「地域とジャズ@横浜」をテーマにした連載の第2回。今回は後編になります。前編をご覧になっていない方は、是非、お立ち寄りください。https://jazzguitarnote.info/2023/10/06/gentleforestjazzband-1/
前編に引き続き、横浜のジャズが、もっともっと面白くなっていくことを願って、Gentle Forest Jazz Bandのリーダー:ジェントル久保田さんに、ヒントやメッセージを頂きます。前段では、お客さんファーストの話や、大人は大人で楽しめる町づくりへの期待などについてお聞きしました。
ジェントル久保田さん(詳細プロフィールは後述)
ビッグバンド Gentle Forest Jazz Bandのリーダーかつ指揮者。
2005年に社会人バンドとして結成、2018年にアルバム「GFJB」でメジャーデビュー。ジャズフェスティバル出演のほか、東京03などコメディアンとのコラボ、映画「ダンス・ウィズ・ミーCMへの楽曲提供など、ジャズの枠に囚われず、幅広い活動をおこなっている。
後編となる本記事では、横浜やギターにフォーカスして、お話をお聞きします。それでは、ジェントル久保田さん、宜しくお願いします。
⬛︎初めてギャラ貰う仕事をしたのが横浜
初めてライブでギャラをもらう仕事をしたのが横浜なんです。社会人の時に、横浜ジャズプロムナードに出てて、最初は、みなとみらいの駅あたりの路上でした。そしたら「君たち、面白いね」って言われて、なんと出演料までいただけることになったんです。
でも実は、あんまり僕、横浜でライブって演ったことなくて。やっぱり歴史もあるし、なんだか敷居が高そうだなというか。店のマスターと仲良くならないと演らしてくれないようなイメージがあって(笑)。
実際に僕は横浜でさほどライブをしてないので、単なる印象的なものかもしれないんですけど。厳しいマスターとかママが居て、みたいな。あくまでもイメージです(笑)。実際は、全然そうじゃないんだろうなあ、とは思うんですけど。
横浜に限らず、ジャズクラブでは、ダンサーが踊ったりすると注意されることもあるんです。想像じゃなくて、実際に怒られた経験をしている人たちもいます。「ステージが見えないから、踊らないでくれ。静かにしろ」みたいに。そうすると、僕らが思う、皆んなに楽しんでほしいっていう環境が作りづらい。
⬛︎横浜で演りたい
ホールのライブも結構あるのですが、それを抜かすと、コロナで青山のCAYがなくなっちゃったので、自分達でやる場所が見つかっていなくて。自分たちのコンセプトを伝えられる場所を、色々と探してます。
厳しいマスターの印象はともかく(笑)、横浜でも演りたいなと思ってて。僕たちの演りたいことが出来る所を、横浜でも開拓してゆきたいねって話をしています。今年とか来年ぐらいから、ちょっと動き出したいなと思ってるんですね。青山CAY「Swingin’ & Stompin’」の最新版を演りたいですね。
手始めに、5/9にはGrassrootsという横浜のライブハウスに、Gentle Forest 5 & Gentle Forest Sistersの小編成ユニット(合計8名)で出たんです。クラブ自体は30人くらいのキャパなんですけど。
⬛︎クラシックなことを、ひたすら演っているだけ
僕はGentle Forest Jazz Bandでしか演ってないのですが、メンバーは、他の現場に行くこともあって、最初は「あのジェントルって何だよ?おちゃらけたバンドだな」みたいな感じで言われてたらしいです。
それが、最近は「どうやって、やりくり出来ているの?」とか「どうやって、あんなに仕事してんの?」とか聞かれるらしくて。全然、見られ方が変わってきたって、メンバーが言ってます。
僕らは、クラシックなことをひたすらやっているので、実はあんまり他に影響されてないんです。もう1950年代ぐらいまでに出来上がったことを今に踏襲しているだけ。ガラパゴス状態で独自の進化を遂げてきた、天然記念物が集まっているようなもんだ(笑)って、皆んなで話してます。それが他から見ると面白いっていう風になっているのかな、と。
方針を僕が出して、それを面白いよねって思う人が残っているんです。メンバーからも、僕が偏り過ぎたりすると「ちょっとそれは無いんじゃない?」「これやりたくない」などのダメ出しがあったり、「こんなの演りたい」といったアイデアが出てきたり。「ああ、たしかにそうかもね」みたいなところは、受け入れるようにしてますね。自分だけだと、どうしても偏っちゃうっていうか。まあ、ただでさえ偏ってるバンドなんで、メンバーの言うことぐらいはちゃんと聞こうかなっていう(笑)。
⬛︎セッションの気合いを面白く思うお客さんは少数派かも
ジャズセッションを演ってる人は、演奏家の中では、本当に一握りなんじゃないかな。何か提案し合うものを、そのまま音楽でやってる。一方、それをちゃんと固めてやろう、形に明確にしてやろうっていうのがライブだと思います。
だから、本当に創り出していくセッションをやってる人たちは、それに適合した頭を持った人たちですね。うちのバンドメンバーでも、セッションで日本中のバーを回ってる人もいますけど、色んな引き出しを体系化して持ってて。
やっぱりセッションっていうのは、そこで作り込んでいく面白さを肌身で感じるっていうところが大きい。一方で、僕らがやっているビッグバンドは、作り込まれた面白さ。演奏する側も、聴く側も、セッションとライブでは、面白く感じるポイントが違います。
セッションはやはり特殊な世界で、その場で作り込んでいく気合がある、聴く側も、その気合いを感じたい、みたいな。お客さんとしては少数派かもしれませんね。
⬛︎ビッグバンドにおけるギターの存在
僕らのバンドでは、ギターは、完全にフレディ・グリーンのスタイルを取り入れていて。リズムの要であり、第三者的な目線で、バンド全体が見れる存在なんです。
ビッグバンドでは、リズムの礎はベースとドラムで出来ちゃうので、僕の中ではギターは、リズムの幅を拡げる役目なんですよね。ベースとドラムに、もう一人ギターがいることによって、つなぎ粉的や小麦粉や色んなものをひとつにして、トロッと包み込む存在っていうか。ギターがいることで、よりリズムが明確になると言うか、リズムを受け入れやすくなるというか。なんか、すっと入ってくるんですよね。ギターがいると。だけど、そこは、あんまり皆んな気づかないところなのかな。
⬛︎日本のギターリストは控えめすぎる?
