ガットギター❶GoProカメラ発想のマイク

ラテン・ボサノバ 系のユニットなど、ソレっぽい音が欲しい時に、ガットギターを使います。ガットにはガットの達人が沢山いらっしゃって、迂闊には手を出せない世界。正直、このテーマ、ちょっとビビリながらの連載です。あくまでもガットギターの本格的な知識やノウハウは専門の方にお任せして、ココでは寄り道ネタに徹しようと思います。

今回はマイクの話。
ガットギターをアンサンブルで使う場合、生音では埋もれてしまうので、マイクで拾う必要があります。私が所有しているエレガットには、ピエゾマイクとコンデンサマイクが仕込まれていて、本体側面に埋め込まれたコントロールパネルで、2マイクのブレンド具合を調整しアウトプットする仕様になっています。多くのエレガットは、このタイプですよね。

コントロールパネル

ガットギターを生音で弾いていると、本当に気持ち良い。ポロロンと弾いたり、ボサノバっぽい伴奏を弾いたりすると、やっぱりガットギターは素晴らしい楽器だなあ、と思います。ところが、その生音の素晴らしさを、スピーカーを通して再現するのは至難の技。ネットで探してみると、多くのギタリストが悩み、試行錯誤されていることが分かります。

■生音と、アンプからの出音は別の楽器

ギターの出力を上げるなど悪条件が重なると、マイクがスピーカー音を拾ってしまい、ハウリングが生じます。特にコンデンサマイクはハウリングを起こしやすい。

一方、振動を電気的に検出するピエゾマイクは、空気の振動ではなく、設置面の振動を拾います。コンデンサマイクと比較して、ハウリングに強い反面、ピエゾ特有のアタックの目立つ癖のある音となるため、好き嫌いが出るところです。

そこでコンデンサとピエゾ、それぞれのメリット・デメリットを補完すべく、2種類のマイクをブレンドして使う訳ですが、結果的に、ガットギター本来の生音とは掛け離れた音になってしまいがち。エレキギターを弾き慣れた身からすると、そもそもマイクで拾った音を、生音に近づけようというのが無理な試みなのかな、と多少諦めもつきます。生音に近づけることを追求するあまり、アンサンブルにおける音ヌケやハウリングのリスクが高まることもありそうです。

■そもそもボディに穴を空けないほうが良い?

尊敬するガットギターの製作者は「マイクのコントロールパネルとはいえ、ボディに穴を開けることは、ギターの響きを奪ってしまうので、避けるべきだ」と仰っていました。生音にコダワリぬいて製作されている方からすれば、ボディに穴を開ける行為を咎めるのも納得できます。私が憧れるプロ・ガットギタリストは、ボディに穴を開けず、後付けでピエゾとコンデンサのマイクを仕込んで、素晴らしい音を出しています。散々な試行錯誤の上に辿り着いた、と仰っていました。

演奏家によっては、ボーカルが使うようなダイナミックマイクを、マイクスタンドを使い、ギターのサウンドホール付近に持ってきて、音を拾っている方もいらっしゃいます。この場合、ギターとマイクの位置関係によって、音質・音量・ハウリングなど、様々な要素に影響が及ぶため、基本的に演奏中はギターを動かさず弾き切らなくてはいけません。

人それぞれに、コダワリのポイントがあって面白いですね。エレガット内蔵のマイクを駆使して、ピエゾマイクの共存にも目を瞑り、許せる音に近づけていくほうが楽チンなことは確か。でもちょっと寄り道して、周辺まで視野を拡げると色々と発見もありそうですよ。

■GoProカメラ発想のコンデンサマイク

最近、目ウロコな商品の存在を知りました。

audio-technica ATM350GL
https://www.audio-technica.co.jp/product/ATM350GL
・2019.04.26発売
・¥41,904(amazon,2010/03/13)

・コンデンサマイク(ファンタム電源供給が必要)
・最大入力音圧レベル 159dB
・暗騒音を低減するローカットスイッチ搭載
・単一指向特性により、背面や側面からの不要な音をアイソレート
・通常レベルからハウリングが発生するレベルまでの音量幅が広い

見た目の通り、最大の特徴は、GoProカメラのように、マイクがギターに追随してくること。ボディに穴を開ける必要もありません。

どんな姿勢で弾いても、ギターとマイクとの位置関係が固定されるため、ステージングも恐るること無し。ハウリングのリスクが無くなる訳ではないので、歩き回ることは厳しいとしても、演奏スタイルの幅を拡げてくれるツールとして気になります。

■導入の際は、アコースティック専用アンプも

PAがついてくれる舞台では、責任範囲も曖昧になるので、マイク録りから全てPAに任せる方が多いと思います。ただ経験上、一期一会のPA屋さんに、細かいニュアンスまで汲み取ってくれることを期待するのは無理というもの。PAオペレーターの技量もピンキリです。大きな小屋の場合はPAに頼らざるをえませんが、カフェや中小規模の小屋では、ギターアンプと外付けマイクを自ら持ち込むと、リスク軽減に繋がります。

