米国ミルウォーキーのセッション事情

近所のジャズセッションで何年かご一緒し、ライブにも一緒に出させてもらったテナーサックスのAさんが、昨年11月から、お仕事の関係で米国ミルウォーキーに赴任しています。

正直、ミルウォーキーと聞いて、どの辺りに位置する町だったかすら覚えていませんでした。ミルウォーキーは、ウィスコンシン州にあって、シカゴからほぼ真北に150km南、ミシガン湖の湖畔にある都市で、酪農とビール醸造で有名です。

そんなAさんが、どうやら職権乱用(単身赴任&会社負担の住環境)し、地元でセッションやライブに通っているようなので、今回、取り調べをおこなうことにしました(よほど後ろめたいのか、ご本人の希望で匿名です:笑)。

■ミルウォーキーにはジャズを演っている店が沢山

(田中)お久しぶりですー 本日は、ミルウォーキーのジャズセッション事情のご紹介、宜しくお願いします。まずは簡単に自己紹介お願いできますか。

(Aさん)アメリカに本社をもつメーカーの研究開発部門で働いています。本社でのローテーションプログラムがあって、半年ほどアメリカに勉強に来てます。テナーサックスを吹いてます。

(田中)色々と、セッション荒らしをしていると聞きましたが、ミルウォーキーはジャズの盛んなところなんですか?

(Aさん)他の町を知らないから比較できないんですけど、ジャズに関して言えば演奏している店が沢山ありますね。

■セッション情報の収集はfacebookで

(田中)セッションやライブの情報はどうやって仕入れているんですか?

(Aさん)主に見てるのはFacebookのコミュニティです。掲示板のような形で、みんながポストする感じです。開催日・場所・ホストの情報とともに、ミルウォーキーのセッションが一覧で紹介されるので便利ですよ。

「Milwaukee Area Jam Sessions」
https://www.facebook.com/groups/2031500593746058/

(田中)これは便利ですね。こういった情報集約サイトは、横浜にはないなあ。店のリストやマップはあっても、セッション情報としては集約されてなくて。

(Aさん)重宝してますね。ここの情報を見て、行きやすいとこに行ってる感じです。

(田中)「行きやすい」というのは立地ですか?雰囲気?

(Aさん)立地ですね。基本的に移動はバスなんですけど、そのバスの路線によって行きやすい所と行きづらい所があります。あとはセッション演ってる所がバス停から10 分ぐらい歩く場所だと、往きはいいんですけど、帰りは夜の10時とかになって怖かったりして。

(田中)やっぱり夜の独り歩きは怖いんですね。

(Aさん)怖いエリアと怖くないエリアがあって。怖いエリアで、夜10時とかに、バス停まで10 分歩くのはやっぱり。。ダウンタウンの真ん中じゃなければ、夜道の独り歩きは、ちょっと気にしなきゃいけないですね。楽器を持ってると目立ちますし。如何にも「高価な楽器が入ってます」みたいな形をしたケースを持ってますから。

(田中)お金持ってるカモだ、ってことになるわけですね。

(Aさん)そんな感じに見えるとちょっと怖いなって。

❶若手ミュージシャンを支援するチャリティライブ+オマケセッション

(田中)では、参加されたセッションを紹介いただけますか?

(Aさん)先ず、寄付を集めて奨学金を出している団体主催のジャムセッション。ここに限らず、他の大学でも若い子を育成しようという団体が幾つかあるのですが、そのうちのひとつです。

(田中)若手支援のチャリティですか、素敵ですね。横浜だと「ちぐさ賞」として若手ミュージシャンの応援コンテストをやってますが、優勝者は奨学金じゃなく、CD制作のサポートでしたね。そちらでは「ジャズを町ぐるみで応援しよう」というような機運があるんですか?

(Aさん)いや、アメリカ人って言っても、いろんな人がいるので、日本と違って単一民族ではないし、肌の色も違うし、食べ物にしても。音楽も、ジャズだからといって特別ではない気がしますね。

(田中)なるほど。チャリティ付セッションというのは、具体的にどういう感じなんですか?

(Aさん)全体が3 時間あって、最初の 1 時間は、ホストバンドにゲストのボーカリストが入ったコンサートです。どっちかというと、お客さんはそっちを目当てに来てるという感じでした。

(田中)その後にセッションなんですね。チャリティの相場は?

