黒本を補う黒本

先々週に「ミステリと言う勿れ」という映画を観てきました。その中で、菅田将暉さん扮する大学生・久能整(ととのう)さんが、こんなこと言ってました。

「自分が下手だって分かる時って、目が肥えてきた時なんですよ。本当に下手な時って下手なのも分からない。それに気づくのは上達してきたからなんです。下手だと思った時こそ伸び時なんです」

自分で自分の下手さが分かることの大切さには共感しつつ、そこから如何に、自分を盛り立てていくかが大切だし、難しいところですよね。

前置きはこれくらいにして。

初ミセ、初ホスト、初ソング

横浜では、ほぼ毎日、様々なお店でセッションが開かれており、時に、初めてのお店や初めてのホストセッションにも、チャレンジすることになります。

店によって、ホストによって、参加者や選曲の傾向はまちまちです。聴いたことがない、見たことがない曲が指定されたり、思ったよりテンポが早かったりして、嫌な汗をかくこともしばしば。

一般的には、どこの店のセッションにしても、黒本1か2の掲載曲のなかから曲指定されることが通例かと思います。とはいえ私にとっては、大方の曲が未聴か未演奏のものばかり。そのくせ黒本1しか持ち込んでいないので、載っていない曲となると、バタバタと譜面を探すことに。時間かかって、ご迷惑を掛けてしまったことが何度かありました。

黒本1と2を押さえておきたい

楽譜を見なくても弾けるよう鍛錬は積んでいくとして、指名された時に、せめて黒本1・2からの選曲には対応できるようにしておきたい。そして、楽譜を整えておくのに、下記のような選択肢が考えられました。

① 黒本の1と2の2冊を持ち込む(紙本)
②自炊PDFの黒本を使う(iPad)
③ iRealProを使う(iPad)

①は何度か試しましたが、ギターを抱えつつ、さらなる2冊の持ち込みは、重量も嵩も限界を越えてました。②は自炊時の失敗もあり、曲の検索がうまく出来ない難点がありました。結果として、これまでは「紙の黒本1」と「iPadでiRealPro」のダブルで対応しています。

iRealPro(iPad)を併用するメリットは他にもあって、ボーカルの突然の移調指定にも即対応できること(本当は、ボーカルの方には、紙の楽譜シートを持ち込み配布して欲しい)。一方で、iPadは自分の演奏のレコーディングにも使っているため、楽譜としてiPadを使う時は録音が出来ないという弊害を伴います。

■黒本の弱点を補う本

この春に、共通する黒本の悩みを解決する本として、菅野義孝さんが「コード・メモ帳」なる本を出されました。

「コード・メモ帳」
・編・著:菅野義孝
・発行:2023年5月19日
・B5、リング製本
・定価:¥3,000+税
・掲載曲:280曲
・注文:https://www.kannoyoshitaka.com/chordmemo/

今回、「コード・メモ帳」を入手したので、菅野義孝さんご本人のコメントも交えて、ご紹介させていただきます。

■黒本の使いにくさを解消する本

まずは、菅野さんから頂いたコメントから。

「このコードメモ帳は、黒本の使いにくさを、スッキリ解消する本を作りたい!と思ったのがキッカケです。

・4小節きざみじゃないとロストしてしまう
・裏コードが多く、流れをつかみにくい
・テンションが多く、意図がつかみにくい
・2冊持ち歩くのが重い

このコードメモ帳では、そんな黒本の使いにくさを解消しています。

・4小節きざみで、ロストしてもすぐ戻れる
・シンプルなコードでアナライズしやすい
・黒本1と2のいいとこ取り+α

実践的で使いやすい本に仕上げることが出来ました」

iRealProと機能は同じ

「iRealProのコードは大雑把なイメージがありましたが、最近は進化しているようで、とても見やすくなっていました。実際に、コードメモ帳と数曲見比べてみましたが、だいたい同じコードで記載されています。なので、iRealProに不満がない人は、iRealProのままでいいと思います。『やっぱり紙(本)の方がいいな』という人には、このコードメモ帳をお勧めします。歌伴など、違うキーで演奏する場合、iRealProだとキーの変更が容易です。

・iRealProならキーを変更できて便利
・コードメモ帳の場合は、頭を使って度数で考える

どちらをとるか、人それぞれの考えでいいと思いますが、

・一生ナビのお世話になるか
・楽譜を見なくても演奏できるようになりたいか

この選択になると思います。好きな音楽くらい、極めてみたい、と僕は思います」

(編集者から)使ってみての感想

百聞は一見にしかず。菅野さんご自身が、動画でご紹介されていらっしゃるので、ご覧ください。

上記動画で殆ど語り尽くされているので、私から補足することはあまりないのですが、購入・利用してみての1ユーザーとしての感想を、下記に記しておきます。

(1)意外に分厚いけどコンパクト

映像を見ていただけると分かりますが、意外と分厚いです。黒本より、若干薄いくらい。280曲も入っているのに、この厚さで収まっている、と思うべきかもしれません。B5サイズなので、通常の黒本よりはコンパクトに感じます。

(2)曲の網羅が素晴らしい

黒本1・2の掲載は、合わせて500曲を越えますが、この本は、よく演る280曲に厳選されていて、眺める限り網羅性は高いように思います。これ1冊あれば、ほぼセッション現場で、楽譜探しに困ることは無いでしょう。

(3)4小節ごとの段変えが素晴らしい

黒本には、4小節で段変えしていない曲が所々にあります。1段に6小節とか、8小節とか。紙面に収まらないから、という理由でもないようで、なぜ、そんなことにしているのかは謎です。仕方なく、わざわざ書き換えて黒本に挟み込んでいる曲もあります。

