ネットで調べごとをしていたら「朝ジャズ」というイベントのレポートを発見しました。その名の通り、夜でも昼でもなく、朝10時から開催されていた、ジャズのライブ企画です。会場は、逗子にある海沿いのカフェ。載っていた写真からも、見慣れたジャズライブとは違った、素敵な雰囲気が伝わってきました。とても新鮮に思えて、主催していた方に、お話を聞いてみたくなったんです。
■女性ベーシスト:若林美佐さん
お話をお聞きしたのは、女性ベーシストの若林美佐さん。今はご結婚されて、山形県鶴岡市に引っ越されたため「朝ジャズ」企画も終了となってしまいました。
若林美佐さん
https://www.misawakabayashi.com
女性ジャズベーシスト。奈良県出身。小学3年生から打楽器を始め、大学生の頃にジャズベースに興味を持ちエレキベースを手にする。一旦は真っ当な社会人生活を送るも「ジャズベーシストになってみようかな」という思いから退職し、ウッドベースを習い始める。同時に(強引にも)プロミュージシャンとして活動を開始。2002年にはNYに渡米。帰国後、首都圏・関西を中心にライブ活動。現在は山形在住。
若林さんに当時のこと、思い出してもらいながら、お話を聞いてみたいと思います。若林さんインタビュー宜しくお願いします。
■身近にジャズのライブを楽しんでもらいたい
多くの人にとって、ジャズは「敷居の高いもの」というイメージがあるかもしれません。
実際、私もそう思っていた一人でした。聴きたくてもどこに行けばいいのか、行ってみたくてもジャズクラブに行くのはちょっと・・・という人も多いと思います。
演奏活動を始めた頃から、ジャズライブを開催していないカフェやレストランに企画を持ち込んで、ライブを開催していました。身近にジャズのライブを楽しんでもらえたらいいな、と思ったからです。
■ジャズの朝活
当時、都心のカフェなどで「朝活」が話題になっていたこともあって、ジャズも「朝活」として、「学び」の要素を交えてライブを企画すればいいかも、と考えました。
「朝ジャズ」は数カ所で開催していましたが、主に逗子の海岸沿いの渚小屋というカフェで開催していました。ここは窓から海、天気のいい日には富士山も見えて、最高のロケーションでした!
一緒に演奏していたのは、ギタリストの佐津間純さんです。10年以上デュオで活動していますし、信頼できる、素晴らしいギタリストです。朝ジャズとは関係ないですが、ベースとギターのデュオはコンパクトな編成で、どこでもライブが出来ますよね。
佐津間くんが朝ジャズの企画を面白がってくれて、しかも朝早くからの演奏にも関わらず、快く一緒にやってくれることになりました。結果的に、夜のジャズクラブではあまり演奏していない曲も演奏できたり、私としても毎回どんなギターが聴けるのか新鮮で楽しみでした。
■演奏者が当たり前のことも、聴く側には当たり前じゃない
朝ジャズを一緒に企画してくれた友人と話すうち、ジャズを演奏している側からすれば、当たり前だと思っていたことも実は聴く側からすればそうじゃない、ということもよくわかるようになりました。
彼女は企画、朝ジャズのホームページの運営、当日の受付などを引き受けてくれただけでなく、客観的な視点で、朝ジャズの内容が面白いか、そうでないかも助言してくれました。普段からジャズを普通に演奏している私たちでは気付けない部分もたくさんありました。
■聞くに聞けない質問に答える講座
朝ジャズの大きな特徴は「ジャズ講座」とライブを組み合わせた点です。まず、「何をやっているのかわからなくて難しそう」という部分をちょっとでも「なるほど!」という風に思ってもらいたかったんです。
例えば、「私たちはライブで何をやっているのか」ということを解説したりしました。
ライブを聴いている方から多い質問の一つは、「なぜ楽譜もないのにそんなに長く演奏できるのか」ということです。
そこで、お客様に楽譜(メロディーとコードを書いてあるもの)を見てもらい、メロディーの後にそれぞれの奏者がアドリブ(即興演奏)をしているということを説明しました。どこで拍手をしていいかもよくわからない、という声もよく聞くので、それぞれアドリブが終わった時に拍手くだされば嬉しいです、とお話しします。
ジャズの演奏には少なからずその場の雰囲気が影響すると思います。お客様の反応が大きければ演奏している私たちも嬉しいじゃないですか。お客様も拍手のタイミングがわかれば安心して拍手できるし、それがライブを作ることにもつながる。演奏場所、ミュージシャン、お客様、それが一つになってその場限りの作品になる、それってジャズの面白さだと思うんです。
この話の結果、朝ジャズではいつもお客様に盛り上げてもらって、とても気持ちよく演奏させていただいていました!
■朝からジャズ?という声も
「朝ジャズ」は数ヶ月に一度開催していました。リピーターのお客様も多かったので、毎回テーマを変えて企画していました。「エリントン特集」「ジャズの歴史」などなど。料金は飲み物付きで2500円。学生料金、子ども料金も設定しました。小学生のお子さんも多かったです。
朝からジャズ?という声もあったのですが、実際参加してくださった方からは「朝から充実した時間を過ごせた」「ライブが終わってもまだ午後から時間がたっぷりある」「一日を有意義に過ごせる」という声を多くいただきました。意外にも「ジャズが朝の雰囲気にピッタリ!」という感想もいただきました。
■山形でも活動継続中!
ジャズを聴いてみたいけど、きっかけがない、どういう風に聴いたらいいのかよくわからない、という方にも少しでもジャズに親しんでほしいです。そして、いろんなジャズの音源を聴いてもらったり、ジャズクラブにも足を運んでいただいて、もっとジャズを楽しんでもらえたらいいな、と思います。
結婚を機に、山形に引っ越してしまったので、逗子での朝ジャズは一旦終了したのですが、現在も近所のコミュニティーセンターや文化センターでジャズ講座付きのライブを時々開催しています。山形でも「朝ジャズ」をやってみたいな、とも思っています。
■最後に(編集者から)
今は無くなってしまった「朝ジャズ」活動。鎌倉・葉山方面に、ちょいちょい足を運んでいる私としては、知らなかったこと、参加できなかったこと、悔やまれます。
演奏家としての進化や発信を計りながら、同時に、企画を作っていくことに時間や労力を割くことの難しさは、重々分かっているつもりです。単発で終わらせず継続開催されていた若林さん・佐津間さんに敬意を表します。
若林さんのご経験談からの学びとしては、アイデアを形にするときに、仲間を巻き込んで楽しんで作っていくことでしょうか。より開かれた場となり、長続きする活動になっていくコツなんだろうなあと思います。「こんなこと、できると面白いよね」という雑談してみるところからかもしれませんね。
「鎌倉/逗子/葉山とジャズ」連載の第1弾。今はなき「朝ジャズ」のご紹介でした。インタビューにご協力いただきました若林さん、ご協力ありがとうございました。
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