本年9月に人生初のセミアコを買いました。その過程で、これまで知らなかった、セミアコ選びの新しいヒントを発見しました。その話は、後段でご紹介します。
まずは前段にて、私が購入したThreeDots guitarsセミアコモデルについて、開発責任者であるオカダ・インターナショナル菊地さんにお話をお伺いします。
◼️菊地さんプロフィール
菊地嘉幸(きくち よしゆき)さん
オカダ・インターナショナル 常務取締役、ギター部門責任者

岩手県出身。1990 年、27 歳で ATELIER Z を立ち上げる。1993 年に同ブランドを後任に託し単身渡米。Sadowsky Guitars NYC の工房で技術を学ぶ。帰国後、Sadowsky Tokyo をスタート。Roger Sadowsky との密接な関係を保ちながら、JT シリーズ、Metroline シリーズ、Sadowsky TYO などを世に送り出す。2019 年 Three Dots Guitars を立ち上げ、今日に至る。
◼️ボディについて
「ThreeDots Guitarsには、日本人の体型を意識したモデルと、意識していないモデルがあります。セミアコモデルに関しては、335のボディ形状が重要で、変えてしまうと別の楽器になってしまう。なので335と同形状にしてあります」

◼️センターブロックについて
「独自のセンターブロックを使っています。左右の空気の行き来は遮断してあるのですが、軽量化のために中にくり抜きを入れてあります」
「Sadowskyではスプルースを使っていたので、最初はスプルースも検討していたのですが、スプルースはどうしてもメローなほうに転んでしまいます。検討段階のサンプルの中に、メイプルとマホガニーのブロックがあったので、それをくり抜いて作ることにしたんです。その上で、レスポールと同じように、ブリッジスタッドやテールピースアンカーがメイプル部分に埋まるよう配置したりして、結果として狙っていた音が出せる構造にできました」

◼️ネックについて
「アメリカ人と日本人の体格の違いですが、手の大きさは、さほど演奏に影響ないと思うんです。ただ日本のギタリストには、手が小さいからと、ネックの太さを気にされる方が多いですね」
「昔は修理の一環として、5〜6時間かけて、お客様の前でネックを少しづつ削ってグリップ調整に付き合ったりしたこともありました。しかしながら、弾きやすいネックといっても、一概には演奏者本人ですら分からないものなんです。例えばグリップ変更して『完璧です』と喜んでいただいていたのに、2週間後、そのギターがネットオークションに出ていたこともあります(苦笑)。弾き込んでいるうちに、何か違和感があったのでしょう。ご自分で実際に弾いて確認しても、弾き込んでみないと分からない。そんな世界なんです」

「留意したいのは、ネックの厚みが音に影響するということ。ネックを細くしていくと、失ってしまうものも出来てくるんです。作り手としては、グリップの肉は、嫌がられない程度に残したい。そんなこともあって、ナットのほうに近づくに従って自然に細く感じてくれるように調整しつつ、経験上、ベストなバランスな厚みで設計してあります」
「ネックの厚みの設定にはコツがあって、3フレットあたりからナット近くまでどれだけ自然に厚みが減っていくかの調整で、大きく弾き心地の差が出てきます。是非、弾いてみて確認してみてほしいです」

◼️指板について
「円錐指板を採用していて、ヘッドからブリッジに近づくに従って、段々と平らになっています」
「ジャズギタリストには、弦高を下げて弾きたがる方が結構いらっしゃいます。中には弦高1mmにしたいという要望もあります。でも下げ過ぎると、バズやベンドした時の音詰まりが生じやすくなる。そうしたシビアな要望には、従来のセットネック構造の製作手順では対応が厳しいので円錐指板を採用しました」

「一般的にはフレットを打ち込んだ指板をネック (ボディの一部を含む) に貼り付けていくのですが、その後の塗装乾燥の過程で熱を加えるため材料が伸縮を起こし狂いが生じてしまいます。理想的には塗装乾燥が終わって狂いが出た後にストリングテンションを掛けながら指板面を整えて、ストレートが出たところでフレットを打てばよいのですが、作業効率としては非常に悪い(苦笑)。しかし来春に立ち上げる新しいカスタムブランド(KIKUCHI GUITARS)では、1本づつ、私自身がこの作業を行います」