僕の好きな、面白いと思うジャズのギターは、リズムギターなんですけど。ギターって、凄い制圧力があるんですよね。出てきた時に、ガンッとくる主役感が。ギターは生モノじゃないじゃないですか。必ずアンプを通して。だから、その面白さがあって。
その割に、日本のギターって抑え目なんですよね。やけに「これぞジャズギター」のイメージに寄せて過ぎてるというか、皆んながお手本的ジャズギターのイメージにやけに寄せてるな、っていうイメージが僕にはあって。
皆さん、レジェンド的な人はいると思うんですけど、その人たちをどう見てるかっていうのも重要ですね。自分の決めた枠の中だけで、その人達を見てる可能性があるのかなと思っていて。どんなレジェンドでも、時代や生きてきた背景が音になっているわけで、その一部だけ再現されても、聴く側はつまんないっていうか。
僕も普段から気を付けてますが、見てる視野が狭いと、目指すものが、もうひと枠小っちゃくなっちゃったものになっちゃう危険性がある。ギターの方には特に、自分の異端的な部分、プラスオンする何かを追い求めて欲しいなあと思います。お客さんから「この人の、こんなところが好きなんだよね」みたいに思ってもらえる自分を。そんな風に、いっこなんか踏み込んでいくと、みんながニヤッとするというか。面白いんだろうなみたいなのはあるかな。
同じドレミファソラシドを演るのでも、やっぱり全員微妙に違う。自分はどうなのか?っていうところなんじゃないかなと思います。どれぐらい自分っていうものを表現できるか、というか。俺がやると、こうなっちゃうんだよね、みたいなところを表現できるか、というか。それがあるだけで、失敗しても面白いじゃないですか。
⬛︎ジェントル久保田さん
1978年東京生まれ神奈川育ち 高校卒業後、庭師になるべく住み込みで修業するも壁にぶち当たり断念。再出発のために22歳で入学した和光大学でトロンボーンと出会う。在学中驚異の練習でトロンボーンを習得するも、高級眼鏡店に就職。2005年、眼鏡販売をしながら、ビッグバンド Gentle Forest Jazz Bandを結成。2007年、親友である浜野謙太の誘いで、在日ファンクにトロンボニストとして加入。2010年、高級眼鏡店退職後、トロンボニスト、司会、ナレーター、俳優として活動。リスペクトミュージシャン: Quentin Jackson / DickyWells / Tyree Glenn / Harry “Sweets” Edison
⬛︎Gentle Forest Jazz Band
現代のヴォードヴィリアン・ジェントル久保田が率いる、21人のビッグバンド。2005年の結成以来、踊れるスウィングジャズに現代的視点を盛り込み、新たなエンターテインメントを展開。17人の楽器隊と3人組ヴォーカル「Gentle Forest Sisters」が織り成すエキサイティングかつ笑いに溢れるライブパフォーマンス。https://gfjb.jp/
【メンバー(継承略)】
・リーダー、指揮、tb:ジェントル久保田
・tp:村上基(tp)/松木理三郎(tp)/赤塚謙一(tp)/佐瀬悠輔(tp)
・tb.:張替啓太(tb)/大田垣″OTG″正信(tb)/高橋真太郎(tb)/石川智久(btb)
・as.:多田尋潔(as/cl)/菅野浩(as/harmonica)
・ts.:大内満春(ts/fl/picc)/上野まこと(ts)
・bs.:小嶋悠貴(bs)
・リズム隊:海堀弘太(pf)/加治雄太(g)/藤野″デジ″俊雄(wb)/松下マサナオ(ds)
・Gentle Forest Sisters:出口優日/木村美保/伊神柚子
⬛︎最後に(編集者から)
過去に、神戸と京都に取材にお伺いした際、ジャズの歴史を持った町だからこその抜け出せない悩みがある、という話を耳にしました。横浜が同じような状況を抱えているのかどうかは、私には分かりませんが、歴史ある地域だからこその共通の悩みは少なからずあるのかもしれません。
そしてジェントル久保田さんの、ジャズギタリストに向けたメッセージ。「日本のギターって抑え目なんですよね。やけにジャズギターのイメージに寄せて過ぎてるというか、皆んながお手本的ジャズギターのイメージにやけに寄せてるな、っていうイメージが僕にはあって」うむむ。なんとなーく、心当たりある部分ですよね。自分を振り返るのが怖いところですが。
2回に渡っての、ジェントル久保田さんのインタビュー。セッションとライブの違いもあって、人によって読後感も異なるのかもしれませんが、個人的には示唆に富んだ面白い話でした。地域とジャズ「横浜」の連載第2回(前編・後編)は以上です。ジェントル久保田さん、取材ご協力ありがとうございました。
【前編】前編をお読みなっていらっしゃらない方は、是非そちらもお立ち寄りくださいhttps://jazzguitarnote.info/2023/10/06/gentleforestjazz-band-1
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