個性を磨く❺村山義光さん

レジェンドなギタリストは、皆な個性的な方々ばかりです。では独創的な日本人ギタリストというと、どなたを思い浮かべるでしょうか。今回は規格外な存在の筆頭に挙げられる、村山義光さんに話を聞きます。

場所は大阪の福島区にある、昭和な雰囲気の漂うスタジオneco。ことの経緯は省きますが、村山義光(gt)さんと福井杉子(pf)さんのお二人が生演奏する場に、観客は私だけという、不思議なライブ観覧を伴ったインタビューでした。

◼️当日の演奏風景(動画)

まず、村山さんがどんなギタリストか、ご存知ない方のために。

当日のライブの様子を、共演者の福井さんがYouTubeで公開されているので、ご紹介しておきます。関西在住者以外では、ナマで村山さんの演奏を聴いた方は少ないかもしれません。でも「あ!この方ならYouTubeで観てました」というギタリストは多いはず。

Satin Doll
https://www.youtube.com/watch?v=jLglmZZ1Xco

Corcovado
https://www.youtube.com/watch?v=iek9PmyEnNk

Oleo
https://www.youtube.com/watch?v=Iveibh8qDVo

様子を掴んでいただいたところで、早速始めてゆきます。

◼️なんか、おもろいことしそうやから、と言わせなアカンのですよ

(田中)村山さんの演奏スタイルは、とても独創的に感じます。どうやって、今に辿り着いたのでしょう?

「基本的には、人をびっくりさせたいとか、アッと言わすとか、それが気持ちいいとか、笑かしたいとか、そういう芸人的な、単純な初期衝動が発動の源になっていますね。それらを散々やってると、その点数をその技で得点しても面白くない。何故なら多くの人がやってる手なので、みんなが、新鮮に捉えてくれない。その手以外で、それを成し得なアカン、ということになるわけですよね」

「そういうのを、どんどん開拓とか、研究とか、ものを知っていけばいくほど『これは俺が考えたやつだと思ってたけど、すでにあったんや、チキショウ』『あ〜先に出されたか、時期がアカンかったなあ』なんてことばかり。それを、さらにずっとやってると個性的な演奏が残ってきよるんです。絶えず、開拓をしてますからね」

「なので、やりやすいヤツよりも、珍しいヤツを使うようにしてるんです。奇抜な感じの音づかいとか、8分音符もスクエアじゃなくて、自由な感じのリズムになっているとか」

「安定している、分かりやすい、順番になって綺麗に並んでいるやつの方が理解してもらいやすいので、トリッキーな方を選んでいると、面白いと感じる人が少なくなってくるんですね。どちらかというと、巧みを極めようとすることに、人生の生きがいを感じて演奏しているような人間ですよ」

「皆さんに理解してもらうということを考えること自体が間違いで、あくまでも、同業他者、或いは近いところにおる人間のための演奏家なんですよ、僕は。広く多くの人に捧げるものではない(笑)」

「世の中の需要と供給の関係は、算数みたいに簡単に分かりますよ。悪気はないけど、理解しがたいものである。いいものと言われても、それ出来へんわーとか。分かってるけどアカンというのに苛まれながら、それを選択しないという意識なので。それは抗えないというか、仕方がないんですよね」

「需要あるものを全く最初から望んでいないっていうことですね。もう、20代後半くらいで、それを望まない人間として生きてます。なので全然ストレスはなくて、ある意味、自分は勝ち組みなんかな、くらいに。借金にまみれて生きてた30代も、すごい幸せでしたね。でも結局は、俺が最後に笑っちゃうねんなぁとか思って(笑)そういう、ちょっと愛でたい感じで。『金のないヤツは、俺んとこに来い、俺も無いけど、心配するな』なんてね(爆笑)」

「これはベンチャービジネスやスタートアップに凄く必要なエネルギーで、論理的な整合性とか勉強とかは関係ないんですよ。なんか、おもろいことしそうやから、と言わせなアカンのですよ」