◼️チューナー(糸巻き)について
「チューナー(糸巻き)は、重量を増やしたくない意図もあり、後藤ガット製のクルーソンタイプを使っています。精度いいですから」
「信頼できるモノを選ぶことは当然として、楽器店で買える部品から選んでおくことも大切だったりします。万が一、ギターを倒してしまったりと、不足の事態で、部品を交換しなければならないことになった場合に、手に入りやすいという配慮ですね」


◼️ナットについて
「ナットは、外れなきゃダメなんです。勿論、弦を外す度に落ちてしまっても困りますが。ナットは消耗品で定期的に交換すべきものです。なので軽く叩いたら取れるくらいでないとね」
「メーカーやメンテナンスされている方の中には、取れちゃったときのクレームを恐れて、ガッツリ接着されるところもあって。本当は取れたら付ければ良いだけなんですけど。クラシックギターでは、最初から接着してないところもありますよね」
◼️切り替えスイッチについて
「たまたまNAMMショーでスタッフが見つけたんです。プッシュ/プルポットによるタップスイッチは配線修理も大変で、切り替えの時に、音が乗ってしまったりということもあります。これだと、そういった心配がないです」

◼️ピックアップについて
「オリジナルのピックアップです。私たちは品質の安定性を重視し、機械で巻いています。機械で巻くにもコツがあって、巻いている途中で回転を工夫したりはしてもらっています」



◼️単板か、合板か(ジム・ホールモデルの実話も)
「合板より単板のほうが、よりナチュラルというのはありますが、それぞれに良し悪しがあります」
「合板は間に接着剤があるので、板自身の強度があって。削り出し単板は、薄いところ、厚いところが出てきてしまうので、強度が充分稼げない可能性もあります。ただ、強度と言っても、セミアコはセンターブロックが入っていますから、さほど気にしなくても良かったりはしますが」
「エレキギターの場合、私個人としては、単板を選ぶメリットは薄いように思いますし、実際、合板を選ぶ方が多いです」
「ジム・ホールは、ずっと使っているダキストが合板ということもあり、合板のほうが好きだと仰ってました」
「合板は接着剤を塗った5枚の板をオス型とメス型でプレスして1枚の曲げ板にするわけですが、ジム・ホールモデルを設計している時に、ロジャーからその曲げ板を送ってくれ、という依頼があって。国内の工場に依頼して板を調達して送ったら、生木だから届くまでに変形が始まっていましてね(笑)。では、太鼓の部分だけを作ってくれるところを探してくれ、という話になりました。しかしながら打診した数社の工場は、当然のことなのですが、塗装していない生木の状態で出荷することに対して、送った後のクレームを懸念し断られてしまいました。それでどうしよう、ということになって、塗装済みボディネックの形で送ってみたらOKが出ました(笑)」
「ピックアップも最初はフローティングという話もあったようなのですが、結局、マウントリングを介して直接ボディに打ってくれ、ということになって。以降、ロジャーも、俺は絶対に合板でいくんだと言って、その後出ているモデルも、全てメイプル5プライの合板を使ってます」
◼️(編集者より)菊地さんのお話をお伺いして
口調は淡々とされていらっしゃいましたが、言葉の端々に、ギター作り手としてのコダワリと愛が籠っていました。
読者へのメッセージをお願いしたところ、下記コメントをいただきました。
「私たちは、これまでの経験から、自分たち自身が信じられるものを軸に、ギターを作っています。さらにThreedots guitarsセミアコモデルは、Sadowsky Guitarの製作から得た知見が活かされ、ベストなバランスで落とし込んでいます。是非、楽器店で試奏してみてください」
菊地さん、お忙しいなか、取材ご協力ありがとうございました。
◼️ (ココから後段)その手があったか!セミアコ選びのヒント
さて、記事タイトルに付けた、私が発見したセミアコ選びのヒントをご紹介します。
この方法は、いつまでも、また誰でも、安心・安全が約束されるものではなく、むしろ問題を大きくしてしまう危険性も孕んでいます。参考にされる方は、あくまでも自己責任でお願いします。
要領はシンプルです。
1)何度か楽器店に足を運び、自分にあった弾きやすいギターを絞り込む。
2)カラーリングを選ぶ際に、自分の所有するギターと「同系色」に寄せる
3)使用時はこまめに仕舞う。新旧ギターを同時に表に出さない。
以上です。
上記を要約すると「新しいギターなんて、買ってないことにする」です。
購入から2ヶ月、同居する3人の家族は、いまだ新しいギターを購入したことに気づいていません。下記写真が私の持っているフルアコとセミアコなのですが、ギターに関心ないと、その違いは分からないようです。隠そうと狙った訳ではなく「どうやって説明しようか(汗)」と躊躇していたら、時が経ってしまっただけ。このままいけちゃう?と期待しているところです。

