「地域とジャズ@横浜」をテーマにした連載。第1回は「音楽学校の集積地」と題した記事をご紹介させていただきました。https://jazzguitarnote.info/2023/05/03/yokohama-jazz-1-barbarbar-school/
コロナ禍の影響や建物の建て替え等で、ここ数年、横浜関内にあった多くのジャズスポットが閉店になりました。ようやくコロナも落ち着き付きつつあり、改めてこれから横浜のジャズが何処に向かっていくのか、関心と期待が募ります。
「地域とジャズ@横浜」第2回となる今回は、横浜のジャズが、もっともっと面白くなっていくことを願って、ジャズ界の内外から注目される存在、Gentle Forest Jazz Bandのリーダー:ジェントル久保田さんをお招きし、前編・後編の2回に分けて、進化に向けたヒントやメッセージを頂きたいと思います。
ジェントル久保田さん(詳細プロフィールは後述)
ビッグバンド Gentle Forest Jazz Bandのリーダーかつ指揮者。
2005年に社会人バンドとして結成、2018年にアルバム「GFJB」でメジャーデビュー。ジャズフェスティバル出演のほか、東京03などコメディアンとのコラボ、映画「ダンス・ウィズ・ミー」やCMへの楽曲提供など、ジャズの枠に囚われず、幅広い活動をおこなっている。
では、ジェントル久保田さん。宜しくお願いします。
◾️トラディショナルをやっているからこそ、どんなところにも転がっていける
Gentle Forest Jazz Bandは、トランペット4人、トロンボーン4人、サックス5人のホーンセクション、ドラム、ベース、ギター、ピアノのリズム隊、そして、ジェントル・フォレスト・シスターズという歌の3人組、そして私を入れて、全体で21人の所帯です。珍しいのは、常にギターがいるところでしょうか。
僕たちの演奏は、トラディショナルな音楽なんです。クラシックジャズから、基本的に外れない路線でライブも演っています。トラディショナルをやっているからこそ、どんなところにも転がって行けるし、変化もできる。いろいろなコラボレーションも可能になる。トラディショナルでありながら、現代と関わる意味で、面白いと思ったことは何でもやりますよ、っていうスタンスなんです。
昔を追いすぎても、再現できないことがあります。また日本人という起源による限界もあります。だからと言って、真似して出来ないまでで終わるのではなく、自分たちで消化したものを、ちゃんと落とし込んで「これが面白いと思ってる」というオリジナルを作っていくことが、何をやるにも大切かなと思ってます。
◾️お客さんを気にしなくて良いと思っていないか?
17年前のバンド立ち上げは、当時観たジャズのビッグバンドやジャズライブに対して、「この演奏を観て、面白いって思う人いるのかな?」という疑問から始まっているんです。お客さんが、そんなにライブを楽しんでいるように見えないというか、楽しんでいたとしても、それが伝わってこなかった。 社会人やプロのライブを色々と観に行くなかで、ジャズを演っている人たちのなかに、お客さんを気にしなくてもいいって思ってるんじゃないの?という人たちを沢山見てきたんです。
たしかに、ジャズだからといって、没頭してる感じとか、難しい顔してる感じとか、出したいのは分かるけれど、偉人のそうした振る舞いは、その背景があってこそできるものなんだと思うんです。自分たちは、何をどういう雰囲気にしたいのかを考えて、お客さんに、何を、どう伝えるかっていうのを考える。そんな大切なことを、多くのジャズミュージシャンは忘れていないかな、と。
◾️サラリーマンを経験してジャズに入ってきたからこその視点
僕はずっとメガネ屋の接客を7年ぐらいやって、音楽の世界に入ってきているので、お客さんという存在に対する考え方っていうのがすごく強くて。お金をもらって、時間をつくって、お客さんがわざわざ足を運んできてくれることに対して、どれほど、どれぐらい最高の時間を過ごしてもらうかっていうのが、やっぱり最低限必要だと思うんです。
