2022年の猛暑の日、竹田一彦さんのライブを聴きに神戸に行ってきました。竹田さんをナマで拝める貴重な機会だったので、入れ替え制の2ライブを観覧することに。2回のライブの間、客の入れ替え時間に、ダッシュ(ホールから徒歩15分)で、山田忍さんのスタジオを訪問、6年ぶりにご挨拶をさせて頂きました。そんな再会から、あっという間に1年以上が経過。時の経つ早さに、焦りすら感じます。
その山田忍さんが、今年、伴奏(コンピング)をテーマにした教則本を出版されました。
「名演コピー&アナライズで学ぶ実践ジャズ・ギター・コンピング」
・著者:山田 忍
・定価:2,970円 (税込)
・発売:2023.02.15
amazon https://amzn.to/3PfM9oE
山田さん、宜しくお願いします。
■コンピング(伴奏)にも個性がある
コンピング・スタイルはひとことで解説することができません。
①4ビート、8ビート、16ビート、ワルツ、6/8拍子など、拍子による違い
②スウィング、イーヴン、ラテンといったリズムスタイルの違い
③自分(ギター)以外の和音楽器奏者の有無や、ベース・ドラムの有無など編成による違い
④テンポによる違い
⑤リズム隊の一員になるのか、ハーモニー感を表現するのか、ソリストに寄り添いたいのかなど、役割による違い
伴奏者は、これらを把握する必要があり、和音の数、構成、リズム、タッチ、役割によりコンピングのスタイルは異なります。さらにはアドリブ・ソロに個性があるように、コンピングにも個性があります。
■まずはリスニングから
「名演コピー&アナライズで学ぶ 本気のジャズギターメソッド」ではリスニングから学ぶことを推奨していますが、「名演コピー&アナライズで学ぶ 実践ジャズギターコンピング」でも同様にリスニングからコンピング技法を学ぶ手順を紹介しています。
学習初期はどうしてもソリストのアドリブばかりを聴いてしまいがちです。アドリブ同様に、コンピングも聴かないものは弾けるようになりません。コンピングの方法を知る前に、「どのようなコンピングがしたいのか?」と聞かれても答えられるぐらいにイメージを持つ必要があります。コンピングを分類・整理するのに是非とも教則本を活用していただけると嬉しいです。
■シチュエーションごとに、どのようにプレイするべきなのか
教則本ではスタイルの違いによる6つテイクを取り上げました。
・バーニー・ケッセルの「Honeysuckle Rose」
→アップテンポのカルテット演奏で「リズム隊の歯車となるコンピング」
・エド・ビッカートの「I’m Old Fashioned」
→ミディアムテンポのカルテット演奏で「ソリストに寄り添うコンピング」
・ジャック・ウィルキンスの「Smoke Gets In Your Eyes」
→バラードのカルテット演奏で「空間を広げるようなハーモニー感を出すコンピング」
・ジム・ホールの「All The Things You Are」
→ミディアムテンポのデュオ演奏で「ベースの役割、4つ刻みのコンピング」
・マイク・モレノの「I Remember You」
→アップテンポのデュオ演奏で「現代的なハーモニー感と、ハーモナイズド・ベースラインのコンピング」
・ピーター・バーンスタインの「Someday My Prince Will Come」
→「和音楽器との共演と、スモールコードや音域を広げるコンピング」
↑ サンプルページ(Rittor Music HPから)
まずはスコアを見ながらしっかりリスニングしてください。サブスクやYouTubeで、上記の曲は全て聴くことができます。
次に、演奏されたスコアを分析してアイディアを取り出し、それらのアイディアをすべて、枯葉のコード進行上で活用する具体例を示しました。模倣する際、運指の確認は重要ですので、すべての例題に記載したQRコードを読み込むと、動画で確認ができます。
そして、付属のCDでは前述の6つの課題曲の模範演奏と、私のギターを抜いた「サックス・ベース・ドラム」の演奏を収録しており、コンピングの練習ができるようにしています。コンピングがクリアに聴こえない箇所もありますが、ボリューム・バランスも含め実践と同じ状態となっています。
■歌伴デュオは最高難度
ジャズ・ギターは、バンドでの「アドリブ演奏」→「デュオ演奏」→「ソロギター」→「歌伴」の順序で難度が上がっていきます。歌伴デュオは最高難度であることを理解しておきましょう。
手馴れたスタンダードも、歌い手さんのキーに合わせて不慣れなキーで演奏しなければならないことも多いです。さらに、デュオとなるとバンド演奏以上に、歌い手さんの間合いを読んでコンピングを選択する必要があります。
無伴奏ソロでのアドリブ技術はもちろんのこと、イントロ・エンディングの技法にも精通していなければいけません。教則本で記載したようなコンピング技法が自然に出来るようになって初めて、歌い手さんの求める世界観に寄り添ったコンピングができるようになります。
■教則本ご紹介
amazon「名演コピー&アナライズで学ぶ実践ジャズ・ギター・コンピング」
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「名演コピー&アナライズで学ぶ実践ジャズ・ギター・コンピング」
(↓ Rittor Music HPから抜粋 ↓)
ジャズでは伴奏もアドリブ!
