細さが気になってしまい、今回のアンプ探しに繋がっています。アコースティックアンプと言っても、使うギターや利用環境によっても異なり、一括りにできない印象があります」
川邉「HenriksenやDV MARKは、その点、良い調整がしてあります。ジャズ向けの設計でプレーン弦の音が細くならないように、配慮されているのでしょう。かつてのポリトーンも同様ですね。コスパ的には、迷ったらDV MARK を買っておけば、失敗はない印象です」
田中「確かに、DV MARKはスタンダードになりつつあります」
■購入際の注意点
川邉「どんなアンプでも購入の際にぜひチェックしてほしい点があります。それは大きなボリュームで鳴らしたときにノイズが出たりスピーカーが振動しないか、という点です」
田中「なるほど。と言っても、普通の人は、なかなか大きな音で鳴らせませんよね。定番アンプなら、スタジオやセッションで鳴らせるチャンスもあるけれど」
川邉「フルアコなどのジャズ向けのサウンドは普通のエレキギターの音に比べて中低域が大きいので、きちんと設計されていないと音量を上げたときに信号が過大になってノイズがでてしまいます。許容値オーバーのクリッピングノイズだったり、キャビネット自体の振動だったり、意図しないノイズが出ることがあるんです。この点はどこにも情報がなくて自分でいろんなアンプを試して気づいた点ですね。音量を上げないと気づかないので、セッションなどで実際に使ってみたらノイズが出て困ったりします」
田中「うーむ。音量の違いによって、歪み以外にも影響があるというのは盲点ですねえ」
川邉「気になるアンプがあったら、できれば楽器屋さんで試奏させてもらって、音量を大きくした上でコードを鳴らしたり和音のフレーズを弾いてみると良いと思います。小型のアンプや回路に耐性がないアンプはノイズが出やすいので注意が必要です」
■まとめ「好きなものを使えば良い」
田中「ジャズギター用のアンプとして3つのグループに大別し、検討してきました。どのグループも、良さげに聞こえます。ひとによっては、迷いが拡がってしまう方もいらっしゃるかもしれないですね」
川邉「結論がないようで申し訳ありません。ジャズ向けに作られたアンプもありますが、実際のところはどのアンプでもジャズ演奏で使えるので、好きなものを使えばいいのではないかと思います。もし迷ったり、どれを選んで良いかわからないようでしたら、ジャズ用途であればジャズ向けに作られたアンプの中から選べば大きく失敗することはないと思いますね。今回挙げられたアンプであれば、ほぼ、どれでも大丈夫です。あとは絞り込む際に、
・どの程度の音量が必要か
・ライブでも使うか、自宅専用か
・どの程度持ち運びやすさを重視するか
あたりを基準にすると決めやすいと思います。前知識があると無駄を減らすことができるので、肉じゃぎサイトも見て頂いて、自分の好みのアンプを探す参考にしていただけたら」
田中「どれでも良いとなると、身も蓋もありませんが、結局のところ、自分の好きなアンプ探しということになりますよね」
川邉「どんなアンプを使っても、結局はその人の音になってしまうものだと思います。私の場合ですが
・メインに、ライブやセッションで使えて、一番自分好みの音が出るアンプ
・サブに持ち運びに便利な小型のアンプ
という指針で所有しています。まずはメインのアンプを決めて、取り回しのいいサブのアンプがあれば良さそうですね。勿論、DV MARKやZT LunchBoxがメインでも良いと思います。以前、私がインタビューさせていただいた成瀬明さんというギタリストは、LunchBoxJr.を使っていると聞きました。つい、弾いているメロディばかりに気をとられがちなのですが、音色はとても大切な要素ですから。演奏を聞いている人には違いが伝わらなくても、弾いている本人の気分が乗るというか、弾いていて楽しいアンプ選びが大事だと思います」
◼️「血となり肉となるジャズギター(肉じゃぎ)」について
川邉マナブさんが主宰する、ジャズギタリストに向けた上達のためのノウハウやTIPS、その他さまざまな情報を発信するサイト。基本方針は「まずは楽しく。そして誰でも弾けるようになるジャズギター」。https://nikujagi.com/
「プロ・アマ問わず、ライブやセッションでジャズを演奏しているギタリストは、もれなくそれぞれの演奏者ごとに、その人なりの多くの勉強や苦労を経験していると言っても過言ではありません。苦労をするのが重要だという考えもあるとは思いますが、できるだけ最短のルートを歩むに越したことはありません。肉じゃぎでは、ギタリストが理解のしやすい・ギターの特性に合わせた解説に重点を置いています。それは、ギタリストにとって指板上での音程やコードの理解が非常に重要だからです。ギターでジャズを弾くためにギターに合った理解をし、できるだけ無駄な苦労をしない、のが理想です。できるだけ早く上達して、ライブをしたりセッションで仲間を増やしたり、活動の場をどんどん広げて行きましょう!」
◼️ 川邉マナブさん プロフィール
週末ジャズギタリスト・元漫画家デザイナー
https://nikujagi.com/about/profile.html
以前はプロの漫画家として執筆活動を行う。現在はデザイナー&週末ジャズギタリスト。
普段はデザイン事務所【@15VISION(石川県金沢市)】に所属するデザイナーとしてデザイン業務を行い、その傍らで週末になるとジャズギタリストとしてギターを演奏する。
15歳(高校1年)からギターをはじめる。21歳ごろからジャズに興味をもち、音楽理論やジャズ演奏を学習。国内のジャズギタリスト(塩本彰氏、山田忍氏、岡安芳明氏、佐津間純氏、成瀬明氏)に学ぶ。現在は、おもに北陸地方にてイベントでの演奏やライブ出演など音楽活動中。ジャズを弾けるようになるまでに苦労した経験を活かし、ジャズ演奏志望者へのレッスンも行う。
■前編を終えて(編集者から)
アンプマスター肉じゃぎさんのお話、予想通り、面白かったです。「無茶苦茶、失敗してきた」と仰る川邉さん。聞き齧った知識ではなく、自らが実際に購入し、弾き込み、比較した上での見識なので、言葉に説得力がありました。
結局、前編は「好きなアンプなら、なんでも良い」という結論でした。そんな結論では読者の方々も物足りないと思うので、後編では、アンプ選びの大先輩・川邉さんが独断で選ぶベストチョイスをお聞きしたいと思います。
なお、川邉さんに、肉じゃぎサイトを立ち上げたキッカケをお聞きしたところ「ジャズを扱った本など難しくとっつきにくいイメージのものが多い印象だったので、はっちゃけた、面白いサイトを作りたかったんです」との回答。益々親近感を感じますね。
以上で前編終了です。宜しければ、後編にもお立ち寄りください。
【ご案内】X(twitter)にて記事の新着をお知らせしています。
https://twitter.com/jazzguitarnote
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