(Aさん)聴きに来ているひとも、セッションに参加するひとも寄付するんですけど、10 ドルぐらい。セッションの参加料は無くて、寄付だけです。

(田中)思ったより低額ですね。ホストの演奏レベルも高い?

(Aさん)ホストはプロですね。最初の1時間がメインで、みんなそれを聞きに来てて。で、残りの 2 時間のセッションは、ほんとオマケです。

(田中)ホストメンバーの編成は?

(Aさん)伺った時のホストバンドは、キーボードの人がメインで。彼が足鍵盤でベースを弾くのでベースレスでした。あとドラムにテナーサックス。彼らもめっちゃレベル高い。何処のセッションもそうですけど、どの曲をリクエストしても譜面も何も見ずに、何でもリクエストに応えて演奏できる。この店は特にボーカルのセッション参加が多いんですけど「このキーにして」って言うと、そのキーですぐやるし。まあ、プロだから当たり前なんでしょうけど。

(田中)チャリティでお金をいただいてのライブとなると、相応のクオリティを要求されますよね。セッションの様子はどうです?

(Aさん)自分の指定曲でないところでも、セッション参加者のリストから選ばれて、歌のバッグで入れって言われるんですよ。間奏のところ吹けって。この歌ものが困ったもので、曲が全然わかんないです。ジャズなのかどうも全然わかんなくて。昔流行った曲なのかもしれませんが。そういう曲は、独特のキメもあって。みんなでキメをやってるんですけど、自分だけは分かんないみたいな。流石に歌はダメだなと思って、歌のバックはできないから、あの普通のインストだけやらしてくれって、最後には言いました(苦笑)。

(田中)流石に知らない曲で、譜面もなしでキメ合わせろと言われてもねえ(苦笑)。若者支援のチャリティということは、かなり若い演奏家の参加が多いんですか?

(Aさん)年 1 回のコンペみたいのをやってて。その優勝した人、準優勝の人に奨学金あげるんですけど、優勝した子とか共演者が参加してますね。

(田中)他に日本人いました?

(Aさん)いや、アジア人がまずいないです。

(田中)ノリの違いとか感じました?そんなに変わらないですか?

(Aさん)結局、セッションで音が鳴って始まってしまえば何も変わんないですね。拙い英語でコミュニケーションするよりは、演奏のほうが楽です。日本と変わんないです、なんも。

(田中)出番は、どれぐらいあるんですか?

(Aさん)セッションは 2 時間ですけど、人数が多いと 1 人1 曲です。人数が少ない場合は「今日は 2 曲選んでいいよ」って言われたりしますね。それでも 2 曲です。

(田中)1曲入魂なら乗り越えられそう。

(Aさん)このレストランは高齢のお客さんが多いんで、ちょっとノリがいい曲とかになると、皆んなすぐ踊っちゃいますね。立って、旦那さんとおばあさんと踊り始めたり。ほとんどの人は、最初にやる 1 時間のコンサートを見にきてて、プロの演奏を聴いた後、流れで素人演奏も聴いてくれてるって感じ。いい感じに飲んだ後なんで、踊っちゃおう的な。ちょっとバラードっぽい曲をやると、今度はチークのダンスが始まって。

(田中)日本じゃあ、見られない光景ですね。以前の取材で、ジェントル久保田(Gentle Forest Jazz Band)さんは、日本のセッションやジャズクラブが、むしろ特殊だと仰っていました。もっと、お客さんを意識することとか、気軽に音楽を楽しめる環境づくりとか。横浜も変わっていって欲しいなあ。

(田中)ソロ回しとか、セッションのお作法は変わらないですか?

(Aさん)変わらないです。ホストがずっといて、そこに演奏する人が交代して入っていく感じ。ジャズ版カラオケなので、むしろ不安は軽いかもしれません。

❷ちょっとレベル高い、ミュージシャン中心のセッション

(田中)他のお店はどうですか?

(Aさん)コミュニティセンターみたいな、ちょっと広い公共施設で開いてるセッションに行きました。ここは、どっちかというと歌は少なめで。全体が2 時間で、最初にホストのバンドが 1 〜 2 曲、温めた後に、じゃあセッションやりましょうみたいな感じで。先ほどの店と比べると、こっちの方がレベルが高い。上手な人が来ますね。

(田中)写真も、さっきとだいぶ雰囲気違いますね。

(Aさん)ここはホスト目当てじゃなくて、聞いてる人もセッション参加する人ばっかりで。いわゆる日本のセッション的な場です。

(田中)ホストの編成は?

