高免さんから阿部さんをご紹介いただいたのは4年前の2021年12月。長らく寝かせてしまっていたのですが、この度ようやく、お話を聞くことができました。阿部大輔さんはバークリーを卒業後、NYに拠点を移し20年近く活動をされていた方で、ご経験を踏まえての説得力あるコメントを頂けそうです。
では阿部さん、宜しくお願いします。
◼️始められない時、集中できない時の切り札
行き詰まったり乗り越えないといけない問題は日々起こります。そんな時どうしたらいいものか迷うことがあります。何から始めたら良いかもわからない。考えても答えが見つからない。
そんな時僕は窓辺でごろんと寝そべって日向ぼっこしながらボーっと空を眺めたり昼寝をしたりします。妻からは、なんでこんな大変な時に昼寝なんてしているの!などと言われたりすることもありますが。
でも、ボーっとしていると、ふと、これやってみたらどうだろう?とかあの人に連絡してみようとか?など思考ではない直感的なアイデアが浮かぶ(降りてくる)ことがあります。
時にそのアイデアは、今抱えてる問題とはあまり関連性がないように思えることも多いです。
でもそのアイデアが来たらとりあえず即実行してみています。すると不思議なことに自分でも予期しなかったような方法で問題の解決につながったりして驚きます。
音楽においても思考をなくして直感で動くことはとても大事だと思います。その感覚を鋭くするのとすぐに直感受け取りモード(ゾーンに入るとも言いますね)に入れるように毎朝瞑想の時間をとっています。たった毎日10分ぐらいですが、集中力も確実に増してると思います。オススメです。

◼️理論を実践に昇華させるには?
ジャズを始めてから30年が経とうとしていますがここ5年ぐらいでようやく頭で考えなくても音楽ができるようになってきました。自分でも不思議なのですが、演奏中に次のコードは?スケールは?などとほとんど考えていない時間が大半になってきたのです。ようやく自分の心に鳴る音に体が自動的に反応してくれて音を出してくれるようになってきた感じです。
【最初の4年:模倣の時代】
そんな自分がこの30年間でやってきたことは、まず最初の4年ぐらいは自分のアイドル(僕の場合は、パット・メセニー、カート・ローゼンウィンケル、師匠の道下和彦さんなど)のコピーなどをして真似するステージ。
【ニューヨーク時代:自分のスタイルを探す】
その後、ニューヨークで活動するようになってからは、コピーしたものを一旦捨てて自分なりのスタイルを見つけて作るステージです。そのステージの最初は、自分が今まで好きで自然と指が弾いていたコピーしたフレーズを封印すること。そして、何より自分の心の中で本当に鳴っている音に耳をすますことでした。
基礎に立ち返りコードトーンソロで確実に自分の中になっている音を弾けるように練習して、それができたらテンションの音が歌えるように耳を広げていくといった感じで続けていると、少しずつ自分なりの語り口ができるようになってきた気がします。

【何より大事なのは実践】
でも何より大事なのは実践です。いかに素晴らしい理論も実際に使えなければ絵に描いた餅です。修行だと思って毎日のようにジャムセッションに通って人と演奏しました。ジャズは会話の音楽だと思うので、いくら家で一人でうまくスピーチできても会話は別問題です。
会話が上手くなるには会話の経験をより多く積むのが第一だと思います。会話で大事なのは結局自分が何を言うかよりいかによく人の話を聞けるかだと思うのです。自分はもともとそういった会話が得意な方ではなかったですが、日々セッションに通い色々な人と関わり色んな演奏を聴いたことがとても力になっていると思います。
会話をする時に文法を考えながら喋ったらぎこちなくなりますよね?実際に飾らずに自分の言葉で会話をたくさんすれば最初からスムーズには喋れないかもしれませんが確実に人の心に届くような会話ができるようになると思います。
また自分があまり喋らなくても、相手の言っていることに深く相槌を打ったり、盛り上げてあげたりするとみんなに好かれますよね。演奏も同じだと思います。