どんなに難しいことを演るにしても、どんなに好きなことを演るにしても、やっぱり、お客様に最高の時間を提供する、という点は押さえておかないといけない、という気持ちが常にあって。
ストレートに音楽家になるより、サラリーマンやりながら音楽をやることにもメリットがあるかもしれませんね。僕なんかは、どっちかっていうと、バリバリ音楽家っていうわけでもなく、音楽を始めたのも遅いので。
バリバリの音楽家には見えにくい部分もあって「音楽家が、いま、これをやりたいのなら、こういうシチュエーションを作り上げていけば、もっと面白く見えるだろうな」とか、お客さんにその人の良さを伝える橋渡し的なところを僕は目指したいかな。
◾️最初はバンドメンバーにやりたいことを紙で配ってた
バンドの立ち上げの時は、丁寧に、メンバーに対して、バンドのコンセプトを説明していました。こういう風にお客さんに見せたいっていうものを紙に書いてね。僕のそういった思いを汲み取ってくれるメンバーが集まっていたので、だいたいの感じは分かってくれていたのかな。
当然、分かっちゃいるけど出来てない、みたいな部分も出てきて。僕が基本的に前に立って客観的に見ることができるので、そこは、もっとこうしたほうがいい、みたいなことを伝えたりしてますね。
◾️お客さんを楽しませる進行
Gentle Forest Jazz Bandでは、私はトロンボーンを吹かず、タクトを振っています。あまり例のない役割だと思いますが。そういう指揮者がいたほうが安心して世界観が作れるんです。
例えばバディ・リッチやデューク・エリントンもお客さんを楽しませる進行をやってるんですよね。演奏し終わった後に、バディ・リッチがめちゃくちゃ喋るコーナーがあったり、楽しもうぜ、みたいな工夫をね。
僕もなるべくお客さんが構えないで楽しめるように、曲が終わって前奏が始まって、僕が喋ってて、そのままの流れで曲が始まっていく、みたいな工夫をしたりして。なるべくお客さんに優しい配慮というか。やっぱり安心して聴いてもらいたいんです。なので曲ごとに区切るよりは、全体的な流れで楽しんでもらうようにしていますね。
◾️最初はジャズのライブハウスでは演らないと決めていた
バンド立ち上げから、今の時代と、僕らの好きなビッグバンドジャズを融合させることが出来るのかな、みたいなことを色々と探ってきていて。
最初は、ジャズのライブハウスでは演らないと決めていたんです。もっとジャズを知らない人が楽しめるように、ジャズ以外のライブハウスをメインで演ってたんです。お客さんはスタンディングなんだけど、演ってること自体は、ドスイングのビッグバンドで(笑)。
僕らは絶対それが面白いと思ってやってたんですけど。お客さんが一度は増えたんですけど、やっぱりどんどん減っていって。それで、じゃあ、ちょっとたまには座りでやるかって演ってみたら、めちゃくちゃお客さんが来たんです。そんなことがあって、僕らのコンセプトは、座りでも伝わるんだなと。そこまでお客さんに強いることはなかったのかもなと思って。座りでやり始めてから、結構お客さんが来てくれるようになったんですよね。
◾️お客さんには「こんな風に観たい」というイメージがある
お客さんには、このバンドだったら、こういう風に観たい、というのがやっぱりあるんです。じゃあ、ジェントルのライブは、どういう状態で観ると、一番楽しめるかなっていうのを考えています。
コロナでお店は潰れちゃったんですけど、青山のCAY(カイ)というライブハウスで、「Swingin’ & Stompin’」っていう企画を始めました。
CAYは130人とか入ると満杯になるくらいの大きさで。ステージに対して、長い机が並んでいて、そこに、ギュウギュウに皆んな座って。で、お酒を飲んだり、ご飯を食べたり、喋ったりしながら観てる。ステージの合間に、今日の特製パエリアです!という紹介があってメニューが出てきたりして。後ろの方ではダンサーが踊ってる。
