前回の達人インタビューから、5ケ月も経っていました。教則本やHPではあまり見かけない、演奏家による演奏家のためのメッセージを頂けるので、私自身が楽しみにしている連載です。
毎回共通の3つの設問は、私が長らく抱えているテーマ。決まった答えがなく、人それぞれの主義やスタイルがあります。そして、いざ言葉にしようとしたら、意外に迷ってしまうかもしれません。快諾いただき「回答を考えたいので、ちょっと時間ください」とお返事いただきながら、2年以上経っている方もいらっしゃいます。
今回、インタビューをお願いしたのは、関西エリアを中心に活躍されている中野純さんです。井上智さんからご紹介いただき、「京都とジャズ」の連載でもご協力をいただきました。
では、いつもの質問に。中野さん、宜しくお願いします。
◼️始められない時、集中できない時の切り札
切り札でも何でもないかもしれませんが、ギターを弾かないですね(笑)。この質問のことは試行錯誤しましたし、実は今もしています。
弾かないより弾く方がマシかなと思って基礎練習のメニューを練習していましたが、集中していない時って細かい動きも雑になるし、耳も集中していないので、そのことも聞き逃してると思います。結果的に変な癖がつくと思ったのでギターを弾かないことにしました。
逆に集中出来ている時ってどんな時かなって考えてみると、アイデアが思いついている時ですね。そんな時はずーっと弾いています(笑)。疲れていてもですし、弾いているうちに色々な所が痛くなってもお構いなしで弾き続けています。
では、どうやってアイデアを思いつくのかですよね。皆さんもそうだと思いますが、YouTubeやSNSでの動画から刺激を受けることが多いです。ギターに限らず演奏者の指の動きや体の動きを見ることが、とても好きです。
例えばギターだったら左手の指の動きですね。ジャズギタリストも沢山見ますが、学生時代フラメンコギターもやっていたこともあり、フラメンコギタリストのVicente Amigoの動画は良く見ます。動きそのものが芸術に見えるので、とても刺激を受けて、またギターが弾きたくなります。YoutubeやSNSでの動画ではインタビューやセミナー等の動画もあるので、そこからアイデアを得ることも、とても多いです。
また、CDの音源はMP3プレイヤーに入れているので、時々ランダムで聴いています。その時に誰の演奏か、何の曲かを見ずに聴いていると、新たな発見があります。その他には、音楽以外の好きな事することで、リフレッシュします。ギターを弾く事から離れていると、自然とまたギターが弾きたくなってきます。
私からの提案は、ギターを弾いていない時、例えば外出や通勤の時などに、「今日は何を弾くか」、YouTubeやSNS等でアイデアをあらかじめ探してから練習されると、効率的で質の高い練習が出来るのではないでしょうか。
その他、私がやっていることを箇条書きにしました。
・いいなと思った曲をいつもメモしている(集中できない時に弾いてみる)
・弦のメーカーやゲージを変えてみる
・ピックを変えてみる
・ギターを変えてみる(フルアコ、セミアコ、ソリッド、ガットギター等)
・アンプを変えてみる
・ギターの形や色、木目等ギター本体が好きなので、ギター本体を扱ってるサイトや動画を見る
・アンプやエフェクター等の機材を扱ってるサイトや動画を見る
◼️理論を実践に昇華させるには?
理論と実践の関係は、「理論→実践」だけではなく「実践→理論」もあると思います。いわゆる「理論は後からついてくる」と言われるものだと思います。準備(理論)が整ってから実践(アドリブ等の演奏)をするのではなく、準備が整わなくてもアドリブ等の演奏をした方が、前進していくと思います。少し前のめりぐらいが、いいのではないでしょうか(笑)。
私もジャズを勉強し始めた時に、このことを大きな課題に思っていました。最初は独学で勉強していて、教則本や理論書を読んだりしていましたが、音源の様な演奏にはほど遠く、私の場合は独学では難しいと思いました。そこでジャズスクールに通うことに決めて習い始めると、色々なことが解決しました。習いに行くことが一番の近道かもしれませんね(笑)。
解決したとは言っても昇華させるには時間がかかりました。「理論→実践→理論→実践→・・・・」を何回も何回も繰り返して、やっと昇華できるといった感じです。今でもそうですね(笑)。
少し具体的に言うと、指板上で理論を理解していく事がポイントだと思います。例えば「CとAmは代理関係にある」ということについて、それぞれのコードをローコードで押さえると、なんか似てる!とか、ローコードのF#m7(b5)とAmは6弦以外一緒だ!とか、7フレットをバレーコードで押さえるEmは人差し指を6弦8フレットにするとCMaj7になる!といった感じですね。もっと難しい事でも、指板上でこの様に考えると腑に落ちやすいですし、実践的で効率的であると思います。
おすすめは、テーマをコードを交えてソロギターで弾くことです。テーマは色々なアイデアの宝庫だと思っています。例えば、テーマのメロディーをコードのトップノートにすることで、今まで押さえたことの無いボイシングになると思います。トップノートがテンションだった場合、このことは正に理論書にある、「このコードの時はこのテンションが使える」ということと同じなので、理論を実践出来たということになると思います。
更に理論的知識や実践的な知識をもとに譜面を読んでいけると、物語を読むような感じで、自分なりに譜面を読めるようになると思います。指板上でメロディーとコード進行が何を意味しているのか、作曲者になったつもりで考える事が出来ると、新しい曲を演奏することがとても楽しくなります。アドリブをコピーした時も同じですね。
そうすると作曲したくなるので、作曲してみましょう。作曲は理論や知識を実践するにはとても良いです。アドリブを考えることも作曲に近いので、同じようにやってみると良いと思います。
また、コードにはテンションがありますが、「このコードにはこのテンションが使える」と理解することに留まらずに、その音の雰囲気も併せて覚えると良いです。覚えるというか味わうというか浸るというか、楽しむという感じですね。
これらのことは、誰かに教えるつもりで考えてみると深く理解出来ると思います。あと理論書は斜め読みして、辞書のように使うと良いと思います。
◼️いまの自分を乗り越えるコツは?
