アルバムのリリース機会を捉えて、演奏家がどんなことを考えて、どのように作品づくりをされているかを紹介する連載、第3回です。
今回は平田晃一さん。1年前に出された1 枚目のリーダーアルバム「Introducing」をご紹介頂きます。先日、横浜仲町台にあるTOMMY‘S BY THE PARKにて、井上智さんとのデュオライブがあり、取材のご相談をさせて頂きました。

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では平田さん、宜しくお願いします。
◼️六本木アルフィーでライブ収録
この作品は、六本木にある老舗のジャズクラブ、アルフィーで 2024 年 2 月にライブレコーディングし、同年 8 月にリリースしました。
アルフィーでは現在、「Live at Alfie」シリーズとして、アルフィーでライブレコーディングした音源を CD として多数リリースしています。シリーズが始まった 2022 年の初め頃から、アルフィーのオーナーである容子さんに、ライブレコーディングをしてみないかと声をかけていただいていました。
その時はまだ自分のバンドもありませんでしたし、ライブレコーディングでいい演奏を録ることができる自信もありませんでした。そのため、ライブレコーディングは機が熟してからということになり、まずはアルフィーで様々なミュージシャンをお呼びしてリーダーライブをやらせていただくところから始まりました。
2023 年の 1 月に、ピアノの石田衛さん、ベースの吉田豊さん、ドラムの柳沼佑育さんとのカルテットで初めて演奏した際、「ライブレコーディングをするのならこのメンバーで演奏したい」と思いました。そこから約 1 年間、メンバーを固定してレギュラーカルテットとして活動し、ライブレコーディングに至りました。

ライブの当日は本当にたくさんのお客様に聴きにいらしていただき、ミュージシャンの知り合いもたくさん応援に駆けつけてくださり、多くの方に支えていただいていることを改めて実感したとても幸せな 1 日になりました。
僕にとっては初めての自分名義のアルバムということでとても思い入れのある一枚になりましたし、初めてのアルバムでメンバーや曲目を自由に決めさせてもらえたことは本当にありがたいことだと感じています。また、ライブレコーディングなので、録音当時の普段通りの演奏をそのまま収録できたことがとても良かったと感じています。
◼ 「好きなようにやっていいよ」
プロデューサーはアルフィーのオーナーである容子さんです。容子さんからはメンバーや選曲についての注文は一切なく、「好きなようにやっていいよ」と言ってくださいました。
レコーディング当日にはONKIO HAUS のレコーディングエンジニアである中内茂治さんがアルフィーにいらっしゃり、録音を担当してくださいました。アルバムのプロダクションはディスクユニオンの坂本涼子さん、西尾旨功さんが担当してくださいました。
ジャケット等に使われている写真とライナーノーツは、写真家の蓮井幹生さんが担当してくださいました。
◼️ライブの様子が伝わるアルバムに
ライブレコーディングということで、普段のライブで演奏している様子がそのまま伝わるようなアルバムになれば良いなと思っていました。選曲は、カルテットとして活動してきた中でレパートリーとなってきたものの中から選びました。
演奏面で意識したことは特にないですが、普段通りの演奏をすること、共演者の皆さんの素晴らしさが伝わるような内容にすることを心がけました。

◼️Gibson L-5CES
楽器は 1970~72 年製の Gibson L-5CES、アンプは Fender Deluxe Reverb を使いました。シールドはBarbarossa の Priest、ピックはウォーキンのオリジナルピック JazzⅢ型 1.0mm、弦は Thomastik-infeld のフラットワウンド弦 (.013-.053) を使いました。
アルバムジャケットは写真家の蓮井幹生さんにデザインしていただきました。ギターの色がとても美しいということで、ギターがアップになっている写真が採用されました。実は内ジャケットの背景にもこのギターの写真が使われています。

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◼️レギュラーカルテット
ピアノ:石田衛さん

一音弾いただけでジャズの香りが漂うような素晴らしいタッチを持つピアニストです。洗練されたハーモニー感覚を持ちつつ、ブルージーなフィーリングにも満ちているところも魅力です。また、常に周囲の音を聴きながら共演者を尊重して演奏する姿勢が何よりも素晴らしいと、共演するたびに思います。
ベース:吉田豊さん