(Aさん)ピアノ、 ベースギター、ドラムに、テナーサックスのお姉さん、という構成です。どの曲をリクエストしても。即座にやってくれます。

(田中)こちらもカラオケ方式で、1 人ずつ呼ばれてやる感じですね?

(Aさん)はい。ホストのバンドに 1 人ずつ呼ばれて、呼ばれた人がドラムだったら、ホストのドラムが抜けて、残りはホストのメンバーになります。

(田中)参加料は幾らぐらいなんですか?

(Aさん)チップ制なんです。

(田中)チップって慣れてないから、よくわかんないですけど、食事代の何%って感じじゃないから、迷いますね。

(Aさん)そうですね。まあ気持ちなので、自分は 10 ドルとか 20 ドルとか入れてますけど。他の人は幾らくらいか、よくわかんないです。ホストの人たちも、その場所に対して使用料みたいなもの払ってるかもしれないんで、やっぱり少なくても可哀そうだなって思いますし。

(田中)何人ぐらい来てるもんなんですか?

(Aさん)演奏する人は 10 人ぐらい。その人たちが何人か連れてきて、お客さんとしては20 人ぐらいかな。演奏する参加者の友達とか家族とか。

(田中)店に入ってからの流れはどんな感じです?

(Aさん)お店に楽器持って入ると、エントリーシートに書いてくれ、と言われて。お金は、入店時ではなく、帰る時に払います。最初に行った時は、あまりに楽しくて、払い忘れちゃったんですけど(笑)。エントリーシートに、名前・パート・希望曲を書いてから、適当に席に座ります。

(Aさん)待ってると、MC役の人が出てきて始まって。ホストのバンドが 2 曲ぐらいやると、MC役の人が「じゃあ○○さん、楽器は○○、曲は○○です」みたいに呼ばれます。ステージに上がってから、キーとテンポを伝えてスタートです。

(田中)流れは日本と変わらないんですね。曲間のサインは同じですか?アイコンタクトとか。

(Aさん)同じです。アタマに戻る、フォーバースなどのサインも。フロントなので、例えば「テーマ 2 回やるよ」とか「 1 回目はユニゾンで、2 回目はハモリやるよ」とかあれば、始まる前にチョコチョコッとフロントの人たちに伝えて。

(田中)ヤリトリには、どのくらいの英語力を必要とするんですか?もし、この記事を見た読者が、渡米したついでに、自分もセッションにチャレンジしてみよう!と思った時に、ふらっと行けるものかどうか。

(Aさん)英語は全然いらないです。音楽が始まってしまえば、全く要らないじゃないですか。例えば自分はフロント側なんで、最初に「この曲やりたい、キーは、テンポは」と伝えれば済む感じですよ。

(田中)ちょっと安心しますね。

(Aさん)超単純なジャパニーズイングリッシュですよ(笑)
Theme twice とか、First time,we Play Unizon,second time,we may go off harmony.とか、You play lower part,I play upper part.とかね。全然そんなもんで行けます。

(田中)勇気づけられました。お客さんの反応はどうですか?ちゃんと聞いてくれてる感じですか?

(Aさん)聞いてますよ。拍手もいただけるし。やっぱりノリのいい曲の方が、みんな乗ってますね。

(田中)みんな、どんな曲を指定してますか?

(Aさん)1軒目と違って、この店は基本的にスタンダードです。たまにオリジナルでやる方もいて。ギター弾きながら歌う人で「Cマイナーで合わせてください」みないな、すごい単純なものですけど。

(Aさん)全体2 時間で、1 人1曲で余ったりすると、おかわりタイムみたいなのが始まるんです。そうすると「君と君」みたいに指名されて「○○、できる?」みたいな。

(田中)できるって言うのは「譜面見ないでできる」という前提ですよね?

