「歌伴どうですか?」の連載も6回を迎えました。今回は海を越えて、ロサンゼルスで活躍されています森孝人(たかひと)さんに、お話をお伺いします。

森さんには、連載「達人に聞く」の初回インタビュー(2019年3月)を受けてくださったご恩があります。森さんに断られていたら、連載は成立していなかったかも。あれから丸5年。ほぼ毎日Xで森さんの私生活?を拝見しているので、そんなに時間が経ってる実感がありませんでした。
ロスでの歌伴事情、とても気になります。あえてジャズやデュオに限定せず、お話を聞いてみたいと思います。では森さん、宜しくお願いします。
◼️ロサンゼルスで活動を始めて15年
久しぶりですね、宜しくお願いします。
初めての方もいらっしゃるかと思うので、簡単に自己紹介をさせて頂くと、森孝人(たかひと)と言います。2008年よりロサンゼルスでR&Bやゴスペル、スムースジャズを中心に演奏活動をしています。
シンガーのPatti Austin、Goapele、Michael Henderson、Terry Steele、サックス奏者のEric Darius、Michael Lington、Jackiem Joynerなどのツアーや、Motown Record創立60周年のアワードショーのホストバンド、ラテンアメリカ圏で放送されているレイトナイトショーのDante Night Showのホストバンドなど、TVやアワードショーのホストバンドなどでもギターを担当しています。
https://www.morimusic.tv/instructor/
https://youtu.be/xMV5ioKs6hQ?si=HxN3UC0EKxrUp5hF

◼️最近のアメリカではジャンル分けが強くなっている
僕の演奏している経験ですが、アメリカはどこに行っても(程度の差はありますが)お客さんの人種の違いがあります。それは歴史的に白人と非白人を分けてきたことに起因しますが、今でもほぼ白人しか住んでない街があったり、黒人しか聴いていないラジオ局があったりします。
なので、当然お客さんによって馴染みの曲が全然違ってたりということもあります。70年代〜80年代くらいには、いろんな文化をミックスしていた全国放送の音楽番組があったりして若干薄まっていったようですが(少し年配の人は人種に関わらずいろんな音楽を聴いている)、最近はさらにジャンル分けが激しくなっていて、R&Bのラジオ局にカントリーはかからないし、逆もそうです。
そういう文化背景もあって白人の多い場所ではさらっと整然と弾いた方が受けたり、黒人のお客さんにはもっとコミュニケーション取るような演奏(話しかけるような演奏や、繰り返しを多用したり、叫ぶような表現を入れたり)した方が盛り上がったりします。白人のお客さんは基本的に静かに聴いてることが多いので、日本のお客さんと近いかもしれませんね。
◼️国が違っても人間の性質はほとんど変わらない
僕の場合は、自分が日本人であることは全く意識してないです。僕の外見からアジア人のステレオタイプを想像して接してくる人も勿論いますが、基本的にちゃんと音楽を理解してギターも弾けてれば問題ないことがほとんどです。
自分のこれまでの人生を振り返っても、特に民謡を学んだこともありませんし、武道を極めようと思ったこともありません。日本の学校を出てはいますが、ほぼ半分は外国に住んでいます(ナイジェリア2年、オーストラリア5年、アメリカ16年)。
どちらかというと、人間の性質はほとんど変わらないものだと思っていて、意識しても、経験を積んでも、自分の音楽に反映されてしまうものです。だから諦めるしかないというか。理屈っぽい人は理屈っぽい演奏に、だらしない人はだらしない演奏に、無口な人は無口な演奏になるもんです。
日本人である強みがあるとしたら、約束や時間を割としっかり守るとか、そういう部分でしょうか?実際才能があっても、約束をすっぽかしてしまう人は雇われにくいですからね。当たり前ですが、アメリカにはそういう人、結構いるので。

◼️低音が出ない分、ギターだけの伴奏は難しい
今回の取材テーマである「歌伴」というものの定義がはっきり分かってないんですが、ギター1本で伴奏する場合もあれば、バンド形式でする場合もありますよね。ギターという楽器はあまり低音をカバーできないので、ギターのみで伴奏する場合は、結構難しいことが多いです。
アコースティックギターはパーカッシブに弾くことが可能なので、ドラム+コード感という感じでできますが、エレキギターの場合はかなりダイナミクスを出すのが難しいので、ギターのみでの伴奏はあまりやらないことが多いです。
◼️シンガーが歌いやすいよう、シンプルを心掛ける
自分のスタイル的には、シンプルにシンガーが歌いやすいように、というのは心がけています。テンポや、グルーブがまず重要で、細かいテクニックはあまり必要ないです。R&B系の音楽の場合は、16分音符がバウンスしていることが多いので、ピック弾きよりは指弾きの方がしっくりくることが多い気がします。
◼️ギターの特性を理解した演奏を
バンドで演奏する場合は、編成にもよりますが、大体僕が演奏するR&Bやゴスペルの場合は、ドラム、ベース、鍵盤が必ずいますので、ギターの役割は随分変わります。ギターは、歌の合間にオブリを入れたり、曲の構成に合わせてリズムのアクセントを入れたり様々です。その上でギターの特性を理解した演奏が大事だと思ってます。
ギターは鍵盤と違ってダブルストップやコードをクロマチックに動かしやすいのでそういう部分を活かしたり、ブルージーな表現も簡単にできます。コード自体は鍵盤に任せることができますので、ミュートした単音のリフを作ってパーカッシブにすることもできます。ボリュームペダルなどを使うことで、「スウェル」と呼ばれる、ボリューム奏法で彩りを加えることもできます。

