台湾とジャズ❶黎明期ならではの面白さ

古い友人グループで台湾に行ってきました。中国には、ウルムチやカシュガルといった奥地も含めて1ケ月半の学生バックパック旅行の経験があるのですが、台湾は人生初訪問でした。折角の機会なので、今回、3回に分けて「台湾のジャズ」について取り上げます。

◼️台湾の印象

3泊4日の台湾ツアー。フライトは4時間弱、時差は1時間と、国内旅行とさほど変わらない距離にある隣国です。4日間を通じて、懐かしさと新しさが混在する、活気に満ちた国という印象を持ちました。また幸いにも、盗難や暴漢などの危険を全く感じませんでした(でも油断は禁物)。

そして「台湾のジャズ」についてですが、私の単独リサーチでは碌な記事にならないので、台湾在住のピアニスト島裕之さんにご指南いただきます。

◼️台湾のジャズを日本に紹介:島裕之さん

【編集:田中】島さん、この度はご多忙ななか、取材ご協力ありがとうございます。宜しくお願いします。まずは自己紹介を頂けますか?

(写真左:島 裕之さん)

【島さん:以下敬称略】こちらこそ、宜しくお願いします。
僕は、日本の建築コンサルタント会社から台湾の日系ディベロッパーに派遣されている建築士です。今回の仕事で台湾に来て、まる8年になります。日本での設計の期間よりも、台湾と中国の建築プロジェクトに関わっている時間の方が長いという珍しい職歴を持っており、それが理由で台湾の日系ディベロッパーの元で、日台間の建設プロジェクトに関わる様々な調整業務を行っています。このことについてもnoteで記事を書いています(https://note.com/hiroyuki_shima/m/m16fa93a516cc)。

【田中】建築コンサルタントのお仕事をされながら、ピアノも弾いていらっしゃる訳ですね。

【島】日本ではアマチュアのジャズピアニストとして、社会人ビッグバンドとコンボバンドに参加していました。それで、台湾でもジャズの演奏をする機会を探そうとしたところ、この国では社会人のアマチュアバンド層がとても薄いことに気がつきました。それで、あちらこちらのジャムセッションに参加し、そこでたくさんのジャズミュージシャンの友達を得ることができました。それで、この友人達の活動を日本のリスナーに紹介するという活動を続けています。

◼️2018年に仕事で台湾に赴任、日本人マスターの店に

【田中】島さんのnote記事は、台湾ジャズに興味を持った方なら、チェック絶必の内容です(https://note.com/hiroyuki_shima/)。元々、台湾との馴れ初めは、お仕事上の成り行きでしょうか?

【島】note記事に興味を持っていただけて嬉しいです。僕は社会人になってから早々に、建築士+中国語というキャリアで仕事をしていこうと目標を立てていました。中国語を勉強し始めたのは25歳ごろです。そして、日本国内で勉強するのに飽き足らず、28歳の時に半年の語学留学をしました。その行先が台湾でした。中国に行かなかったのは、1990年の時点で中国は天安門事件の直後だったからです。その時代の中国は、留学先としては相応しくありませんでした。

【島】台湾のジャズに親しむ様になったのは、2018年に建築コンサルタントの業務で台北に派遣されてからのことです。日本で、アマチュアミュージシャンとしてジャズのビッグバンドとコンボバンドに参加していたため、赴任早々に台湾でジャズを楽しむ場所を探しました。そしてすぐにJazz Spot Swingを発見しました。ここは、日本人ミュージシャンにジャズの演奏を楽しんでもらうジャズバーです。マスターの桑原さんがオルガニストで、彼の演奏の元、どんな楽器が来てもヴォーカリストでもセッションができます。このお店でピアノを弾き出したのが台湾でのジャズ活動の始まりです。

Jazz Spot Swing マスター 桑原さん

【田中】お若い頃から建築士+中国語の仕事を目指され、語学留学までされて、今では現地に入り込み、台湾と日本を音楽で結ぶ活動までされていると。素晴らしいです。

【島】初めは自分でもこんなことになるとは考えていませんでした(笑)。台湾に来てからは、台湾のジャズミュージシャンの友達が段々と増えていき、そして彼らの情報から知らないライブスポットや、新人ミュージシャンのことを知る様になっていったことで、活動がだんだん広がっていきました。

◼️ジャズの市民権は日本ほどはない

【田中】東京や横浜と比較して、「台湾」でのジャズの盛り上がりは如何ですか?