なお、買った日の夜、早速、近所のジャズセッションに持ち込んだのですが、私が明かすまで、どなたも新しいギターであることに気づきませんでした。そんなに似てるとは思えないけどなあ。子供が新しいオモチャを友だちに自慢する気分で、ワクワクして持ち込んだのに、一抹の寂しさが残りました。
以上、秘伝のご紹介。私にとっては目鱗な発見、ご紹介しない訳にはいられませんでした。初めてギターを買う方には適用は厳しかもしれません。ご容赦ください。
◼️ Three Dots SH MODELスペック
HPより転載「伝統的なルックスの中に独特なセンターブロック & プライウッド構造、ネックグリップライン、そしてFreeway Switchにより豊富なサウンドバリエーションを獲得した唯一無二な存在です。 ヴィンテージや多くのセミホロータイプとは異なるマテリアルサンプルを元に導き出されたセンターブロック構造とプライウッド構造は、歯切れの良さと温かみのあるサウンドを生み出します。」

・センターブロック:Maple/Mahogany
・ボディ:5-Ply Maple
・ネック:1-Piece African Mahogany
・ジョイント:19th Fret Set
・スケール:625mm
・フィンガーボード:(半径)R305-R400、Indian Rosewood
・ナット:Delrin、Width 43mm
・フレット:#SBB-214H
・インレイ:M.O.P.(Headstock Logo and Fingerboard Inlay)
・ブリッジ:Bridge :Gotoh GE104B
・テールピース:Tailpiece : Gotoh GE101A
・チューニングマシン:Gotoh SD90-SL
・ピックアップ(Bridge/Neck):Original Humbucker(Nickel)
・コントロール:2Vol、2Tone、Freeway 6-way Toggle Switch
・ピックガード:4-Ply Black 60’s Style
・フィニッシュ:Polyurethane Gloss
・弦:D’Addario .010-.046
・ケース:Original Three Dots Gig Bag




◼️終わりに
私がセミアコを買った話は、家族には内緒にしておいてくださいね。知らないことで、平和が維持されることもあります。ご協力宜しくお願いします。また今回、ギター基金(ヘソクリとも言う)を使い切ってしまったので、またゼロから積み立て開始です。こちらも、ご内密に。
Threedots guitarsセミアコモデルをプロデュースされた、菊地さんのお話。楽器店では決して聞けないコダワリが聞けました。私が楽器店で最も弾きやすかった印象も、様々なところに気配りがされているからこその結果だったのだな、と納得できた取材でもありました。是非、前回の記事(下記)もお読みいただいて、Threedots guitarsとKikuchi Guitars、セミアコを購入される際の候補に入れられることをお勧めします。
「名工に聞く vol.2 オカダ・インターナショナル」
https://jazzguitarnote.info/2022/10/02/okada-international/
今回は、ここまで。最後までお付き合いいただき、ありがとうございます。
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