昔の30年代、禁酒法時代の賑わいや雰囲気は、とてもアニメ的だったように思うんです。その中に自分も入れたらいいなって言うのが、皆んな、あるんじゃないかと。だから、そういう世界観を作ってました。自分たちは、全然儲からないですけどね。そういう世界観を作って「僕たちがやりたいことっていうのは、こう言うことですよ」っていうのを3年ぐらい、隔月で続けてました。
でももう今、CAYがなくなっちゃったので、そういうことが出来るお店を探ってる段階なんです。意外となくて。ステージの広さも必要だし。ダンサーさんが踊るスペースも。ジャズを知らない人は、子供を連れてきたりもする。敷居の高い、融通の利かないジャズのライブハウスだと、そういった規定外のことはできなかったり、制約もあって。その点、青山のCAYは、コンセプトを話したら、すごい協力してくれました。
これからも「Swingin’ & Stompin’」は続けたいなと思って、今まだ場所を試行錯誤しているところですけどね。横浜でも検討してます。
◾️おじいちゃんや親も誘いやすい
お客さんは、口コミが多いと思います。ツイッターとかフェイスブックとかホームページとかは最低限やってますが。うちのバンドって、ライブをやっても、そんなに「良かった」とか書き込んでくれなくて。普通のロックバンドとかと比べて、全く盛り上がらないんです。
ライブの後、あまりに反応が薄いので「本当に俺ら、演ったのかな?」って(笑)。SNS上で見ると「やってないんじゃないの?」みたいな感じで思う時があるんですけど、じゃあそれでお客さんが満足していなかったとか、もう来ないかって言うと、別にそんなことはなくて。個々のメンバーより、音楽や場を楽しみにしてくれている、ということなんですかね。
おじいちゃんから孫まで、世代も超えてますね。バンドメンバーでも、おじいちゃんとか、親を誘いやすいみたいなこと、よく言ってます。ジェントルに連れて行くのが一番喜ぶ、みたいな。そんなバンドは、今はもう、あまり無いのかもしれません。
◾️難しいところは、難しく見せるように
僕的には、昔の1950年代までの人がやってたことをそのままやっているだけ、っていう感じなんです。基本的には、ステージングや見せ方など、クラシックなことをやっているだけで、全然、自分で何かをアップデートしているわけじゃないんですよね。昔あったものから、これ面白いな、これ今やっても受けるな、みたいなものを組み合わせてステージで取り込んだり、曲に取り込んだりしてるっていう感じですね。
アレンジに関しては、基本的コンセプトはスイングなんですけど、実はめちゃくちゃ難しいことやってて。また、意外とモダンなこともやってるんです。ただ、ジェントルのステージを通して観ると、難しさやモダンさは見えないようで。 だから難しいところは、思いっきり難しく見せるようにしてます。難しいアレンジで変な緊張感を持たせるということではなく、ステージ全体的にはスイングしてて「ここ難しかったんだな」ということは、そう思わせるようにちゃんと仕向けていくというか。それも楽しんでもらう演出だと。
◾️最初は楽器奏者が、前に出てきて歌を歌ってました
ジェントルシスターズが入ってるのは、大学時代にキッカケがあって。卒業旅行でフランスに行って、ビッグバンドを見てきたんですけど。
フランス人って、やっぱり歌うのが好きっぽくて、曲ごとに、バンドのメンバーが何人か出てきて、3人ぐらいでハモって歌いだすんですよ。楽器を吹いている人たちが、前出てきて歌うんですよ。それ、めちゃくちゃ面白いなと思って。
最初は、メンバーに、ちゃんと歌の先生をつけてやってたんですけど。でもそれも大変だし、アメリカのクラシックな見え方として、3人の女の子が出てくるっていうのも面白いなっていうのもあって。形を変えてシスターズになっていったという感じですね。
◾️日本は「大人は大人で楽しむ」という基本的な意識が薄い