あたたかいサウンド、骨太なビート、多彩なハーモニー感覚が魅力のベーシストです。演奏中常に音楽が向かう先を見据えて導いてくださり、いつも助けられています。お人柄も本当にあたたかく魅力的な方で、そんな人間性も音楽に滲み出ているのではないかと思います。
ドラム:柳沼佑育さん

ビバップやハードバップのスタイルを主軸にしつつ、とても柔軟な音楽性を持つドラマーです。スインギーでグルーヴィーなシンバルレガートやブラシ、歌心に溢れたドラムソロももちろん魅力ですが、特にバラードでのストーリー展開が素晴らしいと思っています。
◼曲ごと紹介
1.A Weaver of Dreams
レコーディング当日も1曲目に演奏した曲です。初リーダーアルバムということで、初めに自分のギターの音をたっぷり聴いていただこうと思い、最初はソロギターで始まるこの曲をアルバムでも1曲目に収録しました。
2.This Could Be the Start of Something Big
このバンドでは定番のレパートリーにしてきた曲です。特にドラムの柳沼佑育さんの魅力がよく伝わる演奏になったのではないかと思います。
3.The Shadow of Your Smile
「いそしぎ」の邦題で知られる、言わずと知れたスタンダードナンバーです。この曲はしっとりと演奏しようかと思っていたのですが、ライブレコーディングの熱気もあり、結果的に静かに白熱した演奏になりました。
4.These Are Soulful Days
この曲は比較的マニアックな曲だと思いますが、ジャズの香りがする昔から大好きな一曲です。ギタリストが残した演奏は多くありませんが、ギターに合う曲なのではないかと思っています。
5.Frame for the Blues
このメンバーでレコーディングするならスローブルースは絶対に収録したい!と思い選曲しました。スローブルースの演奏は本当に難しいですが、リズムセクションの3人の極上のブルースフィーリングをお楽しみいただける演奏になったのではないかと思います。
6.Funjii Mama
当日はアンコールに演奏した一曲です。そのため、他の曲以上にリラックスした演奏になっているのではないかと思います。
7.My One and Only Love
昔から大好きな曲で、自分のアルバムを作ることがあれば絶対に収録したいと思っていた曲です。たくさんの思い出があるこの曲を実際に録音として残すことができて、感無量でした。
◼次回作ではオリジナルも
このアルバムはライブレコーディングで全曲スタンダードを演奏したので、もし次回作を作ることがあれば、スタジオ録音でオリジナルなども収録できれば良いなと思っています。また、バンドの編成も、今回のようなカルテット編成はもちろん、ギタートリオやオルガントリオで演奏するのも良いかと考えています。
◼ぜひライブにもお越しください
CD をリリースしてから約 1 年が経ち、全国各地で多くの方がアルバムを聴いてくださり、本当に嬉しく思っています。まだ聴いたことがない方は、ぜひ聴いてくださると嬉しいです。
CDを気に入ってくださった方は、ぜひライブにもお越しください。録音メンバーでのカルテットとしても引き続き活動していますので、より進化したバンドサウンドを、ぜひ聴いていただきたいです!
(録音メンバーで現在決まっているライブ)
10/15(水) 六本木アルフィー
12/7 (日) 日本橋兜町 KABUTO ONE (Jazz EMP)
12/28 (日) 江古田そるとぴーなつ
◼ 平田晃一さんプロフィール

2002 年北海道札幌市出身。8 歳でギターを始め、12 歳からジャズを演奏しはじめる。中学生の頃に札幌ジュニアジャズスクールに所属し、同時期より札幌市内での演奏活動を開始する。2021 年、大学進学を機に上京。2023年、Seiko Summer Jazz Camp に参加し最優秀賞を受賞。2024 年、初リーダーアルバム「Introducing」をリリース。現在は都内近郊を中心に全国各地で演奏活動を行なっている。
◼️最後に(編集者から)
共演のライブでは、円熟した深みのある演奏をされていた井上智さんに、若き平田さんへの応援メッセージをお願いしました。
「共演のたびに平田くんのプレイには本当に驚かされます。ただ、これ以上上手くなられると私が困るので、そろそろ手加減してもらえないでしょうか?(笑)次回の共演を楽しみにしています!」

(写真左)井上智さん、(右)平田晃一さん
智さん、ありがとうございます。年齢を考えると、これからの益々の進化が楽しみです。日本のジャズギター界の盛り上げ、宜しくお願いします。お忙しいなか、取材ご協力ありがとうございました。
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