◼️知らぬが故に解放的な、小学校4年生計画を実行中

(田中)普通の人は、そこまで自分に強くなれないかもしれません。

「それは、僕がちょっと壊れてるから。恐怖における自己保全ができないんでしょう。それよりも、楽しいとか、未知なものを見たいという好奇心が勝ってしまった訳やから。個体としては危険ですよね。能力が高くないと事故になるよね。だから、それに伴った学問や経験も要るということになるんすよ。その楽しみを味わおうと」

「あらゆる多くの人間は、小学校4・5年の時は、純朴なエエ感じの楽しい人なんですね。それが、なんかこう都合上オトナであるとか、上司のふりをせなアカンかったりとか、子供とか出来たりとか、親戚の子とかに兄ちゃんって言われてるから兄ちゃんのふりせなアカンとか、これに追われるんですね。実はでも、ちゃうんですよね。みんな演じないとしゃーないから演じているだけで、実際にはもう好きにいたいですよ」

「家に入る時に、おかんに『足洗ってから入りやっ!』とか言われて『いやー関係ないわ〜』とか、これが本来の姿。あのカッコいい上司も、実はそんなもんですよ。それを痛烈に知った経験が、人生上、何回もあって。もうそういうもんやーってことで、最初からもう土足で入るスタイルにしています。そうすると、意外と、あっさりと門は開く。ややこしいビジネスとか勉強せんと、その心を掴む方がデカい契約取れるんですけどね」

(田中)多くの方は、歳を重ねると、角が取れて丸くなっていくのに、村山さんはトゲトゲしてますよね(笑)。もちろん良い意味で。

「トゲトゲしいのは反核分子の方じゃなくて、小学校4年計画を実施してるので。小学校4-5年の辺りが、一番ものを知らなくて、知らぬが故に解放的なので」

「良くも悪くも、聴いてもらうと、1発で僕ってわかるよね。オーソドックスなんが好きな人、それしか知らん人は嫌やろね。面白いと思う人少なくて。受けつけへんわあ、言うて」

◼️寝ててもコードは間違わへん

(田中)ジャズってルールが多い音楽。勉強しているうちに縛られてしまって、そこから自分を解き放つのは難しかったりします。

「それぐらいのことは計算機使わん、数字を見ただけで分かるわーというくらいのポテンシャルでないとあきまへんね。寝ててもコードは間違わへんとか。ような感じぐらいになってしまっていて、もう言語を超えてしまっているので。それはパイロットの絶対飛行時間が何万時間かに拠るので、なんぼ点数が良くても、乱気流やエアポケットとか、いろんなものを経験しないと、そういうのも全部含めて、実務における点数プラス実際の飛行時間が要るんですよ」

「で、実際の飛行時間があるんやけど、偏っていたりすることになるんですね。厳しいヤツは避けるんでね。初期のうちにそういうフィールドで格好をつけてしまうと、そんなに大して上手くないんやけど、安全なことは弾けるジャズギターくらいになるんでしょうね。でも、それ以上にはならないですね」

■あんな音を、このチープなギターで出したろっていう挑戦

(田中)村山さんと言えば、トラベラーズギターがトレードマークです。

「ちょー安モンのギター、元々は3万5千円ですよ。でも改造して、10倍は掛かってます。ペラペラのギターでしょ。でも馬子にも衣裳で、上手く弾いたら別嬪に見えるんですよ。でも良く見たらブサイクやなーて(笑)。残ってるのはガワだけで、他は元のパーツが残っていない。言うてもクラシックのバイオリンとか1000万って世界で、ギターは掛かりませんからね」

「ピックアップはEMG(代表的なアクティブピックアップ=通常のパッシブ型と比較してノイズが少ない)で、3回替えてます。5万円くらいするやつ。フェンダーにして、ダンカンにして。でもちょっびっとだけノイズが出るんですよ。ジーって。それが僕は気に食わない。オーディオと同じだけのノイズレスにしないと気が済まないんで。恐ろしく金と手間ヒマかけて。完璧に、これ以上のノイズのない、大パワーのギターはないですよ」