【島】台湾ではジャズの市民権は日本ほどはないと考えています。あまり浸透していません。大学にジャズ研はないし、台北や高雄、台中といった大都市でしか、ジャズの音楽活動はありません。会社には200人の台湾人スタッフがいますが、ジャズの話をできる人間は、2人ほどしかいません。

【田中】ジャズに関心のある社員割合ということでは、私の会社も大差ないかも(苦笑)。

【島】台湾でのジャズの普及には、台湾におけるアメリカ軍の動向と深い関係があります。国民党が台湾にやってきて以降、朝鮮戦争をきっかけに台湾はアメリカ軍の最前線基地になりました。ベトナム戦争の期間を通じて、台湾はベトナムに派遣される軍隊の後方支援基地となりました。この時代に、台湾のジャズはフィリピンのミュージシャンなども含めてとても盛況だったそうです。しかしその後、米中の国交が回復し、台湾とは断交。それに伴い台湾の米軍は全て引き上げ、ジャズの伝統もほぼ途絶えてしまいました。

【田中】そんな歴史が。。

【島】台湾でジャズが復興するのは、1987年に戒厳令が解除され、台湾の人達が自由に外国に行ってジャズを学べる様になってからです。この時代になってから以降、ようやくアメリカやヨーロッパに留学したミュージシャンがジャズを学んで、それを台湾に持ち帰り普及を始めた。今から20年ほど前は、台湾はジャズ未開の地だったそうです。今40代で活躍している第一線のジャズミュージシャン達がようやく活躍を始めたのが、今から20年ほど前。印象としては、日本で戦後初めてアメリカにジャズの留学を始めた世代、渡辺貞夫とか佐藤允彦(まさひこ)、日野皓正らと同じ立ち位置にあるのが、現在の台湾ジャズの第一線で活躍している40代なのだと考えています。そうすると、台湾のジャズは日本よりもおおよそ40年遅れて発展をし始めている。ですので、とても若い音楽なのだという印象を持っています。

◼️黎明期だからこその勢いがある

【田中】「ジャズ=若い音楽」という現状は、これからの期待感にも繋がりますね。

【島】現在40代のミュージシャンが、ほとんど何もないところに20年ほど前から苗木を植え始めたというのが、台湾のジャズの歴史ですからね。その最も初期の動きは、”絲竹空爵士樂團(Sizhukong)”の活動です。これは、ベーシスト/ドラマーである藤井俊充やピアニスト彭郁雯(Peng Yu-Wen)が、台湾の伝統楽器奏者とコラボレーションしてジャズの実践を始めたバンドです。

絲竹空爵士樂團

【田中】黎明期ならではの実験的な取り組みなんでしょうか。

【島】そうですね。この絲竹空(Sizhukong)の活動は、そもそもの初めからジャズの初心者に対するワークショップであったことから、後に継続的にレッスンを行うジャズスクールになり、この学校は今でも活動を続けています。僕もピアニスト方斯由(S’yo Fang)のレッスンに、2シーズン参加したことがあります。1回目はピアノのハーモニーについて、2回目はボサノバの演奏についてです。オランダにいる方斯由のレッスンを、6人ほどのレッスン生がそれぞれ自宅で受けるというものでした。(https://www.sizhukong.com/

【田中】新しいムーブメントの中に、島さん自ら飛び込んでいらっしゃると。現地語で会話できることも生きてそうですね。

【島】原動力となるコアメンバーが若手なので、面白いですよ。現在、台湾の公立大学でも正式にジャズの授業を行なっています。花蓮にある東華大學ではトランペットの魏廣皓(Stacey Wei)、新北市新莊にある輔仁大學ではサックスの李承育(Cheng-Yu Lee)が先頭に立ってジャズの指導にあたっています。台南の台南藝術大學ではピアノのAndy Jaffeがジャズを教えています。これらの大学でジャズを教え始めているため、今の台湾の若いジャズミュージシャンはとてもレベルが高く、しかも個人ではなく一団のグループとなって台湾のジャズのレベルを押し上げていると感じています。

【田中】これからが益々楽しみですね

【島】ジャズを楽しんでいるミュージシャンが皆若いというのが台湾ジャズの特徴です。そして、だんだんと人気が出始めている。そのために毎年ジャズライブを行うバーやレストランが増えています。ジャムセッションのスポットも増えています。今、台湾では成長期にある音楽ジャンルだと思います。

◼️連載「台湾とジャズ」第1回を終えて(編集者から)

以上が連載「台湾とジャズ」第1弾「黎明期ならではの面白さ」になります。台湾ジャズの概況を、台北在住のピアニスト島さんにレクチャー頂きました。お読み頂いて、台湾に興味を持たれた方も多いはず。ぜひ事前学習として島さんのnoteを是非覗いてみてください。

次回・連載第2弾では、台湾で活躍する演奏家にスポットを当てたいと思います。そちらにもお立ち寄りください。

◼️(付録)台湾スナップ写真(台北市内)

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