個性を磨く❻-1 国境/スタイルを超えて

2025年1月、Hiro Yamanakaさんからのお声がけで、日米ギタリスト4名によるライブを取材させていただきました。文字による単なるライブレポートは面白くないので「共演すると、そのひとの個性が見えてくる」という古くからの言い伝えを元に、共演を通じてお互いに感じたことを交換しあって頂きます。

4人のギタリストは、国籍も年齢もスタイルもまちまちな、第一線で活躍する方々ばかり。4人のコメントを拾うだけでも、かなりのボリュームになってくるので、2回の連載とさせていただきます。前段となる本記事では、各出演者からの共演ライブの感想とプロフィールをご紹介させてください。

■まずはギタリスト4名のご紹介

左からHiro Yamanakaさん、井上智さん、Sean Harknessさん、丹羽悦子さん。

■取材ライブ日程

ライブは2025年、1/10(横浜元町LiveHouse Hey-Joe)と1/13(渋谷Body&Soul)の2回に渡って行われました。

2025/1/10 横浜元町LiveHouse Hey-Joe 
https://hey-joe.jp
2025/1/13 渋谷Body&Soul
https://bodyandsoul.co.jp/2025/01/142344

Hey-Joeの開店は2004年。コロナ前にはライブを聴きに行っていましたが、2020年に閉店。2024年に元町で復活していたことをつゆ知らず、今回のライブで初めて知りました。嬉しいニュースです。

Body & Soulの前身「タロー」の開店は1965年。Body&Soulとしての開店は1974年。その昔、私が六本木の会社に勤めていた頃、近所にあったのですが、その後、青山に移転。2021年に、Z世代にもジャズを開いていく目的で、現在の公園通りに移転。これまた嬉しいニュースです。

■セットリスト/ライブ動画

初回の1/10(横浜Hey-Joe)は井上智さんを除く3名で、1/13(渋谷Body & Soul)は4名揃っての構成。両方のライブにお伺いしましたが、それぞれにギタリストの掛け合いが刺激的な内容でした。セットリストを掲載しておきます。1/13(渋谷Body & Soul)のリストにはhiroさんの当日手書き修正が入っており、印字が薄いので目を凝らしてご確認ください。

1/10ライブの様子をHey-Joeさんが動画公開されているので、ご紹介しておきます。記事をお読み頂く前にご覧いただけると、より楽しめるかと思います。期間限定とお聞きしているので、視聴はお早めに。

ご興味を持たれたら、各演奏家のプロフィールから辿っていただいて、音源等もチェックしてみてください。

では、お一人づつライブの感想をお聞きしたいと思います。

■ライブ感想:Sean Harknessさん「ダイナミックな体験が生まれた」

My agenda for booking these two shows with Hiro san was simply to continue a delightful musical conversation he and I started back in 2017. He then invited Niwa Etsuko and Inoue Satoshi to join us in that conversation. Satoshi is a well developed artist with a long and distinguished career, and Etsuko is comparatively new to the process. Sitting between them and interacting with those two perspectives was exciting. In the past Hiro and I enjoyed more time and musical space as a duo, and a part of me was missing that at these two shows. His wisdom in bringing all of us together was much greater than that small regret, though. Having the four of us surely created a more dynamic experience for the audience.

Hiroさんとこの2つのショーをブッキングした目的は、2017年に始めた楽しい音楽の会話を続けるためでした。その後、Hiroさんは丹羽悦子さんと井上智さんを招待してくれました。智さんは長く輝かしいキャリアを持つ素晴らしいアーティストで、悦子さんは比較的若手のアーティストです。彼らの間に座って、2人の視点から交流するのは刺激的でした。

Hiroさんと私は以前、デュオとしてより多くの時間と音楽空間を楽しんでいましたが、この2つのショーではそれが欠けていたように感じました。しかし、私たち全員を一緒にするという彼の知恵は、その小さな後悔よりもはるかに大きかったです。私たち4人がいることで、観客にとってよりダイナミックな体験が確実に生まれました。

