ノイズ視点からのケーブルについては、以前、記事に書きました。要約すると「安すぎず、高すぎないケーブルを選ぶ」という内容だったかと。なんて無責任な。
■セッション現場の実態
ジャズセッションの場合、メンバーの回転をスムーズにするために、アンプにケーブルが挿しっぱなしになっていることも多いです。「このケーブルに繋いでください」「了解でーす」という感じ。
その裏には「ケーブルは、どれも一緒でしょ。」という暗黙の了解があります。確かに、ケーブルの違いによる出音の差異は小さいです。
お客さんも、一緒に演奏しているメンバーも、もしかするとギタリスト同士ですら、どんなケーブルを使っているかなんて、全く気にしていないのが現実です。
■ケーブルのコダワリ、誰のため?
ケーブル選びは、自分のためです。
電気ギターの場合は、生ギターと異なり「ギター、ケーブル、ペダル、アンプ」がセットで、ひとつの楽器です。ケーブルも含めて、総体として音を作ります。心地よい音が出てると、気持ち良い。その空気が演奏にも反映され、観客にも届いていく。
何処にどれだけ工夫したか、他言は無用、自己追求に留めておくのが無難です。また、本来、優先すべき演奏力は、棚に上げておくことも大切です。
■いざ気にしてみると無限の選択肢あり
単純に思えるケーブルも、芯線(材質、本数、太さ)、皮膜(材質)、コネクタ、半田(導通率、接触面積)など、様々な要素で構成されています。
比較項目としては、「ノイズ」「音質」「反応」「取り回し」「デザイン」などが挙げられるでしょうか。ノイズも、ジャンルによっては雑味として求める方もいるので、いづれの項目も○×の基準ではない。
ブランドごとに、商品ごとに、それぞれ特徴があり、もう無限の世界です。有名なモンスターケーブルにしても、演奏家によって「好きだ」「嫌いだ」と意見が別れます。正直、ちょっと面倒ですね。
■迷い人のためのケーブル選び
さらにタチが悪いことに、自分の好みを上手く説明できなくないですか?
「中音域がシッカリしている」「クリアである」といった説明も、物差しが曖昧なので、「そういったケーブルを求めているなら、◯◯ケーブルだね」なんてことには繋がらない。
きっと、私のような迷い人がいるに違いない、またネットの評判だけを頼り選んでいる人が多いに違いない、と推察。このテーマを少し掘ってみようと思います。ご案内する「コツ」は2つ。合わせると結構な情報量になってしまったので、2回に分けて掲載します。
■選び方のコツ①「愛せる作り手を選ぶ」
無難に有名どころの「ジャズ用」ケーブルに落ち着いても良いのですが、同じ値段払うなら、自分のケーブルブランドを持つのも楽しいもの。
そこで、今回ご紹介するコツは「頼れるところは、頼れる人に、頼るべし」です。ギターも、アンプも、メンテも然り。プロの職人の思想や言葉に耳を傾けることで、道具を選ぶ目や耳を養える得(とく)もついてきます。
神奈川県には、ギター工房こそ少ないものの、ペダルやケーブルなど、周辺機材ブランドが集まっています。今回、横浜を拠点に、高品質なケーブルで知られる「KAMINARI GUITARS」さんを訪ねてみました。
インタビューにご協力くださったのはKAMINARI GUITARS代表取締役の橋本勝男さんと、技術担当の山口博司さん。お忙しいところ、ありがとうございました。
■橋本代表:コダワリのポイント
「少し前まで、ケーブル開発はハイファイを目指す傾向がありました。それが、全てのギターに合うものなのか、向かうべき方向なのか、という疑問がありました」
「昔の良いものには、現代においても通じるものがあります。良いところは残し、現代にそぐわない部分は改良する。日本の緻密なところをミックスすれば、日本独自のアプローチによる、日本が世界に発信できるケーブルが出来るのではないか、そんな思いを込めて、ブランドを立ち上げたんです」
「品質的には原価をあまり考えず、良いモノを目指しています。素材選びはもちろん、インチとセンチの違いを意識したり、3Dプリンタで検証したりね」
■山口さん:技術担当の視点から
「ブランドネームだけ追っ掛けていると、作り手がこだわるべきところを見失うこともがあります。私たちは、聴感を大切に、やりたい音、出したい音を求め、バランスを考えながら作っています」
「情報公開はしていないのですが、ケーブルの内構造もそれぞれ変えてます。コンセプトの違い、求める音によって、設計のアプローチが異なるからです」
■橋本代表:開発に当たって
「家具にしても、作り手がどれだけこだわって作っているか、買う時に知らなくても、使っているうちに分かってくることがありますよね。車も然り。マセラッティと大衆車を比較して、どちらを選ぶか。ものづくりに対する姿勢が根本的に違う」
「会社を大きくすることよりも、分かってくれるユーザーのために、コダワリ抜いた車を大切につくる。楽器も同じ。日本におけるモノづくりの、ひとつの生き残り方なのではないかと。むしろ楽器の世界は少し遅れているかもしれませんね」
「例えばケーブルの方向性。ケーブルの方向性は出音に殆ど関係ありません。しかし、編組シールドの編み込みの方向で違いが出る、という方もいらっしゃいます。多くの演奏家が気にしていないことでも、気にされる方がいらっしゃるのであれば、気配りすることも作り手の使命と考えています」
■山口さん:開発の現場
「ひとつひとつの製品は、最終形に落ち着くまで、50本くらいの試作品を経て、辿り着いています」
「ギターはストラト、テレキャス、レスポール、335など5種類。アンプもマーシャル、ジャズコ、ツインリバーブなど、組み合わせも変えて。候補を絞り込んだあと、実際にミュージシャンに弾いてもらって的を絞り込んでゆきます」
「私たち開発チームは技術面ばかりに目がいってしまうので、面白くないものが出来てしまいます。代表の橋本が、デザインや取り回しなど含めて、全体のバランスを見て判断をおこない、最終の形に落とし込んでゆきます」
■(オマケ)橋本社長に、これからの音楽について、お聞きしました。
「コロナ前に戻るには、かなり時間が掛かります。横浜は日本における洋楽発祥の地でもあるし、元の活気が戻ってくれることを願っています。」
「しかし、コロナのようなことが起きたとしても音楽はなくなりません。音楽は文化なので、無くても良いと思う人がいるかもしれませんが、いまや人間の精神的な健康に、また人生にとって、大切な役割を担っています」
「コロナによる今の状況を悲観するだけでなく、プラスに転換できるようになると良いですね。新たにできた時間を使って、新たに音楽を聴く人が増える。ギターを始めようという人たちが増える。ネットで多様な人たちが繋がって、また世代を超えて、音楽が伝わっていくとかね」
「コロナの状況をチャンスと捉えて、もっともっと音楽との接点が増えてくれることを願っています」
勇気づけられる言葉、ありがとうございます。
在宅によって、新たに生まれた時間。ネットに対する意識変化、ネットによる新しい出会い。上手く進化に繋げてゆきたいですね。
■連載(1/2)を終えて
ケーブル選びのコツ❶は「愛せる作り手を選ぶ」でした。
会話の端々から、作り手のコダワリが伝わってきました。ケーブル選びに迷ったら、信用できる作り手を探す、選ぶ。KAMINARI GUITARSさんはひとつの選択肢ですが、関東圏の方なら、一度、訪ねてみては如何でしょう?
続編記事がありますので、続けてお読み頂けましたら幸いです。
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