(Aさん)そうですね。一応、譜面台はあるんで、持ってても別にいいんですけど、他の人は誰も見てないから、格好悪いから持ってけない、みたいな。

(田中)やっぱり格好悪いっていうのはあるんですね。

(Aさん)ホストの人達はチップがもらえれば万歳なので、別に譜面を見て演ってるからどうよとか、そういうのはないです。お前、譜面を覚えてこい、みたいな文句言う人も別にいない。どちらかと言うと、自分の見栄のためにやるんだ、という感じですね。ニューヨークとかのセッションに行くと、もっと圧があるかもしれませんが。

(田中)楽譜は見ない上に、ボーカル入れば臨機応変なキーにも対応できなきゃいけない。まあ、お代わりタイムに指名が入った時の話なので、どうしても厳しそうなら断ることも出来ると。最低限、自分の指定する1曲は「この曲なら、どっから来てもなんとかなる」って感じにしておくことは求められそうですね。

❸セッション無し、自宅から徒歩5分のライブハウス

(Aさん)3 軒目は、ダウンタウンにある、ライブスペースがあるバーなんですけど。

(田中)壇のステージが無くて、関内にあるジャズクラブのような場所ですね。

(Aさん)はい。普通のバーの 1 番端っこに、アンプとかドラムが置いてあって。ジャズに限らず、ヒップポップやブルース、ロックもやってます。ジャズの日があるので、狙って行ってる感じです。金曜日にジャズのことが多いので、金曜日に。

(田中)ココはセッションじゃなくて、ライブを聴きに通ってるんですね。

(Aさん)家から 歩いて3 分で行けちゃうので。そして、こっちの金曜日は、日本だと土曜日の朝なんで会議がない(笑)。

(田中)なるほど!時差メリットがそんなところに。金曜日に限らず、同僚の人たちと誘い合ってライブに行く、みたいことあるんですか?

(Aさん)人によりますかね。。先日、ハービーハンコックのライブに行ったんですけど、同じフロアで近くに座ってる人で「僕も行ったよ!」って人がいて。その人は楽器をやらないんですけど。

◼️もっぱら電子サックスで練習

(田中)普段の練習とかどうしてるんですか?勝手なイメージでは、セントラルパークのような公園で、夜な夜な練習しているような(笑)

(Aさん)楽器を吹く練習は全然できてないっすね。電子サックスをひたすらやってます。外で吹くには、ちょっと寒くて(笑)。自分ここに来たのは 11 月で今5 月ですけど、まだまだ寒いんですよ。あと、やっぱり金ピカの楽器を出して外で演奏して安全なのかどうかってのも、ちょっとわかんないですね。

(田中)セッションで仲良くなったりとか、そういう拡がりはありますか?

(Aさん)facebook上で、3 人ぐらい、会社じゃない人と友達になりました。最初に行って、ちょこちょこと話して、次に別のとこに行ったら、また会って。あ、この間もいたね!じゃあちょっとfacebook繋がりましょう、みたいな。

(田中)その辺りの間合いは、日本と変わんないですね。折角の機会を満喫してる感じが伝わってきました。羨ましいなあ。

◼️昨日まで出来ていなかったことが今日はできた!を楽しみたい

(Aさん)日本で働いていると「出来ていないこと」「行ったことがない場所」とか、挑戦してないことがいっぱいあるじゃないですか。昨日は自転車に乗れなかったけど、今日は乗れたとか、子供の頃は毎日いっぱいあったのに。そういう「昨日できなかったことが、今日はできる」みたいなことは、日本で、おじさんになってくると全然ないんですよね。

(田中)ジレンマを感じている方、共感する読者は多いと思いますね。

(Aさん)僕は、今、それを取り戻してる感じです。行ったことがないアソコにバスとか電車で行ってみるか、とかね。次の週末は何しようかな?って、1週間ずっと考えてる感じ(笑)。ニューオリンズに親戚がいるんで、ちょっと遠いですが行ってみたいと思っています。

(田中)いいですねー 時間は作ろうと思えば絶対作れるし、やろうと思えばチャレンジだけは誰でも絶対できるし、全て自分次第ではありますよね。渡米されても、前向きなAさんの日々が垣間見えて、刺激になりました。私がミルウォーキー出張を作れる可能性は低いと思うので、是非また松原のセッションで。ニューオリンズのレポートも楽しみにしてます。今日は楽しい時間をありがとうございました。

(Aさん)はい、ではまた。ありがとうございます。

◼️最後に(編集者から)

アメリカ北部地方都市の一例として、ミルウォーキーにおけるセッション/ライブ事情をAさんに紹介してもらいました。そんなに日本と変わらないし、なんとかなりそうな感じが伝わっていれば、この記事の目的は達成です。

いま置かれている自分の環境を最大限に生かして、やったことがないことを試してみる、というAさんの姿勢やワクワク感、私も大切にしたいです。

Aさん、お忙しいなか、取材ご協力ありがとうございました。

【ご案内】X(twitter)にて記事の新着をお知らせしています。 https://x.com/jazzguitarnote/

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です