「乗り越えなければならない!」と思うと難しくなると思いますが、常にワクワクすることを探していれば、自然と色々なことにチャレンジするので、私はワクワク感を一番大切にしています。自分自身に「楽しんでるー?」みたいな感じですね(笑)。
例えば、気になる音源があったときに、あえてコピーせずにいっぱい聴いて雰囲気だけ感じ取って、その雰囲気になるように弾いてみたりします。出来ないことも多いですが(笑)。勿論コピーもします。
頭で理解することも大切ですが、感覚で理解することも大切だと思っています。
音楽は発明だとも思っています。ジャズの歴史はチャレンジを繰り返して、その音楽を発明してきたと言えます。今この瞬間も行われています。自分自身の演奏も発明するという気持ちで取り組むと、自然と今の自分を乗り越える事が出来るのではないでしょうか。
例えばYouTubeやSNS等には演奏の解説動画等が沢山あります。その中でも自分の気に入ったものを見つけたら、こういう風に弾いてみたいと思うと思います。その時にそのまま弾くのではなく、自分なりに今の知識の中で感覚を使って、自分らしくアレンジして発明するかのように自分のものにすれば良いと思います。
また、ジャズは幅が広い音楽だとも思います。しかしそれらは全てジャズという一つのものに集約されます。先ほどは発明と言う新しい事をするといった感じでしたが、ジャズの歴史の中には根底には変わらない、基礎的な何かがあるのではないでしょうか。それは何なのか。色々な時代の音源を聴きながら、聴き比べることも楽しいことの一つです。
自分の演奏と巨匠の演奏を比べてみるのも、今の自分を乗り越えることに通じると思います。例えば好きなギタリストがJoe Passだったら、自分の演奏とJoe Passの演奏を何回も何回も聞き比べて改善できるところを見つけて下さい。
技術を高めることで色々なことが解決することも多いので、基礎練習を見直します。アーティストのインタビュー等で技術的なことを少ししか言っていなくても、それを頭の中で拡大して「こういう練習かな?」みたいに考えます。印象的な言葉はいつもアンテナを張っています。最近では高内晴彦さんのインタビュー動画でセゴビアスケールの事を話されていたので、自分なりに工夫したものを基礎練習にしています。
◼️読者の皆さんにメッセージ
以上、三つの質問に共通することはワクワク感ですね(笑)。自分自身の機嫌を取りながら、自分自身をワクワクさせられることを見つけて下さい。
◼️中野純さんプロフィール
2019年に東京御茶ノ水ソラシティカンファレンスセンターで行われた「Jazz Guitar Contest 2019 sponsored by Gibson(G-Club Tokyo × jazzLife)」で優勝。
中学生の時にエレキギターを始め、立命館大学在学中にジャズのライブ活動を開始するとともに、クラシックギタークラブに所属し、クラシック・ボサノバ・フラメンコ等の演奏も行う。ジャズギターは田井泰弘氏、畑ひろし氏、菅野義孝氏に師事し、現在は関西を中心にライブ活動中。
大阪府高槻市出身。高槻市で「中野ジャズギター&ボーカル教室」を主宰。
https://nakano-jazzguitar.jimdofree.com/
(参考音源)
・Jazz Guitar Contest 2019 sponsored by Gibson より「Stella By Starlight」 https://youtu.be/LvdBcACGuxk
・多田誠司&中野純Live at bochi bochiより「Red & Gold」
https://youtu.be/h59xE_jx8BU
・ソロギターライブより「Lennie’s pennies」
https://youtu.be/B8Ts0SPt1Bk
◼️最後に(編集者から)
中野さんには、お忙しい合間の時間を頂いて、京都の喫茶店でお会いしました。会話のなかにも、思慮深さやギター道に対する真摯な姿勢が伝わってくる、魅力的な方。直接ご指導受けたら、沢山の発見を頂けることと思います。
今回のインタビューでは様々な気づきがありました。個人的には「おすすめはテーマをコードを交えてソロギターで弾くこと。テーマは色々なアイデアの宝庫だ」の助言がタイムリー。先週末に、横浜関内のセッションに参加してきて、つくづくメロディの大切さを感じて帰ってきたところだったので、ちょうどツボにきた感じです。このアプローチは他のギタリストの方々も推していらっしゃるので、有効性高いはず。早速、今日から日々の練習に取り入れてみます。
そして最後に頂いた「自分自身の機嫌を取りながら、自分自身をワクワクさせられることを見つけて下さい。」のメッセージ。最前線で活躍されている方々も、日々研鑽を積まれている。自分の今に満足できないことこそ、進化の原動力なのだと捉え、楽しく追求を続けていく。いやホント、その通りですね。私自身は、先週末のセッションで凹んで帰ってきたばかりなので、早く「ワクワク感」を取り戻して、前を向かないとといけない状態です。
ということで「達人に聞く」連載の18人目は中野純さんでした。この連載は、出会い任せにしているところもあり、頻度高く取り上げていくのは厳しいのですが、今後もボチボチ続けてゆきたいと思います。中野さん、取材ご協力ありがとうございました。