デジタル音源❷場を録音に取り込む

4回連載「デジタル音源」の2回目、テーマは「場を録音に取り込む」です。

我が家のピュアオーディオシステムは、ハイレゾ(Hi-Res)データファイルの再生ができる環境になっていません(SACD再生まで)。ハイレゾ=CDを遥かに凌駕する高音質音源を、出来れば大型スピーカーで聴きたいところですが、追加投資も半端では済まされない。ポータブルな音楽専用プレーヤーから始めるしかなさそうです。

ところで、高音質の証として、機材や音源に対して付与されるハイレゾロゴ(※)。一般社団法人日本オーディオ協会が発行する規格認証です。商品にマークを貼りたい人たちが、協会に使用料を払って載せる訳ですが、今回、高音質音源を色々と聴いてみて、その定義と心地良さが必ずしもリンクしていないような気がしています。

※ハイレゾロゴ:「40kHz」以上のアナログ信号特性を持っており「96kHz/24bit」以上のデジタル信号を扱え、メーカー責任において聴感評価が行われ「ハイレゾ」に相応しい商品やコンテンツに付与される。https://www.jas-audio.or.jp/hi-res/definition

◼️送り手に聞いてみた

高音質音源とは?の問いに対して、自分なりにスッキリしたかったので、ワオンレコード代表の小伏和宏さんに、お話を聞いてみました。

http://waonrecords.jp/

では小伏(こぶし)さん、宜しくお願いします。

◼️器の中に何が入っているかが大切

高音質音源といえば、高解像度で、立ち上がり早く、広帯域、ワイドダイナミックレンジな音源という感じでしょうか。いずれもハイレゾのハイサンプルレート、ハイビットレートが効果的な要素ですから、ハイレゾが高音質音源だ、と思うのは、やや早合点です。CDフォーマットを超えるサンプルレート、ビットレートの音源をハイレゾといいますが、それはあくまで器のことであって、その器の中に何が入っているかこそが大切です。

◼️ 演奏している「場」を録音に取り込む

演奏家は、演奏している空間の響きの癖、残響の深さや長さ、空間の容積に伴う空気感を、肌で感じなながら、テンポであったり、フレージングであったり、あるいはディナミーク(音の強弱)を、その場に合わせて自在に操り音楽を紡ぎ出しているものです。ですから、良い音の「音楽」を伝えようとする場合に、その演奏している「場」をいかに同時に録音に取り込むかが重要なポイントになります。

(写真)録音現場風景

たとえシャープでダイナミックな音を収録していても、この「場」が録り込めていないと、それはただの良い音であって、演奏家が意図した音楽からは乖離しているかもしれません。「場」が録り込まれて初めて、演奏家が意図した「音楽」となれるのです。

◼️ 演奏空間の録り込みには「時間軸」が重要

この「場」つまり演奏空間の録り込みに重要なのが時間軸です。楽器から出た音が、部屋のあちこちで反射し、更にその反射音がたびたびあちこちで反射して、その副次的反射音と直接音が相まって演奏空間を作り出します。ですので、録音においてこの副次的反射音と直接音をもともとのタイミングで録り込み、それを正しいタイミングで再生できれば、もともとの演奏空間が再現されます。だから時間軸が大切なのです。

マイクの位置の違いによる到達時間差による時間軸のブレを避けるために、究極的に人間の耳の数と同じ2本にまでマイクの数を絞れば、ステレオ再生で演奏空間をかなり精密に再現できるポテンシャルを持ちます。そういったことをケアできて初めて、この録音を収める器の話になってきます。

(写真)ワオンレコード 小伏さん

◼️良い音楽を伝えるための丁寧な録音

せっかく時間軸をできるだけ正しく収録しても、高域特性が悪かったり、ダイナミックレンジが狭かったりすると、それによって時間軸が狂って元の演奏空間が再現しにくくなってしまいます。ハイサンプルレート、ハイビットレートのハイレゾであれば時間軸をより正しく保存できますから、良い音の「音楽」を伝えられるということになります。

とはいえ、CDフォーマットでも丁寧に録音されたものであれば、かなり良い音で「音楽」が聞けます。演奏空間を丁寧に録り込んだ良い録音を、例えば良質のマスタークロックを接続するなどして時間軸に着目して丁寧に再生することで、良い音の「音楽」をたっぷり楽しんでいただけるはずです。

(写真)響きの密度を上げ音像をシャープにするため壁・椅子の配置に工夫

◼️最後に(編集者から)

CDレーベルの方にお話を聞くのは、大阪の澤野工房さんに次いで2回目でした。

「穴場紹介❻新世界の履物屋さん」
https://jazzguitarnote.info/2022/07/05/spot-6-atelier-sawano/

ハイレゾは器の規格であって、その中に収まる音源の品質を保証するものではないこと。良い音楽の再生には、時間軸に配慮した、丁寧な録音が前提となること。小伏さんの解説で理解することができました。

特に、小伏さんの仰っている「時間軸」については、リバーブを日頃からイジっている私たち電気ギタリストには、意外に馴染みやすい話。にも関わらず録音には、そこまで気を配ったことがなかったので、なるほどなあと今更ながら勉強になりました。

小伏さん、お忙しいなか、取材ご協力ありがとうございます。

4回連載の第2回目、「場を録音に取り込む」は以上になります。お付き合いありがとうございました。

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