歌伴デュオに対しては、憧れはあるものの、自分の実力不安もあり、これまで私自身は積極的に動けていませんでした。ジャムセッションのように、ドラムやベースがいて、なんなら鍵盤もいるような編成であれば、歌伴奏も気が楽ですが(そもそもギター不要という説も?)、歌い手とギターだけの1対1の歌伴デュオとなると、責任も重大です。
■歌伴デュオが拡がっていくと
ジャズを身近にしてくれる存在として、ギターとボーカルの歌伴デュオは、大きな可能性を持っていそうです。歌伴のなかでも憧れる編成ですね。
・歌ジャズは、器楽ジャズと違って、広く受け入れられる格別の魅力がある。「カラオケ」状態の歌ジャズは演っていても聴いていてもシンドイが、ライブ感のある歌ジャズは、支持層も厚く器楽ジャズでは敵わない。
・特に、ギターとボーカルだけというミニマム編成の圧倒的な機動力は、小さなカフェなどでもライブを可能にしてくれる。もっとジャズが身近な存在に繋がっていく可能性がある。
そんなことで、歌ジャズに、特に歌伴デュオに興味津々な私。歌伴演奏について、不定期の連載形式で掘ってみたいと思います。
■その道の先に何があるのか
連載では、ギターとボーカルの2名による歌伴デュオを中心に取り上げたいのですが、危惧されることとして、私自身が歌伴デュオのことを何も分かっていないということ。セッションでボーカルの方とご一緒することは度々ありますが、デュオとしては、ボサノバの伴奏をサポートさせていただいたことが数回あるくらいで、話になりません。
実際、ホンモノの歌伴デュオは難しく、求められる技術レベルもかなり高いことが容易に想像できます。そうした技術面の強化は、寄り道するレベルで解決できるものではない。プロのギタリストに師事したり、お手本となる音源を参考に、鍛錬を積むしかありません。
この連載では、寄り道らしい触り方として、技術や理論の深すぎるところには入らないように配慮します。「歌伴道」の世界を垣間見たり、「ライブパフォーマンス」という観点からギターの機能を鑑みたり、そんな本質部分や周辺領域からの歌伴奏ギターを扱ってみたいと思います。
■歌伴のヒアリング第1弾は矢羽佳祐さん
まず連載の1発目は「達人に聞く」にも登場して頂いたギタリストの矢羽さんに、基礎編として、歌の伴奏についての魅力やコツをお聞きしたいと思います。
初回ということもあるので「デュオ」という編成に限定せず、ベースやドラムがリズムの土台を作ってくれている状態での歌伴も想定して、お話いただきました。間奏中でも、ギタートリオの状態になるので、ジャムセッション感覚で演奏できるのが特徴です。
では矢羽さん、宜しくお願いします。
■セッションホストを務めた時に、紹介を頂いた
僕は大学からジャズを始めたのですが、ジャズボーカルをやっている友達が身近にいなかった事もあり、最初の3年間くらいは歌伴をしたことがありませんでした。
大学4年生の時に横浜のファーラウトというお店でジャムセッションホストをすることになったのですが、マスターの村尾陸男さんが「ジャズ詩大全」の著者という事もあり、ボーカルの参加者が多くいらっしゃいました。
歌伴に関しては、ほぼ初心者と言っていい頃でしたが、その日の帰り際に村尾さんから呼び止められて歌伴のお仕事を紹介して頂きました。それ以降は週に1回くらいの頻度で村尾さんと歌伴するようになりました。
■ボーカルの個性を如何に引き出せるかが面白いところ
歌をサポートする楽器として、一番手軽で相性の良い楽器がギターだと思います。
自分で歌って自分で弾く事もできますし、歌い手と弾き手を分業する事もできます。前者は弾き語り、後者が歌伴ですね。ボーカルはその人自身を楽器と捉えれば、十人十色の個性があるのが魅力だと思います。
例えば楽器屋さんに行って試奏しているとして、ギターだったら音域の違いは20~24フレット、ドからミくらいしか違わないですよね。でもボーカルは人によって最低音も最高音も違う。音域も何オクターブも違う。そんな全然違う楽器とのセッションですから絶対面白いですよね。
僕が考える歌伴の魅力は、まずボーカリスト自身の魅力。そして十人十色の個性をどう活かすか、という事だと思います。
■イントロ、エンディングのパターンを知っておく
まずジャズのジャムセッションにおけるイントロ、エンディングのパターンを何種類か知っておくと良いと思います。沢山知っていれば良いという事ではなくて引き出しとして「こういう感じはどうですか?」と2〜3個提案できるくらいで良いと思います。あとはボーカリストの好みで選んで貰えれば良いと思います。
慣れてきた人向けに、もう少しだけコツをご紹介するとすれば、ジャムセッションではボーカルが歌い出しの1音目をイメージしやすいように弾いてあげると良いと思います。具体的には1音目の音をイントロからコードのボイシングの中に入れておくとか、曲の終盤4小節のメロディが聴こえるようにトップノートを動かしながらボイシングするといった感じです。要するに音程を取りやすいように弾いてあげるって事ですね。
この辺りのやり方は実際にライブやジャムセッションに行って歌伴の上手い人の演奏を参考にした方がイメージしやすいと思います。
■伴奏で大切なのは周りへの気配り
伴奏はギタリスト各々の技量に合わせてできる事をやれば良いと思います。
おすすめの練習は、先人の素晴らしい音源を聴いて真似してみる事です。特にギターは編成によっても役割が変わりますからね。やりたい編成が決まっているのであれば是非それと同じ編成の音源を聴いてみて下さい。
例えばボーカルとデュオなら、とにかくリズムをしっかり提示してあげることが大切です。その際はコードのボイシングはシンプルで良いと思います。ベーシストがいてリズムを出してくれるなら、もう少しコードで遊ぶのも良いと思います。さらにピアノまで入った日にはギターは弾かずに聴いているのがベストという可能性も全然あります。