◼️曲想にあった雰囲気づくり、そしてメリハリ
ただ、どれを行うにしてもシンプルにすることと、しっかり曲想にあった雰囲気を作ることは重要だと思います。あとは、メリハリです。目立つところはしっかり目立つというのもポイント。
当たり障りなく弾くのはある程度慣れればできるんですが、しっかり曲に貢献するには、ギターが入っていて良かった!と思われるような部分が欲しいですね。
◼️まずはバッキングの基礎を固め、いつでも出せるように
伴奏力を磨いていくためには、まずは、基本的にバッキングで必要なことをしっかり押さえていつでも出せるように訓練しておく必要があります。アメリカではあまりないですが、日本だと譜面を渡されることも多いですから、コード譜を見てそれらのバッキングを出せる必要もあります。
また、例えば鍵盤が弾いていない音域でそのコードに合う音を弾かなくてはいけません。そのためにはしっかりコードの仕組みについて理解する必要があります。
◼️曲にあった伴奏を心掛け、多様な抽斗を持っておく
ジャズの演奏でしたら、当然ジャズのアドリブができないとオブリを入れるのも難しいです。逆にR&Bやポップスでしたら、ジャズのラインは使えませんから、ペンタトニックやメジャースケールの中で曲想に合うオブリを作れないといけません。コードにしても4和音系ではなくトライアド主体の曲もありますから、トライアドやその回転系をしっかり理解する必要もあります。
これらは、個人練習できる範囲のものと言えます。手前味噌で恐縮ですが、この範囲の学習には僕が主宰するMoriMusicTVに様々なレッスンがありますので、ご興味あればチェックしてみてください。
◼️たくさん音源を聴く
あと自分でできることで重要なのが、沢山音源を聴く、ということ。
好きな歌ものは、ギターのパートが歌えるくらい聴くと良いです。知らないうちにギターのプレースメントやアクセントの付け方など勉強できます。
上記の訓練した内容をどういう場面で自然に使うかを、脳に刷り込んでしまいましょう。

◼️参加する人の数だけ想定外が起きる(やっぱり場数)
次に、歌伴だけではないんですが、やはり家で一人でできることには限界があります。他の人と音を出すということは、参加する人の数の分、想定外のことが起きます。
鍵盤の人がコードもオブリも弾きまくる人なら、ギターは効果音程度でいいですし、逆もあります。歌の人とやる場合も同じで、どこにスペースがあるのかを常に察知しつつ演奏します。そういう意味では、どうしても場数が必要になります。
◼️録音をして自分の音を客観的にチェックする
既にバンドで演奏している方は、トライ&エラーで挑戦されてることと思います。そのレベルにある方々には、ぜひ録音をして後でチェックしてみて欲しいです。聴いて評価するのは、自分で客観的に聴いて「良い」演奏をしているか、が基準になります。
◼️後は繰り返すのみ
あとは、その繰り返しです。そのうちに自分の演奏の中に、他の人には簡単にはできないことが簡単にできていたりする部分に気づくと思います。そこが自分のスタイルの基礎になっていくと思います。
スタイルができてくれば、そのスタイルを気に入ってくれる人が必ずいますから様々な人から声が掛かると思います。そうすれば更にいろんな現場を経験して、更に感覚が研ぎ澄まされていくでしょう。
全ての芸術に言えることですが、いきなりなんでもこなせるようにはなりません。
ですから、「自分の成長を待ってあげる才能」が一番重要かもしれませんね。
◼️演奏例をあげておきます(1)
ギター1本のバッキングの映像をあげておきますね(全部インスタです)。
Goapele
https://www.instagram.com/p/CMd6dS8A-JJ/?utm_source=ig_web_copy_link&igsh=MzRlODBiNWFlZA==

Michel’le
https://www.instagram.com/reel/CghwVGHtPX-/?utm_source=ig_web_copy_link&igsh=MzRlODBiNWFlZA==

Artifex エレキギター1本の伴奏
https://www.instagram.com/reel/C4Y-VsVP-k0/?utm_source=ig_web_copy_link&igsh=MzRlODBiNWFlZA==

◼️演奏例をあげておきます(2)
Terry Steeleのライブより。R&Bの歌伴のバッキングの要素が全て入ってるもの。
https://youtu.be/EvwoyFyvb7Y?si=qU9vRWx_CMCjKiVF
Terry Steeleのリハより。割と自由にアドリブする感じの歌伴。
https://youtu.be/4uBYAoGkG7s?si=6pOKJvknfGa2UtBk

サックスが歌の代わりですが、伴奏は歌ものの典型的なものです。
https://youtu.be/kcX5tBBmrzI?si=oNeRsJeo8pOOVlTe

◼️シンガーと演奏で会話する(歌伴を目指される方へのメッセージ)
歌ものが好きかどうかがまず大事ですね。歌ものを聴かないのに歌伴できるようにはならないですから。
あとできれば曲を覚えて、現場ではいつでもシンガーや他の奏者とアイコンタクトできるようにすること。シンガーによってはオブリ入れるギタリストと会話するように歌うのを好む人もいますし。
楽しんで続けてください!
◼️最後に(編集者から)
5年前に何故「達人に聞く」の第1号を森さんにご相談したかというと、MoriMusicTVという膨大なギタリスト向けコンテンツサイトを運営しながら、日々ライブに立たれていること、また演奏の幅を広く取られていらっしゃることが、とても素敵に感じられたから。
今回、演奏例として教えてくださった映像を拝見しても、とても楽しそうに歌い手と会話している感じが伝わってきて「ええなあ、この感じ」というものばかり。ギター弾きじゃなくても「ギターっていいなあ」が伝わるというか。励みになります。
森さん、お忙しいなか、俊速なご対応、ありがとうございました。なかなかロスまでライブ聴きにお伺いできないのが残念ですが、引き続きMoriMusicTVやXを通してのお付き合い、今後とも宜しくお願いします。
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