百聞は一見にしかず、ATM350GLを試してみることにします。今回、実験にあたり、audio-technicaさんのご協力を頂きました。ありがとうございます。

まず商品が届いてから、大きな失態に気づきました。このマイクはボーカルマイクと同様のXLR入力端子が必要です。ところがウチにあるギターアンプは、どれもXLR入力端子が付いていなかったんです。
商品が届いてから、そんな初歩的なことに気づいた私は、リハスタに入ってゼロから試す形となり、勿体無い時間を過ごしてしまいました。

ジャックを繋いでいるのがXLR入力端子

残念なことに、XLR入力できるギターアンプを置いているリハーサルスタジオは、少ないです。ましてやJC120のような、何処にでも共通で置いてあるような定番アンプがある訳でもない。このマイクを購入される方は、マイク入力端子があり、アンチ・フィードバック機能のついたアコースティックギター専用アンプを、同時に揃えられることをお勧めします。

■音出ししてみました

スタジオに籠もり、アコースティックギター・アンプを使って、色々と取り付け箇所などを試してみました。内蔵マイクと異なり、些細なセッティングの違い、楽器やアンプとの相性などによって出音も変わることがわかります。

細かい設定違いによる音源データの掲載は、誰も聴かないと思うので止めておきます。一応、代表的な参考音源だけ下記に載せておくので、ご興味ある方は参考になさってください。

なお、スタジオでのアコースティックアンプを使った音出しでは、確認に耐えうる録音環境を整えられず、iRigPRO→iPadで録音した音源になります。
※サンプル音源のショボさは、演奏技術と録音技術に起因します。ご容赦ください。
※エレガットとクラシックギターでは、生音が全く違うので、差っ引いてご確認ください。使用したクラシックギターは低音が強く、籠った生音です。

(1)エレガット+ 外付けマイクATM350GL
・エレガット:Antonio Sanchez 3450

↓ サンプル音源
https://www.dropbox.com/s/j6hsn650r92eaan/ele-gatG-exeMic-3.m4a?dl=0

(2)エレガット+ 内蔵マイク
・エレガット:Antonio Sanchez 3450
↓ サンプル音源
https://www.dropbox.com/s/xb2l8tdesoeakzh/ele-gatG-inMic-C50P50.m4a?dl=0
(コンデンサマイク50%、ピエゾマイク50%のミックス)

(3)クラシックギター + 外付けマイクATM350GL
・クラシックギター:Orpeus Valley R65S

↓ サンプル音源
https://www.dropbox.com/s/1ly4tv5l08dwfgy/classicG-exeMic.m4a?dl=0

■所感

(1)マイクの位置について
・「取り付け位置」に関して。ブリッジ側に取り付けると、右手の邪魔になってしまい、サウンドホールから、かなり離れてしまいます。ネック側のボディに、上または下から取り付けるのが良さそうです(下記写真左端)。

・サウンドホールに向けるか、外すかの「マイクの方向」、また「ボディとマイクの距離」など、色々と試してみましたが、素人にも聞き分けられるほど変化があるので、頃良い按配の調整が必要です。近づけ過ぎると唸りのようなハウリが入ってきます。またマイクの方向によっても、低音・高音のバランスがかなり変わってきます。

・マイクの設置・調整は、とてもデリケートなものだなあ、と感じました。繊細な音色を再現するためには、丁寧なセッティングが必要です。

・単一指向性の高い設計になっているからでしょうか。ギターとアンプだけのテストでは、ハウリングは起きにくいマイクにように思いました。

(2)クラシックギターでの使用

・内蔵マイクの付いていないクラシックギターには、外付けマイクが有効です。

・録音で細かいニュアンスが伝わるかどうかですが、外付けマイク(ATM350GL)で聴くと、生音らしい切ない音がします。
(注)録音のゲイン設定を間違えました。音が小さいのはマイクやギターとは関係ありません。

(3)エレガットでの使用

・内蔵マイクと外付けマイクの比較については、上記サンプル音源を参考にしてください。素人演奏につき、あくまでも録音の確認に留めてください。

・内蔵マイクに関しては、あえて比較のために、コンデンサマイク50%、ピエゾマイク50%でブレンドしています。ピエゾマイクの比率を下げると、カンカンとアタック強く鳴る感じは抑えられ、外付けマイクの音に近づきます。

・外付けマイクの場合、試行錯誤の結果、思い切ってマイクをネックとボディの接続部上くらいまでズラしています。購入して、低音が立ち過ぎるなと感じたら、是非、サウンドホールから距離を取ってみてください。

・掲載した音源でニュアンスが伝わるか不安ですが、外付けマイク録音による、アタックの柔らかさや、電気色のない優しい音色に、嬉しくなります。病みつきになりそう。音ヌケやハウリングを気にしなくて良い環境ならば、充分に検討の価値ありです。

・今回、アンサンブルでの、外付けマイクの検証はできませんでした。ピエゾ併用の内蔵マイクと比較すると、当然、ハウリングには弱いはず。ハウリング防止装置が付いているアコースティックアンプを使うなどして、ギターとアンプのセットで加減を習得する必要があるでしょう。

■付記

今回、実験にあたり、audio-technicaさんのご協力を頂きました。ありがとうございます。
以上で、冷や汗かきながらの「ガットギター」連載の第1回を終わります。他所者ならではのガットギターネタ、ユルユルと紹介してゆきます。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です