ジャズを演る人に、理系・医師が多いのは良く耳にする話。今回ご紹介する本を執筆された井上さんも、お医者さんの仮面を被ったジャズピアニストだそうです。
ノリを科学的に解析するアイデア自体は、理系演奏家ならば、多少なりとも発想されたことがあるかもしれません。しかし、カタチにできないアイデアはタダのゴミ。膨大な時間と手間を掛け、丁寧な分析・考察をおこない、書き下ろしてしまった井上さんの偉業、本当に凄いことだと思います。
正直なところ、ノリを科学的に探求するに必要な作業量が、自分の演奏に、どれだけ効率的にフィードバックされるものなのか読めません。そして、この本、演奏に関係なさそうなことが、山ほど盛り込まれています。そんな闇の世界に手をつけてしまった井上さんは、尊敬すべき、究極の「寄り道」達人とお見受けいたします。
ジャズの「ノリ」を科学する
著者:井上裕章
A5判、176頁、¥1,800(税別)
発売2019/11/25
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■目次
第1章 ジャズのリズムをヴィジュアル化してみる
・8分音符のタイミングとは?
・リズムを図解・数値化するために
第2章 パーカーの後ノリ革命
〜 スウィングからビバップへ 〜
・スウィング・ジャズとビバップの違い
・ホーキンス、ヤングとパーカーのタイミングを比較する
・革命の足跡
第3章 レスター・ヤングからチャーリー・パーカーへ
・ヤングとスウィング・ジャズの巨匠たちとの比較
・モダン・ジャズのパイオニア(ヤングとクリスチャン)
・ヤングと創成期ビバップとの比較
・ビバップの創始者パーカー
第4章 ファッツ・ナヴァロとマイルス・デイヴィス
〜 ビバップからクールへ 〜
・ファッツ・ナヴァロのイーブン8分音符
・マイルス・デイヴィスの革新
・マイルス・デイヴィスの変貌
第5章 パーカーとヤングの遺産
〜 ハード・バップへ 〜
・パーカーとヤングの強力な影響
・遅れ値、ハネ値、裏拍値の変遷
・ハードヴァップ期の8分音符のタイミング分類
・8分音符のタイミングの違いはこんな風に聴こえる
第6章 モダン・ジャズの巨匠たちの8分音符
〜 8分音符タイミングの5タイプ 〜
・ホーキンス型(ウェス・モンゴメリ )
・ヤング型(チャーリー・クリスチャン、グラント・グリーン)
・パーカー型
・ナヴァロ型
・クール=デイヴィス型
第7章 ビハインド・ザ・ビートの巨匠
〜 デクスター・ゴードンとエロール・ガーナー 〜
・デクスター・ゴードンの8分音符の使い分け
・元祖ビハインド・ザ・ビート:エロール・ガーナー
第8章 ドラムスとベースの微妙な関係
・ベースとシンバルとハイハットの発音位置
・ハードバップ・ドラマーたち
・ベースのタイミング
・「後ノリ」のベース
(付録)練習方法
・タイミングに注意して聞いてみる
・自分の演奏を分析してみる
■コメント抽出
「タイミングの差こそが、カッコいいかどうかの重要な要素」
「8分音符のタイミング(ノリ)という面からみると(中略)、後ノリが、受け継がれ進化していく過程が分かる」
「モダンジャズのソロには、ドラムやベースのタイミングとの微妙なズレや一致があって、フレーズのニュアンスを決める重要な要素となっている」
「パーカーの表拍の後ノリは、現代まで引き継がれ、暗黙の伝統となった」
■読書感想
目次を見ていただくと、どんなことが書かれているかは推察していただけるかと。個人的には、第8章、ドラムとベースのわずかなヨジレが聴き手の印象に大きく影響する話が興味深かったです。
なお、この本は1930年代のスイングジャズから1960年代中期までのハードバップまでを扱っています。
過去の偉人演奏より現役ギタリストの演奏を面白がる私には、本書を読む下地となる、時代時代の楽曲聴取量が、圧倒的に不足していました。昔のジャズを聴き込んでいる方、かつデータを読むことが好きな方には、より楽しめる内容かと思います。
ノリについて深めたい方、もっとカッコ良い演奏を目指したい方、長引く梅雨間に、在宅読書は如何でしょうか。
■終わりに
盛り沢山な本ですが、一番大切なメッセージはコレです。
「タイミングの差こそが、カッコいいかどうかの重要な要素」
前回の記事(基本のキvol.1)で、様々な現役ギタリストの「ノリ」に関するコメントを紹介させていただきました。この本に込められたメッセージも共通しているように思います。
果てしない道のりだけど、体育会系な技巧に走るよりは、圧倒的に楽しい探求ですねー
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