「箱ものがエエ音というのは決まっとるんで。箱もの大好きよ。めちゃめちゃ箱もの人生も長いですよ。L5をずっと弾いてた人間やからね。なんでやねん、て感じでしょ(笑)。僕はちょっとロックが好きなんで。下品な音、ボリュームがある程度、大きな演奏も好きなんですよ。箱なんかでバンドで弾くとハウってまうからね。なので、段々とソリッドになっていって。ソリッドは非力な音になるから、なんとかぶっとい音にしてるんですよ。化粧に化粧を重ねて。どんなギターでも、なんとでもなりますよ。手間ヒマかかって、開発に物凄い時間がかかるんで、それが面倒臭いだけで。ええギターでええ音出すなんて、とっくの昔に卒業してますよ。そんなんオモロくない(笑)」

「普通の音っちゃ、普通の音やねんけどね。イカついからね。ゴリンゴロンしてますからね。そういう風にセッティングしたんですよ。フルアコの音が太いなんて、あれ幻想やからね。古き良きフルアコの名盤のタルファーローとか、あんな音を、このチープなギターで出したろっていうのが僕の挑戦なので。弦は上は12か13かな。下はLa Bellaのフラットですね。」

◼️ なんか分からんけども、おもろかったって、引きずり込んだらエエんですよ

「私みたいなギタリスト、いないんですよ。おりそうな思えんのにね。いろんなものが混ざってるんですけど、いないんですよ。伴奏ひとつとっても、世界レベルでもいないんですよ。ギターでベースラインはあるけどね、普通ですとストンストンストンていう音にならないんです。みんなビンビンビンとはいうんですけど。ドライブ感が出ないんですね。だから、みんなには勧めないですけどね。1オクターブ高いのに違和感がなくベースになっているという。これは世界的にいないんすよ」

「今年62歳になりますけど、あのもうなんか、まだらボケみたいな。他人に迷惑かけないように。『今日、何しに来たんかな?』なんて連発してますからね(笑)。最近でももう、ちょっと面白くなってきた。逆に」

「ライブっていうのは楽しいですよ。生っていうのは、ほとんどの人って専門知識なんか知ったこっちゃない話であって『分からへんからアカン』なんて、そんなんちゃいますよ。そんな関係ないんですよ。『なんか知らんけど、なんか分からんけども、おもろかった』ってなって、だんだん引きずり込んだらエエんですよ。変に迎合するから、全体の質が下がっていくんですよ」

◼️ヨーダの域に達っさな、真の剣豪にはなれないです

「同じ曲でも、毎回、全然全くちゃいますね。フォーマット自体が。バラードやったのに、今回は三拍子か、みたいな感じ。それぐらい違います。1曲で10種類ぐらいのリズムがあるじゃないですか。で、そこにテンポの早い目遅い目が付いたら、さらにバリエーションが3倍になるから。速度とリズムとの組み合わせにおけるフォーマットの選択で、1曲で最低でも20種類ぐらいの世界観はできるんじゃないですかね」

「どっちが誰にどうするかっていうのは何も決まってないので、その時に行われた部品を上手く使ったり、先物取引で上手く運用したり、そういう才覚が要るわけですよ。ほんで、なんとなく聞き手は時系列で聴いてるので、振り返ってみたら、あの時のシーンを再現しているなとか、符号点を残しておくような印象的な場面とか。そういうのが演奏者同士の中で、それを今混入してるってことを了解した上で施工してないと。それを何のために入れたかていうのは、もう1回それが出てくる時に必然性があって、聞いてる人が謎が解けた気になる快楽を与えるため。専門家から言わしたら簡単な引っかけ問題をわざとバレるようにしてあげてるんですけどね。それで聞き手は『通なところが分かったぞ』っていうことで気を良くする。で、そこをすかさず『分かってらっしゃるねっ』っていう笑みを贈るわけね(笑)。僕ら地下組織系の演奏家は、迎合性がないので、そっちの方向で教育しながら、こっちの方に持っていく確率あげる。なんかこう切ない努力をしてますね」

「あの人もう逝ってしまってるで、っていうのにならなあかんのですよね。あの人全くそういうとこ見てないやろって言わせなアカンのです。ヨーダの域に達っさなアカンのです。じゃないと、真の剣豪にはなれないです。真の剣豪は戦ずして勝たなあかんから、いちいち手でどついてるなんて、そんな次元の低い戦い方では、まだまだ物欲にいますよ。自分の前に来たら顔を背けてしまうっていうぐらいの光を放たないとね。悪い霊とか来たら、僕が説教して成仏させてあげますよ(笑)」