〜歴史的名演からコンピング・メソッドを学ぶ究極の練習法〜
ジャズのセッションなどに参加すると、自分のソロが回ってくる順番などが気になってしまい、圧倒的に時間が長いはずの伴奏(コンピング)への意識が薄くなってしまうことが多いのではないでしょうか。しかし、ほかのソロイストを引き立てるのは、あなたのコンピングの良し悪しなのです。良いコンピングがソロイストのアドリブを後押しし、セッションの質も上がっていきます。それにも関わらず、ジャズではコンピングも完全にアドリブで行われるためか、実践的なコンピングの手法について書かれた教則本は多くありません。本書では名演を徹底的にリスニングすることで、実際に使われた手法を探っていくという方法を採っています。名手たちはどんなタイミングで、どんな音色で弾いているのか、それはコードに対してどんな音なのか、何を狙っているのか……名演から可能な限りの情報を読み取り、方法論に落とし込みました。ジム・ホールやバーニー・ケッセルといった往年のレジェンドはもちろん、マイク・モレノやピーター・バーンスタインといった現代のジャズを代表するギタリストの伴奏も取り上げているので、この一冊で幅広いスタイルのジャズをカバーすることができます。本書の特徴はそれにとどまりません。ジャズは理論だけで学ぶことはできないと言われますが、「実際の演奏から学ぶ」とはどのようなことなのか? 本書ではそれを知ることができます。本書を実践することで、ジャズという文化の根幹に触れることができるでしょう。
【Chapter 1】バーニー・ケッセルの「Honeysuckle Rose」
①バーニー・ケッセルに学ぶ”1、2拍目のコンピング・リズム”
②バーニー・ケッセルに学ぶ”3、4拍目のコンピング・リズム”
③バーニー・ケッセルに学ぶ”2小節のリズムとペダル・ポイント”
【Chapter 2】エド・ビッカートの「I’m Old Fashioned」
①エド・ビッカートに学ぶ”ルートレス・コード”
②エド・ビッカートに学ぶ”ソリストのスペースへの反応”‥
③エド・ビッカートに学ぶ”ツー・ファイヴのコード・ワーク”
④エド・ビッカートに学ぶ”クラスター・ヴォイシング”
【Chapter 3】ジャック・ウィルキンスの「Smoke Gets In Your Eyes」
①ジャック・ウィルキンスに学ぶ”4度堆積和音”
②ジャック・ウィルキンスに学ぶ”ペダル・ポイント上のコード・ワーク”
③ジャック・ウィルキンスに学ぶ”アプローチ・コード”
【Chapter 4】ジム・ホールの「All The Things You Are」
①ジム・ホールに学ぶ”ハーモナイズド・ベース・ライン(刻み編)”
②ジム・ホールに学ぶ”ハーモナイズド・ベース・ライン(コード・ワーク編)”
③ジム・ホールに学ぶ”拡張ルートレス・コード”
【Chapter 5】マイク・モレノの「I Remember You」
①マイク・モレノに学ぶ”デュオ演奏のコンピング・リズム”
②マイク・モレノに学ぶ”もう1つのハーモナイズド・ベース・ライン”
③マイク・モレノに学ぶ”susコードと分数コード”
【Chapter 6】ピーター・バーンスタインの「Someday My Prince Will Come」
①ピーター・バーンスタインに学ぶ”3拍子のコンピング・リズム”
②ピーター・バーンスタインに学ぶ”音域を移動するコード・ワーク”
③ピーター・バーンスタインに学ぶ”2ノート・コンピング”
【巻末付録】プレイヤー目線でのリスニング・ガイド
・パット・メセニーに学ぶ”ソリストの魅力を引き立てるコンピング”
・ジョー・パスに学ぶ”ピアニストとの共存”
【コラム】
・ジャズ・ギタリスト御用達の極上オープン・コード
・とりあえず4つ刻みしていませんか?
・上手くいかない時期を乗り越える方法
・コード進行をロストするのが怖いです。
・コード進行が覚えられません
■山田忍さんプロフィール
AN MUSIC SCHOOL、MESER音楽院を特待生で卒業。ジャズギターを鈴木康允氏、小嶋利勝氏、直居隆雄氏に師事、アンサンブルを佐藤允彦氏に師事。2002年、単身カナダに渡りセッション・レコーディングなどを重ね、同年帰国後、自身のグループや、海外ミュージシャンのサポート&プロモートを数多く行う。2009年CD『Winter Tales』発売。
2004年より自身のスクールを開校し、現在までに1000名以上の生徒を指導。2013年より活動の拠点を神戸へ移し、Mistletoe Music Schoolを設立。2023年バード・ジャズギター大学開校。演奏活動の傍「音楽を人生の一部に!」をモットーに、分かりやすく柔らかい言葉でジャズの技法を伝える活動を展開中。
■最後に(編集者から)
山田さんをはじめ、「歌伴デュオ」連載で取材させてもらった方々が異口同音に「歌伴デュオは最高難度である」と仰います。その歌伴デュオの前提として「ソロギターが弾けるようになってから」とも仰います。
この「歌伴どう?」の連載は、歌伴デュオの面白さを再認識し、チャレンジするキッカケを貰い、克服するハードルを下げる目的で企画しました。にもかかわらず、難しさばかりが先行して、諦めに繋がってしまっては勿体無いことです。
山田さん教則本の素敵なところは、レジェンドの音源を紐解く形で解説してくださっているところ。霞みそうなくらい遠い目標を目指すときに必要なものは「あんなギターが弾きたい」という強い気持ちしかありません。掲載された課題6曲の中から、或いはそのパーツの中から、カッコいい!と思えるものが発見できたら、この本は買いだと思います。
山田さん、お忙しいなか、取材ご協力ありがとうございました。また神戸・大阪に行ける機会が作れたら、お邪魔します。
【ご案内】X(twitter)にて記事の新着をお知らせしています。
https://twitter.com/jazzguitarnote