Sean Harknessさん プロフィール

https://www.seanharkness.com/
1966年マサチューセッツ州生まれ。バークリー音楽大学で音楽の基礎を学び、1994年ニューヨークへ拠点を移す。ジャズ、クラシック、ロック、日本の楽曲まで、ジャンルを超えた演奏を可能にする驚異的なフィンガーピッカーとして知られる。ウィンダムヒルのレコーディングギタリストとしても活躍した。
ジャニス・シーゲル、Monday満ちるなど、著名アーティストとの共演歴も多数。現在はエレクトリックギターで参加するDaniel Glass Trioを始め、多岐にわたるバンドやレコーディングに参加。ソロ活動に加え、セッションプレイヤーとしても第一線で活躍中。
親日家としても知られ、2000年には小椋佳のアルバム「Debut」のNY録音に参加。2002年にはブロードウェイミュージカル「スウィング!」日本公演で初来日。2004年には、りんけんバンドの照屋林賢氏との出会いをきっかけに、ソロギターアルバム「URAKAJI」をリリース。来日の際は、日本のミュージシャンとの交流を心から楽しみにしている。

■井上智さん「いい音楽的刺激をもらえた」

初めての共演のかたばかりで、サウンドチェックからアンコールまで新鮮でした。そして演奏してる時は最高に楽しかったです。

選曲も普段タッチしないものが多かったので、いい音楽的刺激をもらえました。聞きにきてくれた方からの反応もとても良く、嬉しくなりました。

井上智(さとし)さん プロフィール

http://www.satoshiinoue.com
ギタリスト/コンポーザー。神戸市出身。関西のジャズ・シーンで活躍後、1989年にニューヨークに渡る。ニュースクール 大学ジャズ科でジム・ホールに、ニューヨーク市立大学でロン・ カーターに学ぶ。ブルーノート、バードランド、スモーク、スモールズ、ジンク・バー、ヴィレッジ・ゲイトなど有名ジャズクラブに自己のバンドで出演、高い音楽性と実力が評価される。リーダー・アルバムは「9 Songs」など9枚を発表。またサイドマンとしてはジュニア・マンス、フランク・フォスター、バリー・ハリス、ジミー・ヒース、ジェイムス・ムーディー、ロン・カーター、穐吉敏子、ジャック・マクダフ、グラディ・テイト、ベニー・グリーン等多くのトップ・ミュージシャンとのツアーを経験。ジャズクラブの老舗ヴィレッジ・ヴァンガードの70周年記念にはジム・ホールと井上のデュオが出演。2010年に21年間のニューヨーク滞在にピリオドを打ち帰国、同年にNHK BSの1時間番組「NY Music Love 井上智」が放映され話題を呼ぶ。井上の「よく歌うギター」は定評があり、東京を拠点に精力的に活動し、新しいファンを増やしつつある。
演奏活動の傍ら、ジャズ教育も精力的に行ってきた。1994年から16年にわたってニュースクール大学ジャズ科で講師を務めた。現在、慶應大学と国立音大でジャズクラスを持っている。「サトシは 即興演奏に伴奏に 才能の閃きをしめし注目される。」 アイラ・ギトラー(ジャズ評論家)「サトシは 鋭い想像力で音楽を創る優秀なジャズギタリストだ。」 ジム・ホール

■丹羽悦子さん「非日常的な2Days、新鮮で楽しかった」

(今ちょうど1週間がたちましたが) まだ、あの公演が昨日のことのように思い出します。あっという間に終わってしまったなと。会場入りしてから時間が流れるのが速くて、気づいたら、もう次の日になってた、って感じでした。

そして2公演まったく違った感覚として、記憶に残っています。まず、会場の場所が横浜、東京と全く景色の違う、場所で行われたこと。両会場ともに最高のステージ環境を備えているのですが、元町Hey joe の方はライブハウス寄りの音響、渋谷Body&Soul は生のアコースティックを重視した環境だったのかなという印象があります。

しかも、元町は一歩会場から出たら、クリスマスの余韻が残っているかのように、街路樹やお店に沢山電球が飾ってあって、Seanさんご夫妻も真横にいらっしゃるし、まるで日本に居る感覚ではなかったです(笑)。

渋谷は、この日がなんと成人式で、これまた街中がいつもの渋谷の感覚と少し違いました。人通りが多かったですし、賑わっていたので、さらに気持ちの高揚感がありました。
私はHey JoeもBody and Soul も初出演でしたが、非日常的な2Daysでした(笑)。

内容に関しては、私のオリジナル曲以外は普段あまりやったことのないレパートリーだったと思いますが新鮮で楽しかったです!それも、まったく違和感もなくどの曲も、事前に送られた譜面や、音源を手に取って聴いてみると、どのように演奏するのだろうというイメージがすぐに、つかめました。同じギタリスト同士だからか、「あーこうゆうフィーリングが好きなんだろうな」っていうのを音源などを聴きながら、にやにやしていました。