フランスで一番思ったのは、ちゃんと大人が楽しむ時間に、大人が来れるようにできているっていうことでした。 僕ら日本人は、どうしても、若者をどうするかみたいなところを大事にしようとしちゃうんですけど、フランスはちゃんと大人に目を向けていた。
基本的に始まる時間が、22時とか21時なんです。みんなでご飯を食べてから「じゃあ大人は楽しみに行きます」みたいな時間帯で出来上がってて。大人はちゃんと大人で楽しみましょう、という意識が浸透している。大人がメインの考え方に。
生活を大切にしている感じや、無理しないでちゃんと楽しむような時間ができているっていうのが凄いなあと思って。向こうの方は、仕事を始めるのが遅いとか、休憩が長いとかあるとは思いますけどね。 若者は若者で楽しむし、大人はちゃんと大人で楽しむ、という考えは、とてもかっこいいし、日本との大きな違いだなと感じました。
◾️ジェントル久保田さん プロフィール
1978年東京生まれ神奈川育ち 高校卒業後、庭師になるべく住み込みで修業するも壁にぶち当たり断念。再出発のために22歳で入学した和光大学でトロンボーンと出会う。在学中驚異の練習でトロンボーンを習得するも、高級眼鏡店に就職。2005年、眼鏡販売をしながら、ビッグバンド Gentle Forest Jazz Bandを結成。2007年、親友である浜野謙太の誘いで、在日ファンクにトロンボニストとして加入。2010年、高級眼鏡店退職後、トロンボニスト、司会、ナレーター、俳優として活動。リスペクトミュージシャン: Quentin Jackson / Dicky Wells / Tyree Glenn / Harry “Sweets” Edison
◾️Gentle Forest Jazz Band
現代のヴォードヴィリアン・ジェントル久保田が率いる、21人のビッグバンド。2005年の結成以来、踊れるスウィングジャズに現代的視点を盛り込み、新たなエンターテインメントを展開。17人の楽器隊と3人組ヴォーカル「Gentle Forest Sisters」が織り成すエキサイティングかつ笑いに溢れるライブパフォーマンス。
【メンバー(継承略)】
・リーダー、指揮、tb:ジェントル久保田
・tp:村上基(tp)/松木理三郎(tp)/赤塚謙一(tp)/佐瀬悠輔(tp)
・tb.:張替啓太(tb)/大田垣″OTG″正信(tb)/高橋真太郎(tb)/石川智久(btb)
・as.:多田尋潔(as/cl)/菅野浩(as/harmonica)
・ts.:大内満春(ts/fl/picc)/上野まこと(ts)
・bs.:小嶋悠貴(bs)
・リズム隊:海堀弘太(pf)/加治雄太(g)/藤野″デジ″俊雄(wb)/松下マサナオ(ds)
・Gentle Forest Sisters:出口優日/木村美保/伊神柚子
◾️前編の取材を終えて(編集者から)
東日本大震災後、新しいことにチャレンジする若者が東北に流入し、都市圏よりも先進的な事業やプロジェクトが多く立ち上がりました。これらの機運は、石巻や気仙沼といった「港町」で顕著だったように思います。
横浜のジャズが同じ文脈で語れるものでもありませんが、港町ならではの風土や気質が生かされて、国内外や新旧要素が融合され、独自の魅力的な状態に昇華されていくと面白そうです。
Gentle Forest Jazz Bandのリーダー:ジェントル久保田さんに取材する形でお届けする「ジャズと横浜」の第2回。前編では、お客さんファーストな話や、大人は大人で楽しめる町づくりへの期待などについてお聞きしました。後編では、よりギターに寄ったことなど、お聞きします。お楽しみに。
【後編】宜しければ、後編もお立ち寄りください。https://jazzguitarnote.info/2023/10/06/gentleforestjazz-band-2/
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