話をまとめると、相当な熟練者を除けば、こういう時はこう!とパターン化してしまうのではなく、周りの状況に気を配りながら色々なやり方を模索しているくらいの方が伴奏の能力は鍛えられると思います。
■歌詞の意味を踏まえた間奏
歌伴に限った話ではないかもしれませんが曲の雰囲気に合わせるという事は大切ですね。僕が歌伴を始めて間もない頃の話ですが、よく演奏後に村尾さんから「この曲の歌詞はこうで、こういう意味なんだ」と教えて頂きました。村尾さんから間奏の事で何か言われた事はありませんが、「悲しい歌詞の曲なのに、元気なソロを弾いてしまったな」と、自分で振り返って反省する事はありました。
アドリブなので弾く内容に決まり事がある訳ではありませんが、明るい曲なのに淋しく弾いたり、切ない曲なのにオラオラ弾いたりしたいとはあまり思わないですよね。歌伴では改めて歌詞の意味に注目してみるのも良いと思います。
■技術的にはインストと同じように出来るはず
ギターの技術的な話をすれば、インストがある程度できる人であれば同じくらいには歌伴もできると思います。
もし歌伴に苦手意識がある方は一度考えてみて欲しいのですが、【普段やり慣れたキーと違うキーで演奏すること】だったり、【譜面に細かい指示が沢山書いてあって流れが掴みにくいこと】だったり、そういう部分に躓いているケースも多いのではないでしょうか。もしそうなら、インストをやる時もキーを変えたり、アレンジしたり、いつもと違う演奏を心掛ける事で良い練習になると思います。
あとは歌伴ならではのテクニックとして【ヴァース】と呼ばれるお決まりの歌い出しがありますね。ヴァースは僕も最初の頃、全然合わせられなくて苦労しました。村尾さんにもよく相談しましたが、結局いつも明確な返答はしてくれなかったです。これに関して僕から補足すると、演奏者にとっては身体が音に反応しているだけの状態で、説明するほどの理由が無いっていう場合もあるんですよね。自転車に乗れるようになった人が、なぜ自転車に乗れるのか深く考えないのと一緒です。
■ボーカル側も伴奏者を探してるのでは。。
ボーカルと出会う方法は基本的にはジャムセッションになると思います。あとは地域のジャズコミュニティに参加するとかですね。近くにそういうコミュニティがあるかないかなどは各々が調べるしか無いでしょう。ボーカルと知り合うだけならジャズの上手下手は関係ないですから。
実はボーカルの側も一緒に練習する人を探している人が多いと思います。ただ、どうしても年齢が近いとか楽器歴が近いとか、家が近いとか、そういう部分でもなるべく自分と似てる人を探そうとしている気がしますね。
僕は共演者でも練習相手でも、一回り、二回り上は当たり前です。村尾さんなんて僕と半世紀離れてますし、村尾さんが僕に最初に紹介してくれたボーカリストも40歳くらい年上でした。年齢やキャリアが違うからと言って諦めずに、積極的に声を掛けていれば付き合ってくれます。
■歌伴をやってみたいけど踏み出せない人へ
ジャズギターに興味のある方ならば歌伴もできたら間違いなく楽しいので是非やってみて欲しいです!細かいミスとかやり方とかは後からいくらでも直していけるので、まずはやってみましょう!
■矢羽佳祐(やばけいすけ)さん プロフィール
http://www.yaba-jazzguitar.com
1989年生まれ、新潟県長岡市出身。東京、横浜を中心に活動するジャズギタリスト。
15歳でギターを始める。ポップスの弾き語りや邦楽バンドのコピーをマイペースに練習するうちにギターに夢中になる。ギターを弾いているうちに即興演奏にも興味を持つようになる。
18歳で大学進学に伴い上京。専修大学のジャズ研究会MJAブルーコーラルでジャズの魅力を知る。先輩からジャズギターの名盤や定番曲などを教えて貰いながらジャムセッションを重ねてジャズギターを習得する。在学中には関東の主要な音大やジャズ研究会が参加したジャズ甲子園というコンテストで優勝。徐々にジャズバーやライブハウスなどへの出演も増えていきプロ活動のキャリアをスタートする。
演奏スタイルはジャズギターの中でも比較的オールドなプレイを主体としており、ブルースのフレーズも多用する。ジャズを演奏する時はギブソンのフルアコースティックギターをアンプに直接刺したヴィンテージライクな渋い音色を好んで使っている。近年では日本人ジャズギタリストで著名な井上智氏から東京の若手プロの注目株として紹介されるなど演奏に高い評価を得ており、2022年からオルガン奏者の土田晴信氏のトリオにてレギュラーとして活躍している。
■最後に(編集者から)
矢羽さん、お忙しいなか、取材のご協力ありがとうございます。
デュオにしろ、ボーカルとトリオの編成にしろ、歌伴を重ねていくと、歌という、ジャズにおいて最重要なファクターを再認識し、出るとこ引くとこの勘所が磨かれ、普段の演奏にも効能があるような気がします。まずは運良く相性の良いボーカルの方からお声がけをいただいた時に満足できるよう、技術的な伴奏力の向上を磨いておくことは必要かと思いますが。
もし今回のインタビューを読んで、歌伴について、もっと詳しく知りたい、もっと早く身につけたい、という方は、矢羽さんが個人レッスンもされているので、是非お問い合わせをしてみてください。
矢羽佳祐さん連絡先:yaba.jazzguitar@gmail.com
この連載は、取材させて頂きながら、私自身の「歌伴デュオ」熱を盛り立てていこう、という虫の良い企画です。今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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