私も敢えて、今回のこのメンバーでやってみたら面白そうだなと、想像していて、提示したスタンダード曲の方も普段あまりやる機会がないアレンジメントや、曲を選びました。

後、1日目のトリオ、デュオ、2日目のデュオ、トリオ、カルテットと色々な編成で演奏させていただきましたが、どれも違ったアンサンブルでとても楽しかったです。

あっという間でした。

丹羽悦子さん プロフィール

幼少の頃クラシックヴァイオリンを習い、中学でロックに触れギターによるブルースやジャズに興味を持ち始める。高校卒業後、Berklee Summer Sessionに参加し同学 Professional Music科を卒業。
2019年に、Jazzlife誌とクロサワ楽器店 G-CLUB TOKYO 合同企画「Jazz Guitar Contest 2019 Sponsored By Gibson]で審査員特別賞と奨励賞を受賞。
2021年5月に矢堀孝一氏プロデュースによる1st Album [ Sceneries (情景) ] をVEGA Music Entertainmentより発表。近年、自己の楽曲を中心としたギタートリオ活動の他、ジャズでのトリオ、カルテット編成でのグループに携わる一方、様々なスタイルのジャズギタリストとのデュオ演奏も定期的に行っている。
詩や、朗読とのコラボレーションでは新たなギタースタイルを模索しつつ創作活動、演奏活動に励む。

■Hiro Yamanakaさん「リハで面白いアイデアが次々に」

ギタリストが3人と4人では、Showの構成の仕方が大きく違ってきます。

先に3人でのGigだったので、基本はTrioで、SeanのSoloを入れたのですが、Duoも入れたくなって急遽Seanと丹羽悦子の「Nuagues」をプログラムに加えました。すると、そのDuoがリハーサルの時から素晴らしかったのです。それで4人でのGigの中でもプログラムに加えたんです。

4人になると、構成の幅も広がりますが、曲ごとの演奏時間を考えると工夫も必要になります。結局はSolo、Duo、Trio、全員参加と言うフォーメーションを全部使いました。

皆、文字通りExtraordinaryなギタリストなので、面白いアイデアが次々にリハーサル時に出てきますから、それをメモするのが大変なくらいです。多少のハプニングもライブならではの演奏者の楽しみですから(笑)。そんな楽しさがお客様に伝わるようなShowだったと思います。

Hiro Yamanakaさん プロフィール

1957年生れ、和歌山県出身、横浜市在住。1977年、大学在籍中にバンドマンを経てプロ・フュージョン・バンドに参加。卒業後に就職したことでセミ・プロ活動に変更。2003年9月に勤続約23年の一部上場国際物流企業を退社し、ホテルのラウンジ演奏でプロ復帰。2006年から約8年間、KANKAWAグループの一員として活動し、2010年にKANKAWA Trioをバックに初リーダー作『Sorry I’m Late』をリリース、2015年のRGB名義で鍵盤ハーモニカTrio作『Love Knot』をリリース、2020年に当時デビュー作になる予定だった2010年のライブ音源『LIVE』をリリース。ギターの師は渡辺香津美、鈴木勲、高内HARU春彦各氏。
2004年から音楽ライターとしてシンコーミュージック発行のムック『jazz guitar book』Vol.3~最終のVol.38まで寄稿。現在まで1,400本以上の記事やライナーノーツを執筆。
2005年に個人事務所“a Taste of JAZZ”を開設しマネジメント業務、レーベル業務を行い、現在に至る。

■前編 最後に(編集者から)

最近、なかなか記事をご紹介出来ていません。単に私が公私で忙しく余力がないのが原因。そんななか取材のキッカケをいただいたHiro Yamanakaさんに、まずは感謝です。2回ともに、4人の個性が引き立つ、とても刺激的なライブでした。この絶妙な人選はHiro Yamanakaさんプロデュースの賜物です。

肝心の各演奏家同士による個性分析については、後編記事(下記リンク)でご紹介させていただきます。ぜひ、お立ち寄りください。

後段記事(リンク先に飛びます)

余談ながら、ジャズの面白さのひとつは、その場かぎりの新しい音楽が生み出されるところ。ゆえにライブの参加者だけで留めておくのは勿体無い。常々、こうした貴重なライブ音源を有償視聴できる横串プラットフォームがあったら良いのになあと思います。

演奏家に対価が支払われる仕組みや著作権の処理など、調整が大変すぎて迂闊に手は出せませんが、需要と供給を結ぶ新しいサービスの実現を期待・検討したいところです。

【ご案内】X(twitter)にて記事の新着をお知らせしています。 https://x.com/jazzguitarnote/

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