◼️ (福井杉子さん)思ってたジャズギターのイメージと全然違ってたんです

村山さんと福井さんのお二人は、もう10年間もご一緒されているそうです。福井さんに、村山さんとの出会いやライブのこと、お聞きしました。

「最初に村山さんを見に行った時は、歌のひととのライブだったんですけど、なんか全然思ってたジャズギターのイメージと違っていて。すごい自由に弾く方だなあと。私は鍵盤で楽器は違うんですけど、こんな風に自由に弾けたらいいなあと」

「村山さんとのデュオ演奏では、基本的にお互いが覚えているスタンダード曲を題材にして即興演奏を展開します。共通認識から如何に面白い会話をするか、紡ぎ合えるかをテーマに演奏をしています。村山さんのギターからどんな音が出てくるかにワクワクしながら、聴こえる音に反応してピアノを弾く。今日もいつものように、とても楽しく、幸せな時間でした」

「村山さんから、演奏後の講評を『その解放感を自然にできるようになれば、さらに良くなるでしょう!』と頂きました。更に次の目標に向かっていきます」

◼️村山義光さん(g.)プロフィール

1962年 大阪は新世界で生まれ育つ。10歳の時、父親が古道具屋で手に入れたクラシックギターをプレゼントされたのを機に、ギタリスト人生が始まる。16歳頃より即興演奏に興味を持ち、ジャズギタリストとして歩み始め、現在に至る。

◼️福井杉子さん(pf.)プロフィール

大阪府東大阪市出身。関西学院大学社会学部卒業。
幼少の頃より、自宅にあった電子オルガンやレコードで音楽に親しむ。4歳より音楽教室に通い、電子オルガンを学ぷ。15歳よりクラシックピアノを学ぶ。その頃より即興演奏に興味を持つ。ジャズオルガンを佐々木昭雄、ジャズピアノを大塚善章、ジャズ理論を村山義光に師事。ポピュラー音楽、ジャズ、クラッシックの各ジャンルに傾倒し、演奏活動、また後進への指導に力を注いでいる。

◼️最後に(編集者から)

いやいや珍しい経験でした。「こんな狭いところで、ピアノとギターがこの音量で鳴るっちゅうのは、もうめっちゃリアルな音を聞くってことですからね。店はもっと広いし、もっと音が散るからね」と、村山さんも仰っていましたが、稀有で贅沢な時間だったと思います。

そして、今回の記事化、本当に大変でした。その最大の理由は、私が関西弁を話せないから。あの場の空気感を再現するには、放たれていた関西弁を正しく記さないと成立しない気がして。ろくに話せない言語を書き起こすことの難しさ。でも苦労した甲斐あって、少しは雰囲気が伝わるんじゃないかな、と思います。

そして村山さん、やっぱり変なひとでした(尊敬の意を込めて)。自由さに惹かれて10年もご一緒されている共演者の福井さんも、普通のひとではありません。お二人と、密な空間で密な時間をご一緒させていただいて、私もちょっと、その気分を分けてもらうことができました。

ジャズやジャズギターは、本来、即興や自由を大切にしてきた音楽のはず。ところが、理論や作法にハマって、「そんなんジャズじゃないじゃん」とか「そんなんカッコよくない(ロックじゃない)じゃん」という状態に陥ってないか?という問い(編集者の意訳)。その問いに正解はないけど、深いテーマを突きつけられた感じ。

私自身は、もっともっともっと手前でアガいています。それでも自分のカッコいいと思うことに、もっともっと拘っていかなければアカンのですね。村山さん、福井さん。そして、ご縁を作ってくださった寺西直美(ローリー)さん、ありがとうございました。関西に行く機会が作れたら、また遊びに行かせてください。

【ご案内】X(twitter)にて記事の新着をお知らせしています。 https://x.com/jazzguitarnote/

2 comments to “個性を磨く❺村山義光さん”
  1. 小生の尊敬する村山さんへの深い考察が記事になっていてとても興味深く拝見しました‼️ありがとうございます‼️

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