このコード・メモ帳は、その点、とても気遣ったレイアウトになっています。私的には、この本の最大の特徴なのではないかと思いました。

(4)テーマ(メロディ)が載っていない!について

購入検討者にとって、この点がもっとも悩ましい点でしょうか。まず購入する前提として、先に黒本などテーマ入り楽譜を持っていて、追加で買うことが宜しいかと思います。

もちろんテーマはあるに越したことはないのですが、あえて載せないことで、著作権クリアやスペース確保などのメリットを出せている。テーマが必要かどうかの場面場面で使い分けていくのが良さげです。他の方がテーマを取ってくださる場合は、コードメモ帳だけでいけそうです。

また、テーマを載せない副次効果として、初版の黒本にはあって、著作権の関係で現在は抜かれているMISTYなどが掲載されていることは、個人的に嬉しい点です。

(編集者から)最後に

なかなか、ありそうで無かった本だと思います。私的には、黒本1とコード・メモ帳の2冊持ちにするか(嵩張ってしまうデメリットあり)、コードメモ帳1冊に絞るか迷うところ。黒本1と両方を持ち込んで、テーマを取る番でない時はコード・メモ帳だけ持ってステージに上がるかなと思ったり。コードメモ帳1冊に絞り、自分が指定しテーマを取る曲については、それだけコピーして持参するのも手かなと思ったり。暫し使ってみて決めようと思います。

ちょっとだけ余談。ここ数年、日本の教育界では「メタ認知力」の強化にシフトしているそう。何やら難しそうに聞こえますが「自分の課題を客観的に認知し、制御する能力」を伸ばそうという話だそうで、知識や方程式に偏った教育からの変革であるならば、誰もが願うところです。

メタ認知を伸ばす教育では「問題演習やテストをやりっぱなしにしない。直ぐに答えを見ない。」といったことが追求されます。これは、ギターの世界に言い換えると「セッションを演りっぱなしにしない」「困っても、直ぐに楽譜を見ない」「自分の演奏力の課題を見極め、補正していく」といったことになるのかな。セッションにおける現場力というか、課題解決力のような。。あまり理屈を言っていても、ちっとも楽しくないので、与太話はこのへんで。結局は「好きこそものの上手なれ」コレだけです。

またまた話が逸れてしまいましたが、今回は、菅野義孝さんの「コード・メモ帳」のご紹介でした。菅野さん、コメント寄せていただいて、ありがとうございました。

【ご案内】X(twitter)にて記事の新着をお知らせしています。https://x.com/jazzguitarnote/

8 comments to “黒本を補う黒本”
  1. こんにちは☺️
    このような黒本のご紹介、
    角野様からしていただいたのでしょうか?この年齢になって、信じられません❗
    ありがとうございました。☺️🌕生きがいになるかもしれません❗
    初見のきく歌伴奏の恩師は、「わからなくともひけるよ」と優しくおっしゃりわからないままでした!(後年先生をご紹介いただきましたが何かよくわからないままです。)
     因みに黒本は、島村楽器屋さんとかでてにはいるのでしょうか。ネットでしょうか?やってみます。

    • 鈴木さん

      お読みいただき、またコメント頂戴し、ありがとうございます。
      文中の角野さん?は、菅野さんということで宜しかったでしょうか。
      (菅野さんからは、依頼も賄賂もありません)

      販売は記事中に記載させていただいた菅野さんのサイトでのみとお聞きしています。
      (楽器屋さんやamazon等では販売されていません)
      ギター鍛錬に励まれている同士の方にお立ち寄りいただけていること
      励みになります。今後とも宜しくお願いします。

  2. コードメモ帳のレビューありがとうございます!
    たくさんの方に使っていただけますように。

  3. 黒本がだいぶ使い込まれているご様子。最寄りにキコンーズがあれば、リングファイル加工してくれますので参考にしてください。クリアフィルムの表紙も付けてくれますので養生にも良いです。楽譜や教本など、よく使うものはたいがい活用しています。
    https://www.kinkos.co.jp/service/bookmaking-ring

    • お立ち寄り&コメントありがとうございます。キンコーズは利用していますが、黒本の製本は思いつきませんでした。現状、幅広の透明テープを背中に貼って、かろうじて本の分解を防いでいましたので、同症状の方々には有効な方法かと思います。

      ご興味抱く方もいらっしゃるかと思い、早速、近所のキンコーズに問い合わせをしてみました。オーダー代¥2200(何冊でも可)、裁断¥440(2cm厚として)、リング製本¥360、合計¥3000(税込)で加工してくださるそうです(変動の可能性もあるので、発注前に各自ご確認ください)。

      また、裁断2mm幅+リング穴1cm幅が内側に余白として必要らしいのですが、黒本の場合、五線譜やA/B記号と縁まで2.5cmあるので、その点は心配なさそう。黒本を書き込みごと保存されたい方、リング製本にしたい方はお試しを。cremonaさん、情報のご提供、御礼申し上げます。

      (余談)アホな私は、黒本を紛失したと思って再購入したら直後に出てきた関係で、無駄に2冊持っていまして、暫くは大丈夫そうです。。

      • 情報補強ありがとうございます。

        2,3年前まではこの「オーダー代」というのが存在しませんで、だいたい600~800円くらいで1冊完結できたので、だいぶ気軽でした。今は仲間内で募って、5~10冊くらいまとめてオーダーして、この2200円を薄めるようにしています。

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