◼️いまの自分を乗り越えるコツ(次にやるべきこと)
日々、何か自分が怖いと思うことに挑戦するようにしています。
やはり人は安定を求める生き物だと思うので、新しいことにチャレンジするのが億劫になってしまって結局やらなかったり続かなかったりしますよね?僕ももちろんそうです。
僕がニューヨークのジャムセッションに週6日通っていたのは人前での演奏が怖かったからです。だからこそなんとかして自由に演奏を楽しめるようになりたかったわけです。
ジャムセッションは必ずしも楽しい時ばかりじゃなく(行っても一曲も入れてもらえない時とかもあったし、頭真っ白になってロストしたのも多々)、時に面倒になって家に居ようかと思う時が何度となくありました。でもとりあえず自分を叱咤して行きました。そういった経験が少しずつ自信につながっていったと思います。

◼️読者へのメッセージ
ありがたいことに約30年音楽に毎日取り組んでいますが未だに日々新しい気づきがありますしどんどん楽しくなります。みなさんも引き続き音楽を楽しんでください!!
◼️阿部 大輔さん プロフィール

ギタリスト・作曲家・音楽教育者。
東京生まれ。15歳でギターを始め、1999年に洗足学園短期大学(ジャズコース)を首席で卒業。ボストンのバークリー音楽大学に奨学金を得て入学し、2002年に卒業。バークリー在学中から研鑽を重ね、卒業後はニューヨークに拠点を移し、約20年にわたり国際的に活躍を続けてきた。
ニューヨークでは自己のグループに加え、サイドマンとしても活動を展開。2003年から名門ジャズクラブCleopatra’s Needleにてレギュラー出演を続け、2005年には自己のバンドでBlue Note New Yorkに初出演。翌年にはドイツの名門レーベルNagel-Heyer Recordsより初のリーダーアルバム《On My Way Back Home》を世界リリース。その後も2007年に再びBlue Note NYに出演を果たす。
2010年には、山田拓児、小森陽子、津川久里子、二本松義史と共に結成したユニットUoU (ユーオーユー)の1stアルバム《Home》を米国Tippin’ Recordsよりリリース。全米ジャズラジオチャート“Jazz Week World”で2週連続1位を獲得し話題に。2013年には2ndアルバム《Take the 7 Train》、2021年には3rdアルバム《You Owe You》を発表。
2016年からは津川久里子とのデュオ作品《Pure Songs》を皮切りに、2017年《Another Journey》、2019年《Unite》とコンスタントに作品を発表。2020年には約20年間のアメリカ生活を終え日本に帰国し、拠点を日本に移す。
帰国後も精力的に活動を続け、Little Glee Monsterのサポートメンバーとして全国ツアーに参加。さらに大橋トリオ & THE PRETAPORTERS 2022に参加するなど、J-POPシーンにも活動の幅を広げている。自己のバンドでも新宿Pit Innをはじめ各地でライブを展開中。
演奏活動と並行して、アメリカで培った経験を活かした後進の指導にも力を入れ、レッスンやワークショップ、YouTube番組「セッションの心得」を通じて音楽教育にも積極的に取り組んでいる。
これまでに共演したアーティストは、Gregory Porter, Mark Turner, Jon Cowherd, Anthony Wonsey, Walter Blanding, Marcus Printup, Gretchen Parlato, Rodney Green, Matt Brewer, Aaron Parks, Walter Smith III, John Ellis, Jaleel Shaw, Little Glee Monster, 大橋トリオほか多数。
公式サイト: https://www.daisukeabe.com
◼️最後に(編集者から)
ニューヨーク時代、週6で(!)ジャムセッションに参加されていた阿部さん。行きたくない日も、自分を叱咤激励して通われていたそうです。月数回のセッションですら、言い訳を作って休みがちな自分を反省してしまいました。
最も注目したいのは「理論と実践」についてのコメント部分。段階を踏んで到達するイメージが想像できて、貴重なお話かと思います。達人の阿部さんにして「30年掛かってようやく」とのご説明に心折れそうにもなるも、「それだけ時間がかかるものなのだ」という励みとして前向きに捉えたいと思います。
阿部さん、お忙しいなか、貴重なお話、ありがとうございました。
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